NIDSコメンタリー 第445号 2026年7月10日 米軍の募集・採用担当組織について——自衛隊地方協力本部発足20年の節目に
- 政策研究部軍事戦略研究室 主任研究官 1等海佐
- 大井 一史
はじめに
今年は、自衛隊地方協力本部が発足(2006年7月31日、地方連絡部から改編)して20年の節目に当たる。自衛官等の募集・採用を担当する地方協力本部は、昨今の激烈に厳しい募集環境の中で、相当な困難を余儀なくされている1。令和7年度における自衛官等採用数は前年度比1,453人、14.9%増の11,177人となったものの、計画達成率は72%にとどまっており、引き続き厳しい状況であることに変わりはない2。
米軍に目を転じると、ここ数年の間に現役兵士(active component)の募集・採用実績は大きく変化している(表)。例えば2023会計年度は全体で目標数159,569人、採用数133,975人、採用達成率は83.96%
表 米軍における近年の募集・採用実績
人員・即応性担当国防次官室報道発表資料(Press Releases, Office of the Under Secretary of War for Personnel and Readiness, https://prhome.war.gov/M-RA/Inside-M-RA/MPP/PR/)から執筆者作成。
(1973年の完全志願制導入以降最低)にとどまったのに対し、翌2024会計年度では全体の達成率は97.00%まで改善し、2025会計年度には100%超を達成している3。
本稿では、米軍が募集環境の変化に適切に対応して必要な人員を確保するため、どのような組織を構築し、どれだけの資源を投じているかについて考察する。規模の違いこそあれ、自衛隊地方協力本部に代表される防衛省・自衛隊の募集・採用担当組織の編制・運用を考える上でも、何らかの参考になるのではないだろうか。
組織・体制
● 募集に係る責任区分―国防長官と各軍種長官
米軍の募集に関しての責任と権限は、合衆国法典第10編において、陸軍長官・海軍長官・空軍長官が負うことと定められている4。各軍長官は、陸・海・空軍、海兵隊、沿岸警備隊及び宇宙軍の兵籍編入(enlistment)のための集中的な(intensive)募集キャンペーンを行う。国防長官は各軍が共同で又は個別に実施する募集プログラムの効果を高めるため、募集対象者や対象者に影響を与える人に対する宣伝と市場調査の積極的プログラムを継続的に実施する5。
● 募集政策と応募者の評価―国防長官府と米軍入隊処理コマンド
国防長官府(Office of the Secretary of War:OSW)においては、国防長官(Secretary of War:SOW)・国防副長官(Deputy Secretary of War:DSOW)の下に、人員・即応性担当国防次官(Under Secretary of War for Personnel and Readiness:USW(P&R))が置かれている6。USW(P&R)は、軍人・文民双方の国防省の要員全体に係る、募集を含む様々な人事施策の方針、計画及びプログラムを開発する7。USW(P&R)の下に軍人政策担当国防次官補代理(Deputy Assistant Secretary of War for Military Personnel Policy:MPP)が置かれ、当該次官補代理の下に人材獲得政策局(Accession Policy Directorate)が設置されている。人材獲得政策局の使命は、将校と兵士の募集と獲得、兵籍編入基準(enlistment standards)並びに選考手段(screening tools)、募集担当者による大学並びに高校へのアクセス及び募集資源の分析であり、加えて、米軍入隊処理コマンド(U.S. Military Entrance Processing Command:USMEPCOM)を監督して完全志願制の軍隊を維持することにある8。
USMEPCOMは、定められた国防省の基準を適用して入隊応募者を評価する統合コマンドであり、司令部はイリノイ州ノースシカゴに置かれている9。担当地域は東西二つのセクターに区分されており、各セクターはそれぞれ六つの大隊を傘下に置き、各大隊はそれぞれ5~6か所、合わせて65の入隊処理ステーション(Military Entrance Processing Station:MEPS)を指揮統制する10。人員としては、例えばイースタン・セクターだけで34のMEPSに1,300人を超える職員を擁している11。米軍の募集に係る政策と応募者の評価を担当する上記の組織を図式化すると、図1のとおりとなる。
図1 米軍の募集政策・応募者評価担当組織
各組織の公式ウェブサイト等から執筆者作成。
● 陸軍の募集担当組織
図2 米陸軍の募集担当組織
各組織の公式ウェブサイト等から執筆者作成。
陸軍においては、陸軍長官の下に人事・予備役担当陸軍次官補(Assistant Secretary of the Army Manpower & Reserve Affairs:ASA(M&RA))が置かれ、人事と予備役に関する陸軍省の事務を統括する12。陸軍コマンドとして米陸軍変革・訓練コマンド(United States Army Transformation and Training Command:T2COM)が設置され、陸軍種全体としての機能強化全般を担当している。T2COMの下に陸軍の募集専任部隊である米陸軍募集コマンド(United States Army Recruiting Command:USAREC)が置かれている13。
USARECは、陸軍の現役と予備役双方の人員確保の責任を負う。募集活動は国内に加え、プエルトリコ、バージン諸島、グアム、米領サモア、及びドイツとアジアの米軍施設において実施される。司令部はケンタッキー州フォートノックスに置かれ、400人を超える将校、兵士、文民要員により、募集部隊に対する指揮統制とスタッフ支援を提供する。USARECの下部組織には、第1、第2、第3、第5、第6募集旅団、医療募集旅団、市場関与旅団(Marketing and Engagement Brigade)がある。各募集旅団には最大8個、計44個募集大隊が所属する。各地域の募集大隊は担当地域の計261個の募集中隊を指揮する。募集中隊は約1万900人の募集担当官を擁する1,400を超える募集事務所の戦術統制を提供する。医療募集旅団は医療要員に加えて特殊部隊要員と従軍牧師要員の募集も担当し、5個医療募集大隊と特殊作戦募集大隊を擁する14。陸軍の募集を担当する上記組織を図示すると図2のとおりとなる。
● 海軍の募集担当組織
海軍においては、海軍人事部長(Chief of Naval Personnel:CNP)を長とする海軍人事局(Bureau of Naval Personnel:BUPERS)が置かれ15、その下に、海軍人事副部長(Deputy Chief of Naval Personnel:DCNP)が司令官を兼ねる海軍人事コマンド(Navy Personnel Command:NPC)が置かれている16。
海軍の募集専任部隊は、海軍募集コマンド(Navy Recruiting Command:NRC)であり、司令部はテネシー州ミリントンに置かれている。二つの海軍募集地域(Navy Recruiting Region)に区分され、隷下に合わせて26の海軍人材獲得グループ(Navy Talent Acquisition Group:NTAG)、海軍予備役募集コマンド(Navy Reserve Recruiting Command:NRRC)と募集学校(Recruiting School)を擁する。NRCは全体で6,000人以上の現役・予備役・文民要員・契約職員で構成され、そのうち約5,300人が全米各地に加え、グアム・プエルトリコ・米領サモア・日本・欧州にある総数1,000を超える募集事務所(recruiting station)に配置されている17。海軍の募集を担当する上記組織を図示すると図3のとおりとなる。
● 海兵隊の募集担当組織
海兵隊においては、海兵隊司令部(Headquarters Marine Corps)に人的資源・組織管理部(Human Resources and Organizational Management Branch)が置かれ、海兵隊の募集を含む人事施策に係る人材派遣、担当者の育成、組織管理の機能を担っている18。
図3 米海軍の募集担当組織
各組織の公式ウェブサイト等から執筆者作成。
海兵隊の募集専任部隊は、海兵隊募集コマンド(Marine Corps Recruiting Command:MCRC)であり、司令部はヴァージニア州クアンティコ海兵隊基地に置かれている。担当区域は計六つの地区隊(Marine Corps District)に区分され、地区隊の下には計47の募集事務所(Recruiting Station:RS)が、RSの下には計574の募集出張所(Recruiting Sub-Station:RSS)が置かれ、一部のRSSの下には更に常設連絡所(Permanent Contact Station:PCS)が置かれている。これら拠点において約3,000人の募集担当官が業務を行っている19。海兵隊の募集を担当する上記組織を図示すると図4のとおりとなる。
図4 米海兵隊の募集担当組織
各組織の公式ウェブサイト等から執筆者作成。
● 空軍・宇宙軍の募集担当組織
空軍においては、メジャーコマンドとして空軍教育訓練コマンド(Air Education and Training Command:AETC)が設置され、空軍の募集、訓練及び教育の任を担っている20。
空軍及び宇宙軍の募集専任部隊は、AETCの主要構成部隊である空軍募集サービス(Air Force Recruiting Service:AFRS)である。AFRSは2,862人の人員で構成され、司令部はテキサス州のサンアントニオ・ランドルフ統合基地に置かれている。AFRS隷下には3個募集グループ(Recruiting Group)が置かれ、その下に28個募集大隊(Recruiting Squadrons)が置かれている。その下で、全米各地に加えて、英国、ドイツ、イタリア、日本、プエルトリコ及びグアムにある計1,040の募集事務所に配置された、いずれも空軍募集学校(Air Force Recruiting School)での7週間の訓練課程を修了した約1,294人の募集担当官が業務に当たっている21。空軍・宇宙軍の募集を担当する上記組織を図示すると図5のとおりとなる。
図5 米空軍・宇宙軍の募集担当組織
各組織の公式ウェブサイト等から執筆者作成。
執行予算
米軍の兵員募集・採用に係る執行予算について見てみると、例えば、2025会計年度の募集・広告費(Recruiting and Advertising)の支出負担行為純額(net obligations)は、陸軍で7億6,546万5,000ドル、海軍で2億8,209万ドル、海兵隊で2億3,142万2,000ドル、空軍で1億9,742万2,000ドル、合計14億7,699万9,000ドルとなっている。これと別に空軍予備役で1,020万8,000ドル、空軍州兵で4,828万6,000ドルが計上されており、これも合わせると15億3,489万3,000ドルが支弁されている。このほかに、採用に伴う審査費(Examining)として、陸軍で2億250万5,000ドル、空軍で775万2,000ドルが計上されており、総計17億4,515万ドルとなっている22。これとは別に、USMEPCOMの2025会計年度の予算規模は4億3,219万ドルとなっている23。
おわりに
このように米軍では、兵員募集・採用のために非常に大きな組織を構築し、多くの人員を配置し、膨大な予算を充てていることが見て取れる。こうした組織が、募集環境の変化にも柔軟かつ迅速に対応し、必要な人材の確保のためにかなり有効に機能し得るであろうことは想像に難くない。翻ってみると、全体の規模の違いはあるにせよ、地方協力本部に代表される防衛省・自衛隊の募集・採用担当組織や予算規模は、その任務の重要性に見合った十分なものとなっていると言えるであろうか。我が国でも今後一層進むであろう少子高齢化による募集対象年齢層の人口減少を見据えて、その在り方について更に検討を深める時期が来ていると言えよう。
Profile
- 大井 一史(かずなお)
- 政策研究部軍事戦略研究室主任研究官 1等海佐
- 専門分野:
軍事社会学