NIDSコメンタリー 第453号 2026年9月11日 ジェンダー視点から捉えるC-UASと低空域安全保障 —— AIによる脅威認識と、誰の安全を守るのかという問い

特別研究官(国際交流・図書担当)付
岩田 英子

はじめに

近年、ドローンが急速に普及している。ドローンは軍事目的だけでなく、物流、撮影、災害対応、インフラ点検など、私たちの生活に近いところでも使われるようになった。

一方、安価で簡単に使えるドローンは、新しい脅威にもなっている。例えば空港の近くにドローンが侵入すれば、航空機の運航を止めなければならない場合がある。防衛施設や発電所などの重要施設に侵入すれば、偵察や攻撃に利用される可能性もある。

そこで重要になっているのが、対無人航空機システム(Counter- Unmanned Aircraft Systems:C-UAS、以下、C-UAS)である。

C-UASというと、ドローンを発見して撃ち落とす技術を想像するかもしれない1。しかし、現在のC-UASはそれだけではない2。レーダーやカメラなどのセンサー、電子戦、人工知能(Artificial Intelligence:AI、以下、AI)などを組み合わせて、「空を飛んでいるものは何なのか」「危険なのか」「どのように対応すべきなのか」まで判断する仕組みへ発展している。

そこで新しい問題が生まれる。AIは、何を「危険」と判断するのだろうか。

本稿では、この問題をジェンダー視点から考える。ここでいうジェンダー視点とは、女性だけを対象にする考え方ではない。性別だけでなく、年齢、職業、経験、文化、社会的な立場などによって、人々が同じ出来事から受ける影響が違うことに注目する考え方である。つまり、「誰の安全を守るのか」「誰の経験や知識が判断に使われているのか」を問い直す視点である3

C-UASは「撃ち落とす技術」から「判断を助ける技術」へ

以前のC-UASでは、敵のドローンを発見して無力化することが主な目的だった。

しかし、現在は違う。都市や空港の周辺には、さまざまなドローンが飛ぶ可能性がある。撮影用かもしれない。災害調査かもしれない。物流用かもしれない。もちろん、偵察や攻撃を目的としている可能性もある。

そのため、発見しただけでは十分ではない。AIなどを使って飛行経路、高度、速度、行動パターンなどを分析し、「これは何なのか」「危険なのか」「誰が対応すべきなのか」まで考える必要がある4。つまりC-UASは、単なる探知・迎撃システムから、意思決定を助けるシステムへ変わりつつあるのである。

AIは、本当に正しく「危険」を判断できるのか

AIは大量の情報を人間より速く処理できる。しかし、AIが自分で「危険とは何か」を決めているわけではない。AIの判断は、どのようなデータを学習させたのか、何を異常と定義したのか、開発者が何を目的として設計したのかによって変わる5

例えば、過去の危険なドローンの飛び方をAIに学習させたとする。すると、それと似た飛び方をするドローンを「危険」と判断するかもしれない。しかし実際には、報道、災害調査、インフラ点検など、通常とは違う飛び方をする正当な理由があるかもしれない。

そこで重要になるのがジェンダー視点である。「誰の行動を普通としてAIに学習させたのか」「誰の経験がデータに入っているのか」「誰の安全を守ることを目的としているのか」と問い直す。

ジェンダー視点を使う意味は、女性に関するデータを追加することではない。AIが見落としているものを、人間が別の角度から探すことにある。

防衛技術だけではない――空港や社会を守るC-UAS

C-UASは防衛施設を守るだけの技術ではない。

例えば空港にドローンが侵入すると、航空機が飛べなくなる可能性がある。その影響を受けるのは航空会社だけではない。旅行者、空港で働く人、物流会社、周辺住民など、多くの人々に影響する。

ただし、防衛施設と民間空港では対応方法が違う。防衛環境では敵のドローンを無力化することが重要になる6。一方、民間空港では通信や航空機、周辺住民への影響も考えなければならない7

そのため、防衛技術をそのまま民間社会へ持ち込むことはできない。政府、自衛隊、警察、空港、企業、自治体などが、それぞれの知識を持ち寄る必要がある。

「ドローンを止める」から「社会を守る」へ

ここまで考えると、C-UASの目的は単にドローンを撃ち落とすことではないことが分かる。大切なのは、予想外の出来事が起きても、社会の重要な機能をできるだけ維持し、状況に適応して回復することである。これをレジリエンスという。

しかし、同じ危機でも全員が同じ影響を受けるわけではない。例えば空港が閉鎖された場合、観光客と、緊急の医療目的で移動する人では影響が違う。高齢者、子ども、障害のある人、空港で働く人、周辺住民でも違う。

だからこそ、「誰の安全を守っているのか」を考える必要がある。これが、ジェンダー視点からC-UASを考える重要な理由である。

日本に必要なこと

日本でも、C-UASを単なる防衛装備として考えるだけでは十分ではない。空港、重要インフラ、都市などを含めた「低空域の安全」を考え、防衛、警察、航空、自治体、企業などが協力する必要がある。

また、AIの性能を上げるだけでなく、AIが間違ったときに人間が修正できること、なぜその判断をしたのか確認できることも重要である8

そして、「誰の情報が使われているのか」「誰の安全が考慮されているのか」を問い続ける必要がある。

ジェンダー視点は、そのための一つの方法である。

おわりに

AIは、人間より速く大量の情報を処理できる。しかし、AIだけで「何が危険なのか」「誰を守るべきなのか」を決めることはできない。

C-UASが高度になるほど、人間にはAIの判断をそのまま受け入れるのではなく、「AIは何を見ているのか」「何を見落としているのか」「誰の安全を守ろうとしているのか」と問い直す力が必要になる。ジェンダー視点は、そのための視点の一つである。

AIが脅威を発見し、人間がその意味を考え、さまざまな組織が協力して社会を守る。C-UASをそのような仕組みとして考えることが、AI時代の低空域安全保障には必要になるだろう。

Profile

  • 岩田 英子
  • 特別研究官(国際交流・図書担当)付
  • 専門分野:
    グローバルガバナンスと包摂的レジリエンス、軍事組織でのジェンダー視点のインパクト