NIDSコメンタリー 第458号 2026年10月16日 イエメン情勢クォータリー(2026年7月~9月)——「戦争でも平和でもない状態」の終焉と紅海安全保障の一層の不安定化
- 先進領域研究部防衛基盤研究室 研究員
- 𠮷田 智聡
エグゼクティブ・サマリー
- 7月のハーメネイー師国葬を引き金として、フーシー派とサウディアラビアの対立は急速に加速した。両者は4年ぶりとなる越境攻撃を行い、イエメン国内では同派と国際承認政府の陸戦が再び活発化した。9月までの主要戦線は、西海岸前線、タイズ県山中前線、マアリブ県前線であり、とりわけ同派が国民抵抗軍の本拠地モカを掌握したことが注目された。
- フーシー派は、サウディアラビアに対して経済問題等を含む「人道ファイル」の解決を求めた。同派は復讐法的言説の下で、同国との交渉を進めたい思惑があると考えられる。その目標の実現にあたり、対サウディアラビア軍事戦略として等価報復戦略、対国際承認政府軍事戦略として予防戦略が採用されている。紅海およびバーブ・マンデブ海峡に対する圧力強化は、イエメン内戦をめぐる駆け引きだけでなく、ホルムズ海峡を封鎖するイランとの連携という側面もある。また、同派とソマリア沖海賊の連携も指摘されており、紅海周辺海域の不安定化が進行した。
- アリーミー政権派やサウディアラビアは国際社会に対してフーシー派の脅威を警告し、政権に有利な言説を形成しようとした。国際社会からは政治レベルでの支持を得られた一方、米国はサウディアラビアからのフーシー派空爆要請に応じなかったとされる。
- 南部移行会議は、南部分離主義を抑え込みたいサウディアラビアに警告を発しつつも、フーシー派との連携の可能性については否定した。同組織の南部実地での影響力は保持されている。
(注1)本稿のデータカットオフ日は2026年9月30日であり、以後に情勢が急変する可能性がある。
(注2)フーシー派は自身がイエメン国家を代表するとの立場をとるため、国家と同等の組織名や役職名を用いている。本稿では便宜的にこれらを直訳するが、これは同派を政府とみなすものではない。
国内戦況全般:モカ陥落の衝撃とエネルギー安全保障の不安定化
イエメン内戦は、前四半期に指摘した「戦争でも平和でもない状態」の中での緊張の高まりから、4年間抑え込まれてきた全面的な軍事衝突(「戦争でも平和でもない状態の終焉」)に回帰した。筆者は3年以上にわたり「イエメン情勢クォータリー」シリーズで同内戦を定期的に分析し、急激な情勢変化1が生じた場合には別途レポートを公表してきたため、過去の経緯などはそれらを参照されたい[11頁~12頁「バックナンバー」参照]。
フーシー派の戦略目標は、サウディアラビアから譲歩を引き出すという点で一貫しており、そのための軍事戦略は国外(対サウディ)と国内(対国際承認政府)で分かれる。ここで言う譲歩とは、同派交渉団代表ムハンマド・アブドゥッサラーム(Muḥammad ‘Abd al-Salām)が明示したように、空港・港湾の封鎖解除や同派公務員に対する給与支払い等を含む「人道ファイル(al-milaff al-insānī)」の解決を指す。そして同派は7月13日のサナア国際空港空爆をサウディ軍によるものであり、これを「戦争でも平和でもない状態」の終焉とみなして、以降自派が攻撃を受けた拠点と等価となるサウディ国内の拠点攻撃を開始した。「封鎖には封鎖を、空港には空港を」という復讐法的なレトリックに示される通り、サナア国際空港空爆に対する報復対象は、サウディ南部のアブハー国際空港となった。さらに同派はサウディによる対イエメン経済封鎖が続いていると主張したうえで、その報復として紅海方面におけるサウディ船舶の通航禁止を宣言した。このほかに、同派防空部隊によってサウディのUAVやF15戦闘機が撃墜された。
サウディとの交渉の余地を残すために等価報復戦略が採用される一方、イエメン国内で対峙する国際承認政府へのフーシー派のアプローチは、対照的である。同派は「敵の勢力結集に対する予防措置」を宣言し、先制攻撃を展開した。これはイエメン国内の戦況を自派に一層有利なものとすることで、サウディの意思を挫き、譲歩を引き出す狙いがあると考えられる。対する国際承認政府は、「完全抑止(al-rad‘ al-mutakāmil)」を掲げて応戦した。以下では、本四半期末時点の主要3前線の動向を示す。
①西海岸前線
紅海に面する西海岸地域(al-sāḥil al-gharbī)は、フーシー派が支配するイエメン最大の港湾都市ホデイダに加え、同派と敵対する国民抵抗軍が司令部を置くモカが所在することから、最重要の前線とみなされてきた[図1参照]。ホデイダ一帯の港は同派の主要な密輸ルートの1つであり、国民抵抗軍の影響下にある国際承認政府側沿岸警備隊(紅海管区)は、度々密輸を摘発してきた。
9月3日にフーシー派は、西海岸前線で大規模攻勢(「神は誠に力においてより強く、懲罰においてより厳しい」作戦)を開始した。他方で国際承認政府は、主力の国民抵抗軍3個師団に加え、巨人旅団第2師団隷下部隊と祖国の盾第1師団隷下部隊も展開して応戦した。また、国民抵抗軍最高指導者ターリク・サーレハ(Ṭāriq Muḥammad Ṣāliḥ)や祖国の盾参謀総長アブドゥッラフマーン・ラヘジー(‘Abd al-Raḥmān al-Laḥijī)が現地入りし、士気向上にも努めた2。これらの部隊は防御戦闘から反攻に転じ、同月5日にホデイダ県南端のハイス地区を制圧した後、北方ジャッラーヒー方面に前線を押し上げていた。この反攻は、フーシー派の西海岸地域中枢であるホデイダ市方面へ圧力をかけることで、東方側面のタイズ山中前線における同派の圧力を減殺することを目的としていたとみられる。しかし、後述する通り同派がタイズ山中前線でカドハを掌握するなど大きな進展を見せ、タイズ・モカ間の地上連絡線(GLOC)を遮断したことで、形勢は逆転した。同派は山中の部隊をモカ方面へ西進させ、9月9日にモカの東部防衛拠点ともいえる「ハーリド基地」を奪取した。モカ以北の国際承認政府系部隊は包囲される可能性が高まり、9月10日に撤退を開始した結果、同日にモカが陥落した。
モカ制圧後、フーシー派はズーバーブ方面に南進し、旧南イエメン領のラヘジュ県西端の高地一帯を抑えた。平野部であるモカ等の西海岸地域は防衛線を展開することが難しい地形であるため、カフブーブ前線と呼ばれるこの高地は、同派にとって新規に奪取したタイズ県沿岸地域の防衛拠点としての意味を持つ。国際承認政府は部隊再編を図り、潰走した国民抵抗軍に代わり、巨人旅団や祖国の盾が主力となって応戦しているとみられる。さらにラヘジュ県出身の副大統領マフムード・スバイヒー(Maḥmūd al-Ṣubayḥī)が前線入りして、士気向上が図られた。
【図1:西海岸前線におけるフーシー派と国際承認政府の動き】
(注)大まかな部隊の動きを示したものであり、網羅的なものではない。
(出所)Google Mapsに筆者加筆。
②タイズ山中前線
前述の通り、9月3日から同月11日にかけての大規模攻勢により、フーシー派はカドハ等のモカ・タイズ間を結ぶGLOCの遮断に成功した。同派はタイズ市以南に残る国際承認政府側支配地域の掌握を目指し、戦闘を展開した。特にアデン・タイズ間のGLOC遮断を目的として、トゥルバ方面への攻撃を強化したが、国際承認政府側部隊が押し返した。国際承認政府側は軍種横断的な任務部隊である「タイズ枢軸」に加え、国民抵抗軍第4師団隷下第42歩兵旅団がジャルダード山方面で、国民抵抗軍第3師団隷下第35歩兵旅団がハイファーン方面で戦闘した3。また、大統領指導評議会に加わっていない親政権派民兵(PGM)「最高人民抵抗評議会」は、総動員令を発出してフーシー派に対抗する構えを示した。最高人民抵抗評議会の最高指導者ハンムード・ミフラーフィー(Ḥammūd al-Mikhlāfī)は、タイズ県の名士であり、「イエメンのムスリム同胞団」と呼ばれるイスラーハに近い人物である。なお、ミフラーフィーはイスタンブールを拠点としており、最高人民抵抗評議会はトルコからの支援を受けているという見方がある。
【図2:タイズ山中前線におけるフーシー派と国際承認政府の動き】
(注)大まかな部隊の動きと支配地域範囲を示したものであり、網羅的なものではない。
(出所)Google Mapsに筆者加筆。
フーシー派にタイズ県全土を掌握する意図があるという点は、おおよそイエメン研究者に共通する見方である一方、同県全土制圧に成功した場合に、その後旧南イエメン地域にまで進攻するか否かという点は、見立てが分かれている。旧南イエメン地域への進攻に否定的な見解を取る立場は、同地域における北部勢力に対する忌避感や抵抗の強さを指摘する。筆者自身も、フーシー派が南部を中長期的に支配できないという見解には同意する。他方で、同派が既にモカ支配のために旧南イエメン地域であるラヘジュ県カフブーブに防衛線を展開したように、タイズ県支配固定化のために越境する可能性や、国際承認政府の中枢破壊を目的としたアデン攻撃の可能性は排除されるべきではない。今般の同派の戦略目標はサウディから譲歩を引き出すことにあるため、後述するマアリブとともにアデンを攻撃することは同国を脅迫するための強力な材料となり得る。
③マアリブ前線
フーシー派は、旧北イエメン地域における国際承認政府の「最後の砦」ともいえるマアリブ県県都マアリブ市方面に攻勢をかけた。主要道路3方面からの攻勢は、国際承認政府側諸部隊の防御によって食い止められており、前線は概ね膠着の様相を呈しつつある。マアリブ県は、国際承認政府の中でも副大統領スルターン・アラーダ(Sulṭān al-‘Arāda)の本拠地であるほか、正規軍が第3、第6、および第7軍管区司令部を置く。また、マアリブ市から約70km東方にはサーフィル油田が所在し、フーシー派としては国際承認政府の政治・軍事・経済中枢に打撃を与えたい思惑があると考えられる。国際承認政府としては、首都サナアに最も近い本前線を押し上げたいものの、同市以西に広がる高地は同派に有利な環境をもたらしている。
【図3:マアリブ前線におけるフーシー派と国際承認政府の動き】
(注)大まかな部隊の動きを示したものであり、網羅的なものではない。
(出所)Google Mapsに筆者加筆。
マアリブ県は、イエメン内戦勃発後から国内避難民(IDP)を受け入れてきた経緯がある。今般の衝突で新たにIDPが増加しただけでなく、IDPのキャンプにも被害が生じた。さらにイエメンからジブチに約3,000名の難民が発生しており、人道被害の拡大が懸念される4。
フーシー派:国内治安統制の成功
フーシー派はモカ北西に位置するハニーシュ群島やズカル島、およびバーブ・マンデブ海峡の間に浮かぶマイユーン島(ペリム島)にも進攻し、同海峡への影響力を一層強めた。イエメン内戦の文脈では、これはサウディに対して同派が譲歩を迫るための手段であるが、それと同時にイランとの連携という側面も無視されるべきではない。イランはホルムズ海峡の開放/閉鎖および「抵抗の枢軸」諸組織との連携を通して、中間選挙を控えるトランプ政権への経済的圧力を継続している。イラクの親イラン系武装勢力は、ホルムズ海峡の代替路として機能するサウディ東西パイプラインを攻撃したとみられ、この攻撃によりパイプラインが一時稼働停止に追い込まれた5。フーシー派は「通航禁止措置はサウディのみに適用されており、国際通航を妨げていない」旨を主張している一方、ヤンブー港やアラムコ社施設を攻撃しており、原油価格の重石となっている。
国際承認政府が副大統領や国防大臣、参謀総長等の要人を公の場に出しているのに対し、これらに相当するフーシー派の高級幹部は消息を絶っている。彼らの発言は国営通信等の声明で発表されるのみであり、県知事等の中級幹部の動静が写真・映像付きで報じられた。これはサウディや国際承認政府、あるいはイスラエルや米国による斬首を警戒しているためと考えられる。この文脈に関連して、同派はマスカットで米国と秘密協議を行ったとみられ、その際に米国に対して戦闘の意思がない旨を伝達したとされる6。米国はサウディや国際承認政府の空爆要請に応じなかったため、結果として米国の本格的な参戦を回避することに成功した7。
国際承認政府との戦闘において、フーシー派は比較的簡素なUAVを多用していると思われる。例えば、実際に使用が確認されたUAV「ルジューム」は直径150cmのヘキサコプターであり、航続距離10km、ペイロード40kgである8。同派はISRおよび攻撃用途でルジュームを運用しており、航続距離に鑑みると前線に比較的近い地点から発射していると考えられる。また、同派は本四半期から電磁妨害を受けず、探知が難しい光ファイバーFPVドローンを新たに実戦運用し始めた。国際承認政府側軍は同派側軍に比して大規模な部隊行動を取る傾向にあり、同派はUAVやミサイルで集結した兵員や車輛を標的としている。このほかに、同派が公開した作戦映像を見るかぎりでは、地上部隊は無反動砲や重迫撃砲を用いている一方、国民抵抗軍等が多用する多連装ロケット砲や榴弾砲の使用は見られなかった9。
支配地域内の住民による蜂起は、フーシー派にとって国際承認政府との軍事衝突以上の脅威となり得る。そして本四半期は、与党「国民全体会議(GPC)」の結党記念日(8月24日)や、北イエメン共和制革命記念日(9月26日)など同派に対する反発が高まるイベントが連続した。支配地域内では経済状況等に対する不満が高まっているのは事実である一方、政党や部族の離反といった具体的かつ組織的な行動は見られなかった。その要因としては、11年以上にわたる統治の過程で同派が政敵の排除を進めたことや、内務省傘下治安部隊による統制が効いていることが考えられる。統制に関連して、内務省はソーシャル・メディア上で頻回に啓発動画を公開し、フリーダイヤル経由での通報を推奨した。統制強化は新規に制圧したモカ等の地域にも適用されており、治安部隊の検問活動が確認された。
国際的にはエネルギー市場への影響が注目を集める一方、今般の衝突再開がイエメン内戦の和平交渉に与える影響はそれ以上に深刻である。国連事務総長イエメン担当特使ハンス・グルンドベリ(Hans Grundberg)が述べた通り、4年以上にわたり続いてきた相対的な落ち着きは終わりを告げた10。イエメン内戦のもう1つの仲介者であるオマーンについても、7月23日には外務省がエスカレーション回避に取り組んでいることを明かした一方、その後具体的な進展は見られていない11。国内外両方で激しい軍事活動が続くかぎり、和平交渉の進展は見込み難い。
今後の展望は、サウディがどのようにフーシー派の要求に対処するかが重要となろう。前述の通り、同派は人道ファイルの解決を求めてサウディに等価報復戦略を採用しつつ、交渉における優位性を高めるために国内で国際承認政府との戦闘を進めている。しかし、サウディはデータカットオフ日(9月30日)時点で要求に応じていないため、同派は戦略目標を達成できなかった。米国からの支援が得られない中、同国は空爆や将校派遣に加え、多国籍海上防衛同盟やマッカ共同防衛同盟などの地域諸国との協力を推進しており、多国間連携を通した同派の脅威への対抗を目指した。
アリーミー政権派:UAV戦力による想定以上の善戦
大統領ラシャード・アリーミー(Rashād al-‘Alīmī)は、9月25日に総動員を呼びかけた12。前述のスバイヒーやアラーダ、サーレハに加え、副大統領ウスマーン・ムジャッリー(‘Uthmān al-Mujallī)が郷里サアダ県の部隊を視察した。これまで国際承認政府の主要幹部はリヤドに滞在したまま指示を飛ばしてきたため、「ホテル政府(ḥukūma al-fanādiq)」と揶揄されてきたが、そうした印象を払拭しようとする姿勢が窺われる。
国際承認政府は、モカ陥落という敗北を喫したものの、西海岸前線を除けば当初予期された以上に善戦した。フーシー派が軍事的に優越していることは周知の事実である中、国際承認政府側軍はUAV「アイバーン」および「ヌクム」の保有を新規公開したうえで、UAV戦力を積極的に運用した13。同軍が公表した映像などを観るかぎり、フーシー派の防御陣地に侵入して攻撃を行うなど、UAVは一定程度の戦果を挙げているように見受けられる。
陸上戦闘においては、各地域を所掌する正規軍軍管区部隊に加え、国防省の下で指揮命令系統の統合が目指される各武装組織が各地域で戦闘している[表1参照]。戦闘行為が確認された部隊の内、イエメン緊急隊は主に北端地域、巨人旅団は旧南イエメン地域、祖国の盾は旧南北問わず展開する傾向にある。こうした部隊配置は各部隊所属者の出身傾向などに左右されており、兵員の郷土防衛・奪還という点で士気向上に資するほか、作戦地域周辺に親族等が居住しているという点で諜報活動にも利する。
【表1:戦闘行為が確認された国際承認政府系部隊一覧】
| 役職 | 名前 | 経歴等 |
|---|---|---|
| 祖国の盾 | 第1師団(旅団不明) | ダーリウ県 |
| 第1師団第1旅団 | ラヘジュ県(カフブーブ) | |
| 第1師団第3旅団 | ラヘジュ県(カフブーブ) | |
| 第1師団第5旅団 | ラヘジュ県(カフブーブ) | |
| 第1師団第6旅団 | タイズ県(ワーズィイーヤ) | |
| 第2師団第6旅団 | サウディアラビア側国境地帯(ワディーア) | |
| 第3師団第2旅団 | ジャウフ県(マラーズィーク) | |
| 第3師団第3旅団 | ラヘジュ県(カフブーブ) | |
| 第3師団第4旅団 | ジャウフ県西部 | |
| イエメン緊急隊 | 第1師団(旅団不明) | マアリブ県(サニーヤ基地) |
| 第2師団(旅団不明) | サアダ県 | |
| 第3師団第2旅団 | ジャウフ県 | |
| 第4師団(旅団不明) | サアダ県(キターフ) サアダ県(ブクウ) |
|
| 第6師団(旅団不明) | サアダ県(マッラーン) | |
| 第7師団第3旅団 | ジャウフ県(ハズム市東部) | |
| 第7師団第8旅団 | ジャウフ県北部 | |
| 国民抵抗軍 | 第3師団第35歩兵旅団 | タイズ県(ハイファーン) |
| 第4師団第42歩兵旅団 | タイズ県(ジャルダード) | |
| 不明 | ラヘジュ県(カフブーブ) ラヘジュ県(マダーリバ) タイズ県(ワーズィイーヤ) |
|
| 巨人旅団 | 不明 | ラヘジュ県(カフブーブ) タイズ県(ワーズィイーヤ) シャブワ県(バイハーン) バイダー県 |
| 正規軍 | 第3軍管区隷下部隊 | マアリブ県南部 |
| 第4軍管区隷下部隊 | タイズ県西部(カドハ) | |
| 第5軍管区隷下部隊 | ハッジャ県(アブス) | |
| 第6軍管区隷下部隊 | マアリブ県北部(ラグワーン等) ジャウフ県(ハズム市東部) |
|
| 第7軍管区隷下部隊 | マアリブ県北西部 |
(注)報道等で確認できた部隊を記しており、網羅的なものではない。
(出所)各種報道を基に筆者作成
国際承認政府は想定以上に善戦している一方、当然課題も存在する。その最たるものは、政府内の連携不足や相互不信である。同政府は反フーシー派の連合体であり、内部対立は依然として解消されていない。既に批判されている通り、西海岸前線やタイズ県山中前線で激しい衝突が起きる中、ハッジャ県やサアダ県の前線における同政府側部隊の行動は限定的であった。フーシー派の戦力集結を防ぐという点から、全前線同時での作戦が然るべき軍事戦略として度々報じられてきたにもかかわらず、実際には北方諸県に展開する同派部隊の西海岸前線やタイズ県山中前線への増派を許している。
国民抵抗軍:モカ敗戦もサーレハの地位は継続か
前述の通り、国民抵抗軍は西海岸前線で大敗を喫した。500名超14の死者を出したこの戦闘では、同軍第1師団司令官ファールーク・ハウラーニー(Fārūq al-Khawlānī)が捕虜となったほか、第5師団司令官アディー・イマード(‘Adī al-‘Imād)が負傷、同軍隷下共和国防衛隊第13旅団司令官ムハンマド・マクサア(Muḥammad Maqṣa‘)が死亡したとみられる。第1師団司令官は前四半期6月に前司令官ヤヒヤー・ワヒーシュ(Yaḥyā al-Waḥīsh)の死亡により交代したばかりであった。これらの被害を受け、サーレハは同軍第1師団および第2師団を独立させ、ティハーマ抵抗軍として再編成させた。また、一部部隊の立て直しが進められたとみられ、9月下旬にはカフブーブ方面等での作戦にも参加した。
国民抵抗軍が果たしてきた役割は陸戦だけではなく、諜報活動と海上活動が挙げられる。国民抵抗軍は「400部隊」と呼ばれる諜報部隊を有しており、7月にはアデンでフーシー派のセルを拘束した15。海上活動については、国民抵抗軍の海上部隊や、同軍の影響下にある紅海管区沿岸警備隊が密輸摘発を担ってきた。本四半期においても、これらの部隊はイラン製UAV部品等を押収したうえ、同派のUSVを破壊するなど海戦にも従事した。モカ敗戦後にこれら海上戦力による活動は報告されておらず、どのような状況にあるかは不明である。沿岸警備隊長官ハーリド・カムリー(Khālid al-Qamlī)は、フーシー派の密輸船が紅海沿岸で追跡装置を消さずに公然と航行するようになったと述べており、密輸が活発化している可能性は高い16。
9月26日、サーレハは有志連合軍司令官ファハド・サルマーン(Fahd al-Salmān)とリヤドで会談に臨んだ17。モカ敗戦後初の公の動静報道となったこの会談では、サルマーンが大統領指導評議会におけるサーレハの役割に謝意を伝えるなど、国民抵抗軍やサーレハに肯定的な姿勢が示された。これはサーレハが政治・軍事指導者としての地位を保持する可能性を示唆している。
南部移行会議・南部分離主義:サウディ批判もフーシー派との連携は否定
前四半期に「南アラビア移行評議会(al-Majlis al-Intiqālī al-Janūbī al-‘Arabī, South Arabian Transitional Council)」に改称した南部移行会議は、本四半期も幹部の人事再編を進めた。南部実地では抗議活動を扇動するなど、同組織は一定程度の政治的影響力を保持しているとみられる。また、9月上旬に国防大臣ターヒル・ウカイリー(Ṭāhir al-‘Uqaylī)がラヘジュ県を視察した際、南部分離主義者とみられる一団がウカイリーの車列を包囲するなど、地域レベルでのアリーミー政権派や北部勢力に対する反感も根強い。他方で、親サウディに転向した巨人旅団の軍事活動を「南部軍」の功績として報じるなど、南部移行会議の軍事組織としての能力は大きく削がれたままであると考えられる18。
南部移行会議議長アイダルース・ズバイディー(‘Aydarūs al-Zubaydī)の活動が低調な中、同組織の方針や見解は主に外務特別代表アムル・ビード(‘Amr al-Bīḍ)によって伝えられている。まず、「非暴力エスカレーション・プログラム」と呼ばれる南部での抗議活動に関して、ビードはサウディによる鎮圧に警告を発した19。現時点では南部移行会議はサウディとの軍事的エスカレーションを望んでいないものの、鎮圧が続く場合には起き得るとの見解が示された。ビードが今年1月のサウディによる南部移行会議系部隊の攻撃を「戦略的過ち」と表現した通り、同組織はサウディ批判を強めている一方で、公には(サウディを共通の敵とした)フーシー派との連携には否定的である。ビードはABCニュースの取材に対して、「フーシー派が南部に侵入するのであれば、我々は防衛しなければならない」と述べた20。しかし、南部移行会議はかつてマアリブが陥落しかけた際に、フーシー派との協議の可能性を仄めかしたことがあり、情勢次第では水面下の取引が行われる可能性を排除すべきではないと考えられる。
過激派:シャバーブ戦闘員の参戦?
9月6日に国民抵抗軍が公表した情報によれば、ソマリアの過激派「シャバーブ」の構成員がフーシー派側で戦闘に加わり、西海岸前線で死亡した21。公開された映像はモザイク処理が施されており、シャバーブであることを特定することはできない。しかし前四半期のクォータリーでも指摘した通り、ガザ戦争以降フーシー派と(従来敵対関係にあった)AQAPやシャバーブの連携が強まっている。本四半期8月の国連報告書によれば、シャバーブの構成員150名から400名程度が、同派の訓練を受けた22。
フーシー派と過激派の連携強化に加え、同派とソマリア沖海賊の関係構築が始まっている可能性についても、警戒が必要である。ソマリア沖海賊は、我が国を含む国際社会の取り組みによって抑え込まれてきたが、近年再活性化の兆しを見せている。ソマリア沖海賊対処に当たる欧州連合海軍部隊(アタランタ作戦)によれば、海賊事象は2025年に9件であったのに対して、2026年は9月24日時点で既に24件に達した23。その要因としてショラ・ラワール(Shola Lawal)は、①2023年以降フーシー派の攻撃に対抗するために対海賊パトロール活動が紅海に流用されたこと、②対海賊パトロール活動がホルムズ海峡通航を試みる船舶の誘導に流用されたこと、③燃料価格の高騰に伴い、海賊にとって燃料タンカーの襲撃価値が上昇していることを指摘した24。プントランド海上警察当局によれば、フーシー派はソマリア沖海賊に最新鋭のGPS装置などを供与したとみられる25。
国際承認政府側の治安部隊「国家治安中央局(al-Jihāz al-Markazī li Amn al-Dawla)」は、ハドラマウト県サイウーンで「イスラーム国(IS)」報道官アブー・フザイファ・アンサーリー(Abū Ḥudhayfa al-Anṣārī)を殺害した26。イエメンではISよりもアル=カーイダ系のAQAPの方が勢力として大きいが、国家の統制が弱い南部や東部に(休眠セルを含めて)一定数が潜伏しているとみられる。
「イエメン情勢クォータリー」の趣旨とバックナンバー
アラビア半島南端に位置するイエメンでは、2015年3月からサウディアラビア主導の有志連合軍や有志連合軍が支援する国際承認政府と、武装組織「フーシー派」の武力紛争が続いてきた。イエメンは紅海・アデン湾の要衝バーブ・マンデブ海峡と接しており、海洋安全保障上の重要性を有している。しかしながら、イエメン内戦は「忘れられた内戦」と形容され、とりわけ日本語での情勢分析は不足している。そのため本「イエメン情勢クォータリー」シリーズを通して、イエメン情勢に関する定期的な情報発信を試みる。
◆ バックナンバー
- 𠮷田智聡「8年目を迎えるイエメン内戦-リヤド合意と連合抵抗軍台頭の内戦への影響-」『NIDSコメンタリー』第209号、防衛研究所(2022年3月15日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2023 年 1 月~3 月)-イラン・サウディアラビア国交正常化合意の焦点としてのイエメン内戦?-」『NIDSコメンタリー』第258号、防衛研究所(2023年4月20日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2023 年 4 月~6 月)-南部分離主義勢力の憤懣と「南部国民憲章」の採択-」『NIDSコメンタリー』第266号、防衛研究所(2023年7月18日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2023年7月~9月)-和平交渉の再開とマアリブ県で高まる軍事的緊張を読み解く-」『NIDSコメンタリー』第281号、防衛研究所(2023年10月19日).
- ———、清岡克吉「イエメン情勢クォータリー(2023年10月~12月)-国際社会に拡大するフーシー派の脅威と海洋軍事活動の活発化-」『NIDSコメンタリー』第295号、防衛研究所(2024年1月26日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2024年1月~3月-10年目を迎えたイエメン内戦とフーシー派の支持拡大-」『NIDSコメンタリー』第308号、防衛研究所(2024年4月12日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2024年4月~6月)-フーシー派による軍事的エスカレーションの継続と国内統制の強化-」『NIDSコメンタリー』第341号、防衛研究所(2024年7月23日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2024年7月~9月)-「9月21日革命」10周年を迎えたフーシー派の新地平-」『NIDSコメンタリー』第356号、防衛研究所(2024年10月18日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2024 年10 月~12 月)-フーシー派の対外攻撃再拡大と中東情勢の変化による同派への影響-」『NIDSコメンタリー』第361号、防衛研究所(2025年1月24日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2025年1月~3月)-第2次トランプ政権の発足で変貌するイエメン情勢の景観-」『NIDSコメンタリー』第373号、防衛研究所(2025年4月28日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2025年4月~6月)-米国・フーシー派間の停戦とイラン・イスラエル間の停戦は何を変えるか-」『NIDSコメンタリー』第390号、防衛研究所(2025年7月25日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2025年7月~9月)-イスラエルの斬首作戦で猜疑心を強めるフーシー派-」『NIDSコメンタリー』第404号、防衛研究所(2025年10月21日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2025年10月~12月)-ガザ停戦を経て再駆動するイエメン内戦独自のダイナミクス-」『NIDSコメンタリー』第413号、防衛研究所(2026年1月16日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2026年1月~3月)-12年目を迎えたイエメン内戦に終結の兆しを見出すことはできるか-」『NIDSコメンタリー』第435号、防衛研究所(2026年5月19日).
- ———「イエメン情勢クォータリー(2026年4月~6月)-「平和でも戦争でもない状態」の中で徐々に高まる緊張-」『NIDSコメンタリー』第444号、防衛研究所(2026年7月10日).
Profile
- 𠮷田 智聡
- 先進領域研究部防衛基盤研究室 研究員
- 専門分野:
中東地域研究(湾岸諸国およびイエメンの国際関係・安全保障)、現代イエメン政治