NIDSコメンタリー 第446号 2026年7月17日 ロシア・ウクライナ戦況メモ 2026年4~6月
- 地域研究部 米欧ロシア研究室長
- 山添 博史
ロシア軍がドネツク州で攻勢、ウクライナ軍の阻止成功と危機
本稿は2022年2月以来のロシア・ウクライナ戦争において2026年4月~6月の期間の主な推移を扱う1。ロシア軍は引き続き主要な攻撃の場所を選び、ウクライナ軍に防衛を強いたが、この期間のウクライナの防衛作戦の効果が高く、ロシア軍が目指す目標にはまだ遠い段階だった。
ロシア軍は、引き続きウクライナ軍による15km以上の「キルゾーン」(ドローン等による索敵・攻撃の効果が高い地帯)に直面し、榴弾砲やドローンを利用してウクライナの防御能力を削ぎながら、歩兵による浸透作戦で前線を押していく試みを継続した。少人数のロシア歩兵が見つかりにくいところを前進するが、その多くはウクライナに見つかり攻撃されて死傷し、わずかな歩兵が生き残る。それですぐには面を制圧してウクライナ軍の前線を後退させることはできず、戦闘地帯でロシア兵の拠点とウクライナ兵の拠点が入り乱れる状態が長く続く(今回の地図では、戦争研究所ISWの評価に基づき、橙色で浸透作戦地域を示す)。ロシアが制圧線を前進させる頃には多くの死傷者を出している。ウクライナ政府は、映像で確認された2026年4月のロシア軍の死傷者が3万5千人を上回り、5カ月連続で補充可能数を上回る損耗になっていると主張した2。
ロシアの損耗の数値自体を正確に検証することは困難だが、実態がこれに近い状況であればロシアの前進を可能にする能力は低下していくはずで、実際に画像などで検証できるロシアの制圧地は十分に増加していない。その結果、ロシアが前進を図った地域をウクライナが押し返して再確保する事例が増え、ロシアは面積の制圧という観点では十分な成果を得られなかった。戦争研究所(ISW)は、ロシアによる新規制圧面積も浸透面積も減少傾向にあり、2026年4月の制圧面積が2024年以来初めて減少に転じたと評価した3。分析グループDeepStateUAは、2026年5月のロシア軍は攻撃回数を増したものの戦術面で成果を出せず、初めてロシアによる制圧面積が減少したとの評価を示した4。これらは浸透作戦地域の扱いが異なっているが、ロシアの前進努力が制圧成果に至らず、ウクライナの防衛や反撃でロシアの攻撃地域が後退しているという点では共通する。
ウクライナのミハイロ・フェドロウ国防相は、5月27日に「兵站ロックダウン」の方針を発表した。ウクライナは20~300kmの中距離の打撃により前線への補給路のみならず、占領地奥深くの幹線道路も継続的に攻撃して物資輸送を妨害しており、さらにこれを可能にするドローン等の生産や運用の体制を強化するというものである5。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング主任研究員は、ウクライナが人員と指揮統制の問題をかなり改善したと指摘する。軍団(corps)の単位で複数の旅団を指揮しながら現場に即した訓練も実施し、待遇を改善し(給与向上、兵役期間限定)訓練期間を延長する改革を進め、2026年に入って前線部隊の兵員充足が安定化したという(脱走・疲弊の減少)。中距離打撃により敵の兵站を妨害し、歩兵・ドローン・火砲・装甲車両の統合指揮が向上して敵を捕捉・攻撃する成果が上がり、疲弊と損耗が減少している。これに対してロシア軍は兵員・下士官の質が不足し、技術力を現場で運用できず、現状把握に失敗し、損害が大きく成果が少ない戦闘を行っていると指摘する6。
そのような変化の結果、ウクライナの防衛はより有利になった。ザポリージャ州の南部からドネツク州の西部にかけて、ロシアが浸透作戦を試みていた地域のいくつかで前進を断念し、ウクライナ軍が再確保することができた。ハルキウ州南東部のクピャンスクでも、ウクライナは前年12月に奪回した地域を保持した。ロシア軍がドネツク州の主要都市スロヴャンスクに向かおうとする前線のリマンでは、ウクライナはロシアによる中心部への接近を長らく阻止してきた。
それでもウクライナが領土防衛を果たすには十分ではなく、ドネツク州の防衛にとって深刻な危機になっているのがコスチャンチニウカである。ロシア軍は数か月かけて東と南東からここに前進し、2026年6月には市中心部の東西を結ぶ幹線道路をほぼ制圧し、市街全体を攻撃対象とした。6月17日のDeepStateUAは、ロシア軍は市の北部の補給路を攻撃できる位置まで前進し、市街地(7万人規模)の大部分を破壊してウクライナの活動を困難にし、ウクライナ部隊は中部から南部にも留まっているものの戦闘員の人数が劣勢で補給も十分でなく、ポクロウスクから撤退した前例に近い事態に向かっていると指摘した7。6月末にも市内で戦闘は継続しており、ロシアはまだここで時間や人命を費やさなければならない。しかしウクライナも自身の損耗が大きくなりすぎると判断すれば防衛線を下げることになる。ロシアがウクライナによる妨害を排除してさらに前進できる段階になるならば、次の目標はすぐ北のドルジキウカであり、その先にあるウクライナのドネツク州最後の主要都市クラマトルスクとスロヴャンスクが存続の危機にさらされる展開になる。ロシアがそこに至る道をウクライナが阻むには、ウクライナが優位を得る改革を実現し続け、ロシアの問題を悪化させ続ける必要があり、ウクライナはそれを目指して行動している。
戦争継続の意思をめぐる競争
米国・ウクライナ・ロシアの三者会談が2月を最後に進展せず、ロシアがウクライナ攻撃を続ける間、ウクライナは断続的に停戦と交渉の呼びかけを行った。4月にキリスト教の復活祭を迎えるのに際して、ウクライナが一時停戦を主張し、ロシアが4月11~12日の攻撃停止の意図を述べたが8、その期間にも攻撃は行われた。ロシアが5月9日に予定する戦勝81周年を記念する行事に際して攻撃停止を求め、米国のドナルド・トランプ大統領が3日間の停戦をアナウンスし、ウクライナは5月9日にモスクワでパレードを許容し赤の広場を攻撃対象から除外する大統領令を出したが9、この期間にも前線近くで攻撃の発生が報じられた10。わずかに攻撃が減少した期間をのぞけば、ロシアは占領地を広げウクライナの人命・社会を破壊する軍事行動を続け、終結のための具体的な行動の姿勢を見せなかった。
この間、ウクライナはロシアの攻撃能力を削減するとともにロシア社会も動揺させるような形で反撃を強化していった。黒海沿岸のトゥアプセにある製油所等を4月の複数日にわたって攻撃し、大規模な火災や環境汚染が生じた11。6月3日にウクライナはサンクトペテルブルク近郊の石油関連施設を攻撃し、6月4日にヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がプーチン大統領への公開書簡の形で、ロシア社会にも戦争の負担が跳ね返ってきており、両国の損害を終わらせるために両国の大統領が停戦して第三国で話し合うべきと述べた12。6月18日にウクライナはモスクワの製油所をドローンで攻撃し、ゼレンスキー大統領はこれらの「長距離制裁」はロシアのウクライナ攻撃を可能にする施設への正当な応答であり、ロシアは戦争終結のための外交に動かなければならないと述べた13。これらはウクライナの長距離攻撃手段の生産能力の向上と、ロシアの防空能力の消耗による結果と考えられ、ロシアの多くの住民にも戦争が自分たちの生活に跳ね返ってきていることを可視化した。石油製品の生産能力が継続的に損害を受け、クリミア半島では一般車両へのガソリン供給が停止され、モスクワ等でもガソリン供給が制限される事態が生じた14。
ウクライナは協力国の間でも、一方的に支援を受ける従属国ではなく、自国の力でロシアに対峙して欧州全体の防衛力を高めるパートナーとして認識され、より有利な地位を得ている。G7サミットではウクライナの防衛で協力する立場が確認され、6月16日にトランプ大統領は戦闘終結のためにロシアはウクライナとディールをするべきだと述べた15。ホスト役で米国・ウクライナの対話を促進したフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、トランプ大統領はかつてウクライナが敗北すると考えていたが、現在は、ウクライナの力の増加、欧州諸国・カナダの国防強化、ロシアによる平和実現拒否を認識して、ウクライナとの協力に前向きに変化したと述べた16。NATOの対ウクライナ安全保障支援・訓練組織(NSATU)に日本が相互の防衛体制強化を意図して自衛官4名を派遣した17。一方で、ウクライナへの地対空ミサイルの供給が不足しており、ロシアが弾道ミサイル等を集中的に投入した場合に大きな脆弱性を抱えたままである。
ロシアは2025年初めから米国のトランプ政権に働きかけてきたが、西側諸国の協力関係を崩してウクライナの抗戦を断念させるという形での戦争終結には成功せず、ウクライナが2021年には存在しなかったロシアの社会生活への脅威をもたらせるほどに成長することを許した。前述のワトリング主任研究員は、ロシアが戦闘で得られる成果の見込みが低下するなか、ウクライナによる打撃によって大規模な動員も永続的な戦争継続もリスクが高くなっており、ウラジーミル・プーチン大統領の体制にとって戦闘停止がより低いリスクの選択肢として検討可能になっていると指摘する18。
それでも、プーチン大統領が十分な成果を得ずに戦争終結の方向に転換するには大きな政治的決断を必要とする。6月23日に彼は、問題の存在を認めながらも戦争継続の努力を強調し、ドネツク州コスチャンチニウカを実質的に制圧しつつあると主張した(その時点では、市内の確保にはまだかなり遠い段階だった)。ロシアが攻撃を継続していれば、ウクライナの優位をロシアが無効化して優位を得る展開の可能性もある。ロシアが民間主導のドローン開発やAI活用で成果を挙げてきているとも指摘されている19。ロシアは小規模な動員で兵力を追加し、終結を先延ばしする選択肢もある。ロシアが近傍のNATO加盟国に対応困難な攻撃を仕掛ける可能性も懸念されている。ロシアがもたらす安全保障問題はすぐには去らず、多くの国が長期的に資源を投入して対応力を高めていく必要があると議論されている。
Profile
- 山添 博史
- 地域研究部 米欧ロシア研究室長
- 専門分野:
ロシア安全保障、国際関係史