NIDSコメンタリー 第432号 2026年4月24日 シャッターコントロールを超えて——公開情報分析の可能性と限界――無償衛星画像を用いた変化検知の試み
- 政策研究部グローバル安全保障研究室研究員
- 本山 功
要旨
- 商用衛星画像へのシャッターコントロールにより、公開情報分析が「管理された可視性」という制度的制約の下にあることが改めて浮き彫りとなった。
- 本稿は、この制約を緩和する試みとして、無償SARデータとPWTT(ピクセル単位T検定)を用いた変化検知手法を極力ローカル環境で実装した。
- 分析の結果、同手法は固定建造物に対する破壊検出に一定の有効性を持つ一方、移動物体の検出や検出理由の特定には限界があり、偽陽性・偽陰性のリスクを内在していることが確認された。
- これにより、本手法による分析は、情報制約下における初期の異常検出という水準では機能し得るものの、「何が起きているか」の確定には不十分であることが示唆された。
- 本稿が示す可能性と限界は、情報制約下で相対的な透明性を確保しようとする公開情報分析の有効性が、個別の専門知ではなく、それらを横断的に結びつけ、多様な情報源・分析手法と統合しうる制度的基盤に依存することを示唆する。
OSINTの「管理された」可視性 商用衛星のシャッターコントロール問題
近年、衛星画像やソーシャルメディアなどの公開情報を用いた分析は、戦争や紛争の状況を可視化する手段として急速に注目を集めている。しかし、こうした可視性は常に保証されたものではない。2026年のイラン情勢においては、民間の衛星画像販売企業が政府の要請に応じて画像公開を制限したと報じられている1。公開情報分析による紛争の可視化は、選択的に公開された情報にのみ基づかなければならない「管理された可視性」の制約に直面している。わが国でも、安全保障上の自在性を確保する観点から、衛星画像におけるシャッターコントロールの問題が議論されてきた2。
こうした状況は、いわゆる「OSINTの民主化」という議論に重要な留保を与えている。情報へのアクセスが選択的に制御される環境では、検証能力を伴わない情報が流通し、誤情報や操作されたナラティブの拡散を招くおそれがある3。既存研究では、民間でのOSINTの実践が様々な制度的制約の影響を受けることや4、特に政府等による情報提示のあり方が分析結果に影響を与える可能性が指摘されている5。
しかし、こうした制約は、公開情報の分析主体が多様化する意義を否定するものではない。むしろ、情報が選択的に提示され得るからこそ、国家機関以外の主体による検証や独自分析の重要性は高まる。実際、衛星画像を用いた分析は海外のシンクタンクや主要メディアを中心に広がり6、国内でも一定の広がりを見せている7。ただし、それらの分析の多くは高分解能の商用画像に依拠しており、潜在的にシャッターコントロールの影響を強く受けている。
こうした状況に対して、調査研究機関Bellingcatは、こうした制約を緩和する、商用画像に依存しない分析手法を提示している8。具体的には、欧州宇宙機関(ESA)が提供するSentinelシリーズをはじめとした無償で利用可能な合成開口レーダー(SAR)画像を用い、過去の蓄積データと紛争後のデータの統計的比較による変化検知によって、破壊や被覆変化を把握する手法である。この手法はGoogle Earth Engine上で、ワンクリックで実行可能なツールとして提供されており、商用画像へのアクセス制約下で紛争地の状況を把握するための補助的な方法として一定の有効性を持つ。
しかしながら、こうしたツールを分析内容への理解なしに利用するだけでは、アクセス可能な情報が選択的に操作されうるという問題は解消されない。商用画像への依存と同様に、ツールへの信頼性や継続的な利用可能性、他地域への応用可能性などが新たなチョークポイントとなり得るからである。
本稿は、こうした問題意識に基づき、無償SAR画像を用いた分析を極力ローカル環境で再現することを試みる。SAR画像の供給もまた外国政府が所有する衛星に依存しており、完全な自在性が確保されるわけではないが、情報へのアクセス経路を分散しチョークポイントを可能な限り排した分析手法には一定の意義がある。ただし、本稿の分析手法はあくまで状況把握の一側面をなす程度のものであって、単独で完結するものではない。執筆者は政治学のトレーニングのみを受けているため、分析には以下の限界がある。第一に、「どこを見るべきか」という分析対象の選定には地域研究や実務的知見が不可欠である9。さらに、画像分析結果の解釈は、地域の政治・社会的文脈や軍事的知見と結びついて初めて意味を持つ。本来、衛星画像分析は他の方法で収集した情報と組み合わせて活用されるのが適切である10。第二に、本稿の提示する手法は、リモートセンシングにおけるノイズ抑制をはじめ技術的な改善の余地が大きく残されている。以上を踏まえ、本稿における分析は、公開情報分析の可能性と限界に関する議論への示唆を得るとともに、既に衛星画像を活用しているか潜在的に活用可能性がある地域研究者や実務者に対し、シャッターコントロールの問題を緩和するための補助的な視座を提示することを目的とする。
本稿は、Bellingcatのツールの技術的基礎となっている論文をもとに、どのような原理で紛争地における破壊を検知しようとするかという概念的な説明をしたうえで、分析を実装するためのステップを明示する。そのうえで、現にシャッターコントロールが行われているイランへの攻撃に伴う破壊の状況をどれほど検知できるか、手法の適用可能性を探る。
分析手法の概念的説明 PWTTの考え方
1.Bellingcatツールの技術的基盤
第1章で述べたBellingcatが配布するSAR画像分析ツールは、その技術的基盤をオリー・バリンジャー(Ollie Ballinger)が提案したピクセル単位T検定(Pixel-Wise T-Test: PWTT)に依っている11。本章は同手法がどのように破壊を検知しようとしているかについて概念的な説明を行う。
2.PWTTの原理
PWTTを支える前提は、破壊が起きた場所では地表面の状態が変わり、SAR画像に記録された電波反射の仕方が変化するとの考え方である。SARは、地表に向けて電波を発し、その反射の強さを記録する。したがって、建物が建っている状態と、それが破壊され瓦礫化した状態とでは、同じ地点であっても反射のパターンが変化しうる。もちろん、地表面の状態は自然現象や人間の活動によって日々変化するため、光学画像の判読のように2時点を比較するだけではその変化原因の絞り込みが難しい。
この手法の特徴は、単に紛争前と後の画像を一枚ずつ比較するのではなく、紛争前一定期間の画像群から「平常時のばらつき」を算出し、それを基準にして紛争後の画像(群)における変化がどれほど異常かを判定する点にある。具体的には、紛争開始前の1年間を基準期間として、各ピクセルの後方散乱係数の平均値と標準偏差を求め、紛争開始後の事後期間における同じピクセルの値の逸脱の程度を評価している12。基準期間の平均と事後期間の平均の差を、標準偏差を基にピクセル毎に評価することで、単なる一時的な揺らぎではない変化を統計的に抽出しようとする。
図 1 PWTTを用いた変化検知の模式図13
図1は、このような考え方を模式化したものである。上段の青い枠内は、現実の地表面の変化を模式的に表している。紛争による破壊前には比較的まとまった建物群が存在していた場所(グレー)が、破壊後には瓦礫や空隙を含む別の表面状態へと変わる(赤)。下段の緑の枠内は、それに対応してSAR画像上の反射の強さが変わる様子を表している。ここで重要なのは、あるピクセルの値が変わったとしても、それが直ちに紛争による破壊を意味するわけではないという点である。季節変化、地表の水分、人間の活動によって反射は日々変化する。そこで、PWTTでは、過去の観測群からその地点に固有の値の振れ幅を見積もり、その振れ幅に照らしてもなお大きい変化だけを抽出しようとする。図1左下のSAR画像が太枠で示されているのは、多数の画像を模式するためである。図1右下のオレンジの枠内は、そうして抽出された変化を示している。
こうした手法の利点は、以下の3点である。第一に、高分解能の商用画像に全面的に依存しないことである。PWTTは、無償で配布される比較的低分解能のSAR画像を用いて実行することができるため、商用画像へのアクセスが制限される状況でも一定の分析を継続できる。第二に、各地点をその地点自身の過去と比べるため、ある都市で学習したモデルを別の都市に当てはめるといった手法による変化検知と比べて、過学習の問題を回避しやすい。第三に、手法の仕組みが比較的単純で、何と何を比較して異常な変化と見なしているかがわかりやすい。
他方で、PWTTによる出力は、厳密には紛争による破壊そのものではなく、破壊を示唆する後方散乱係数の変化であることには注意が必要である。したがって、PWTTにより検知された変化の原因は、必ずしも軍事的破壊とは限らない。また、偏波の特性上抽出が難しい変化もありうる。このように、PWTTの結果は本質的に偽陽性と偽陰性の可能性を含んでいる。第1章でも述べたように、包括的な分析のためには、現地情報をはじめとする他のアクセス可能な情報との照合が不可欠である。また、比較的低分解能のSAR画像を用いるため、分析によって破壊の蓋然性が高いと判定された地点に、もともと何があったかについてはこの手法のみで判断することができない。そのため、平時から現地の状況に通暁している研究者・実務家が、広域の中から異常が集中している地点を抽出し、次の検証に繋げるためのスクリーニング手法として用いるのが適切といえる。
分析の実装
分析のステップ
本稿における分析は図2に示したように、①データの取得、②データの前処理、③統計処理、④解釈の4段階のステップで行われる。①データの取得では、まず関心領域を設定した上で、紛争前後のSAR画像を取得する。次に、②データの前処理において後方散乱係数の時系列データを構築する。そして、③統計処理において基準期間のデータから各ピクセルに固有の平均値とばらつきを計算し、これをベースラインとして設定する。その上で、紛争後のデータをこのベースラインと比較し、t値あるいはz値(標準化異常値)として変化の程度を定量化する。最後に、④解釈において得られたラスターデータを光学画像に重ね、異常変化が集中する地点を抽出することで、破壊の蓋然性が高い領域を検知する。
図2 分析のステップ
1.データの取得
データの取得にあたって、まず分析対象となる関心領域(Area of Interest: AOI)を設定する必要がある。そのうえで、ESAが運用するSentinel-1衛星によって撮影されたSAR画像を、AOIに対応する範囲で取得する。無償配布される画像は1シーンで数GBに達する容量をもっており、数百枚のシーンを処理する必要があるPWTTを個人保有の端末で行うために、AOIに絞ったデータの取得を行うのである14。本稿では、便宜のためにAOIを矩形に設定するため、Sentinelシリーズを含むESAの各画像が配布されるコペルニクスブラウザ上でAOIポリゴンを作成し、geojsonファイルとして保存した(図3)15。
図3 コペルニクスブラウザ上でAOIを描く例16
Sentinel-1はCバンドのマイクロ波を用いた観測を行っており17、雲や昼夜の影響を受けずに地表面の情報を取得できる。さらに、同一地点を一定周期で繰り返し観測するため、過去データを蓄積しやすいという特性をもつ。この点は、平常時のばらつきを統計的に把握することを前提とするPWTTにとって不可欠である。また、Sentinel-1は通常、VVおよびVHといった複数の偏波で観測を行う18。これらはそれぞれ異なる物理的特性に敏感であり、例えば建造物の構造やその表面の粗さ、植生の状態などに対する応答が異なる。そのため、複数の偏波を組み合わせて利用することで、単一の指標では捉えにくい変化を捕捉することが可能となる。
これらの特性を考慮して、本稿では紛争開始前の1年間を基準期間として設定し、同期間に撮影されたVVおよびVHの画像を全て取得する。これに加えて、紛争開始後の事後期間に対応する画像も取得する。紛争開始後の事後期間は、Ballinger (2025)に従い1か月間とする19。ただし、爆撃など特定のイベントの発生直後に分析を行うために、1シーンのみを紛争開始後のデータとして用いる場合がある。その場合でも最低限の検出能力が維持されることが報告されている20。
また、これらの取得にあたっては、観測条件の一貫性を確保する必要がある。特に、同一地点に対しても、衛星の軌道(ascending / descending)や観測角度が異なると、後方散乱係数の値が体系的に変化する。そのため、基準期間および事後期間においては、同一の軌道条件に限定してデータを比較できるようにデータを取得した。また、分析にはGRD(Ground Range Detected)プロダクトを用いた。
2.データの前処理
取得したデータはそのままでは分析に適さないため、前処理として後方散乱係数(backscatter coefficient)の規格化を行う必要がある。この係数は、衛星に届く電波がセンサーに記録されたDN値を規格化したもので、地表の状態によって異なる数値をとる21。PWTTは、この後方散乱係数の時系列的な変化をピクセル単位で分析することで、通常の変動範囲から逸脱した変化を検出する。また、Ballinger (2025)はノイズ低減のためのLeeフィルター処理をかけているが、本稿ではこれを省略している22。
3.統計処理
こうして取得した、紛争開始前のベースラインデータと紛争後のデータ(1シーンまたは1か月)を用いて、各ピクセルについて紛争前後の後方散乱係数を比較して、通常の変動範囲から外れた変化を検出する統計処理を行う。なお、定式化された式は補遺に示す。
本稿における実装では、まず、軌道条件ごとに取得した基準期間のデータから、ピクセル単位で後方散乱係数の平均値と標準偏差を計算する(ベースライン)。その上で、紛争後に取得された画像が1シーンのみの場合、各ピクセル値からベースラインの平均値を差し引き、その差をベースラインの標準偏差で割ることにより、ピクセル単位のz値を算出する23。これは、事後画像の当該ピクセルが、平時の変動範囲からどの程度逸脱しているかを表す指標である。値の絶対値が大きいほど、その地点における変化が平常時のばらつきでは説明しにくいことを意味する。
なお、こうした値の算出はVVとVHそれぞれについて別個に行い、その後、各ピクセルにおいて両者の絶対値のうち大きい方を採用して最終的な変化指標としている。これは、紛争による破壊がVV・VHのどちらにより強く現れるかを事前に一律に決めることができないためである。すなわち、建物の形状や向き、周辺環境によって、ある地点の変化がVVでより強く表れる場合もあれば、VHで表れる場合もある。このため、本実装では両偏波のうち変化をより強く示す側を採用することで、異常変化の取りこぼしを避けようとしている。
以上の処理によって得られた変化指標ラスターは、どの場所で通常の範囲を超える変化が生じているかを示すものである。前述の通り、検出された変化が直ちに破壊を意味するわけではないため、変化指標ラスターは本来、破壊箇所を判定する検定の材料としてではなく、異常変化が集中している地点を広域の中から抽出するためのスクリーニング結果として扱われるべきである。
さらに、紛争後の画像を一定期間にわたって複数取得できた場合には、事後期間についても後方散乱係数の平均値と標準偏差を算出し、ベースラインの平均値との差を標準誤差で正規化することで、ピクセル単位のt値を計算する。この場合、事後期間全体としての変化を評価することが可能となる。なお、Ballinger (2025)のPWTTの原型に近いのはこのt値による評価である。
4.解釈
こうして出力した変化指標を示すラスターデータを、地理情報システム(GIS)を用いて可視光画像に重ね合わせることで、紛争による破壊の蓋然性が高い箇所を目視で判読する。Ballinger (2025)では、被害分類(damage classification)を行う観点から、算出した値に一定の閾値を設けて被害あり・なしの2値へ分類している24。しかし、リモートセンシングや画像処理技術の進歩ではなく、紛争地における破壊状況を把握する一助としての画像利用であれば、このプロセスは省略できると考えられる。そこで本稿における分析では、ラスターデータのヒストグラムに応じて探索的に塗り分けを行うことで破壊の可能性がある地点をスクリーニングする。なお、ここで用いられる可視光画像は、あくまで「そこに何があったか」を推測するための参考情報であり、シャッターコントロールが行われる前に撮影された画像である。
PWTTのイランへの適用の試み 可能性と限界
こうして実装したPWTTの手法を、現在シャッターコントロールが行われているイランへの攻撃に伴う破壊の状況へ試行的に適用し、その検出結果を検討する。適用対象は、①バンダレ・アッバース(Bandar Abbas)、②コナラック(Konarak)、③カーグ島(Kharg Island)の3地域である。このうち、①と②については、シャッターコントロールが実施される以前に、シンクタンク等が高分解能衛星画像を用いて被害評価を行っているため、それらの結果と比較することで、PWTTによる検出の精度を確認する。③は、4月7日に行われた攻撃の被害を25、4月8日に撮影された画像で検出することを試みる。
なお、本章における分析の目的は、イランで現在進行している事象の具体的内容を解明することにあるのではない。本章の主眼はむしろ、第1章で指摘したようなシャッターコントロールという制度的制約が現に作用している事例への本手法の適用を通して、公開情報分析の可能性とその限界に関する議論への示唆を得ることにある。
1.バンダレ・アッバース(Bandar Abbas)
バンダレ・アッバースは、イラン革命防衛隊海軍が南部艦隊の司令部をおく拠点の一つとされ26、3月1日に米軍とイスラエル軍により司令部等が攻撃されて以来27、継続的に爆撃を受けてきた。米国のシンクタンクである戦争研究所(Institute for the Study of War: ISW)は、3月2日および4日に撮影された商用画像を用いてバンダレ・アッバースの港湾や艦船への被害を分析している28。
本稿では、ISWの分析対象となった港湾施設を中心にAOIを設定し、PPTWによる破壊状況の検出を試みた。表1は、本分析に際して取得したデータの撮影時期と枚数を示している。
表 1 バンダレ・アッバースに関する分析の概要
分析の結果は以下の図4の通りである。本分析では変化指標の閾値を設けての被害分類を行っていないため、図から凡例が省略されているが、赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示している。
図 4 バンダレ・アッバースのPWTT分析結果29
可視光(左)、1シーン(中)、期間(右)
赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示す。
図 5 ISWによる商用画像分析結果(バンダレ・アッバース)30
1シーン分析の結果は、PWTTによる破壊検出が移動可能物体へ適用しにくいことを示唆している。図5に示したISWによる商用画像を用いた分析では、3月2日の画像(左)に、港の出口付近に係留された艦艇と港湾内北東部のバースに係留された艦艇が炎上する様子が写っている。しかし、図4中央の画像の同位置には、指標の大きな変化を示す表示が表れていない。船舶は高い可動性を持ち、同一地点に継続的に存在するとは限らない。結果として、ベースライン期間における各ピクセルの係数値が、船舶の有無が混在した状態で平準化されることになる。こうした平準化によって、特定時点における船舶の消失や損壊といった変化が、検出可能な逸脱として現れにくくなっている可能性がある。
他方で、同じ1シーン分析の結果から、本稿における実装手法であっても、PWTTが固定建造物の破壊に対して一定の検出能力をもつと考えられる。ISWによる3月4日の商用画像を用いた分析では、港湾中央の建物群への攻撃の跡があることが指摘されている31。図5右側の中央上部に白い点線で囲まれた箇所があるが、計4棟の建物に8発の爆撃の跡があるように目視できる。図4中央の画像の中央部分に示された赤色範囲は、この建物群と位置や配置の形状が一致している。
また、期間分析結果を示した図4右側では、港湾内北東部と、港湾内を南北方向に走るバースと思われる箇所が全体的に緑色に表示されており、岸壁部分が継続的な攻撃によって集中的な被害を受けている可能性を示唆している。
2.コナラック(Konarak)
コナラックにはイラン国軍海軍の拠点があり、2月28日に米国が最初に攻撃した目標群の1つとされる32。また、近郊にあるドローン発射場(短滑走路)やドローン保管施設への攻撃や、近郊の空軍基地への攻撃も、商用画像による分析から明らかになっている33。
本稿では、上記3施設を中心にAOIを設定し、PPTWによる破壊状況の検出を試みた。表2は、本分析に際して取得したデータの撮影時期と枚数を示している。
表 2 コナラックに関する分析の概要34
図 6 コナラックのPWTT分析結果(港湾)35
赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示す。
図6に示された期間分析の結果から、本稿の方法で実装されたPWTTは破壊検出としては概ね十分な性能を持つものの、一定の偽陽性のリスクも存在すると考えられる。図6右側には港湾における被害が示されているが、ISWによる商用画像分析(図7)に示された被害建物と同様の部分が赤く表示され、破壊が検出できている。他方で、可視光画像では水面と考えられる部分にも多数の破壊可能性箇所が検出されており、これは、バンダレ・アッバースにおける分析で示唆された、PWTTが船舶等の移動物体の検知に適さないという知見に反する。もちろん、コナラックの当該箇所に船舶が停泊中に被害を受け、大量の瓦礫が水面上まで突出している場合などは、図6のようなPPTW結果が出力されると思われる(期間分析はISWによる3月4日の画像分析後も、3月30日までの画像を反映しているため)。これ以上の状況把握には、衛星画像以外のソースに基づく情報が必要である。
図 7 ISWによる商用画像分析結果(コナラック・港湾)36
図 8 コナラックのPWTT分析結果(ドローン施設)37
赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示す。
また、図8にはドローン関連施設における被害が示されている。図中で赤色に表示された破壊検出箇所は、図9のISWによる商用画像分析で示された被害箇所(ドローン保管施設、滑走路中央東側)と一致している。他方で、PWTT画像の滑走路中央西側に示された破壊可能性箇所は、可視光画像ではなにもない砂漠か植生とみられ、破壊が偽陽性によって検出された疑いがある。この箇所についても3月4日以降の攻撃で追加の被害が出ている可能性は否定できない。ただし、滑走路上北東部の判定箇所に関しては追加攻撃によるものである蓋然性が認められるのに対して、中央西側の検出箇所には特段目標物が無いため、偽陽性である疑いが強いと考えられる。
図 9 ISWによる商用画像分析結果(コナラック・ドローン施設)38
図 10 コナラックのPWTT分析結果(空軍基地)39
赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示す。
最後に、図10には空軍基地における被害が示されている。PWTT画像の右上部分について、ISWが商用画像分析を行っている(図11)。建物の倒壊を引き起こしにくい掩蔽壕に対する攻撃でも、ある程度PWTTによって検知できていることがわかる。
図 11 ISWによる商用画像分析結果(コナラック・空軍基地)40
3.カーグ島(Kharg Island)
カーグ島は、イラン産原油の9割の積出が行われる、原油輸出の拠点とされる。同時に、革命防衛隊による守備が厳重であるとも報じられている41。米軍は、3月13日と4月7日に軍事目標を中心に同島を攻撃したとされる42。
本稿では、2度の攻撃それぞれの直後に撮影された画像を用いて、1シーンでのPPTWによる破壊状況検出を2回実施した。表3は、本分析に際して取得したデータの撮影時期と枚数を示している。分析の結果を図12に示した。
表 3 カーグ島に関する分析の概要
図 12 カーグ島のPWTT分析結果43
3月15日(左)、4月8日(右)
赤色は破壊の可能性が大きい箇所、緑は破壊の可能性がある箇所を示す。
カーグ島に関する分析からは、以下の3点が指摘できる。第一に、報道によれば4月7日の攻撃は3月に攻撃した箇所への「再攻撃(restrikes)」とされているが44、その報道内容は概ね正しいと考えられる。4月の攻撃後に撮影された画像において破壊が検出されている箇所(図12右側)の多くは、3月の画像(図12左側)で検出された破壊箇所を一回り拡大する形で分布している。例えば島の北部中央がそれにあたる。また、第二に、島の北西部には4月の攻撃においてはじめて破壊が検出された場所が複数点在している。これは、3月の攻撃後にイランが携帯式地対空ミサイル(MANPADS)を含む装備品で島の防衛を強化したとされることを踏まえると45、3月の攻撃後に新たに設置された防衛拠点を指している可能性がある。
ただしこの点を含め、第三に、PWTTの限界も示されている。4月の画像において、島中央やや下の浮屋根式タンクが並ぶ地区に、小規模な「破壊」が検出されている。しかしながら、米軍による攻撃はエネルギーインフラを避けて行われたと報じられており、イラン側からも石油施設への大きな被害情報は出てきていない。同島に対する市場を含む国際社会の注目度を考えると、単に現地語を解さない執筆者が石油施設への被害情報に接していないだけとは考えにくい。本稿において繰り返し述べている通り、PWTTは本質的には特異な「変化」の検出を行う手法であり、検出された地点で起きていることが必ずしも「破壊」であるとは限らない。特に、イランが同島の防御を強化していることを踏まえると、なんらかの装備が当該箇所に展開されている可能性を含め無数の変化要因が考えられる。このように、PWTTでは、流動的な状況において必ずしも十分な情報が得られるわけではない。
おわりに 公開情報分析の可能性と限界
本稿は、衛星画像を用いた公開情報分析が直面する「管理された可視性」という問題を出発点として、商用画像のみへの依存を緩和し得る手法としてのPWTTの実装と、その適用可能性を検討した。分析結果が示す通り、本手法は固定建造物に対する破壊の検出において一定の有効性を示した一方で、移動する物体や状況依存的な変化への適用には限界があり、また偽陽性・偽陰性の問題を内包している。
こうした結果は、公開情報分析の可能性と限界について、いくつかの示唆を与える。第一に、可視性が制度的に制約される状況においても、観測手段やデータ源を切り替えることで、ある程度有効な情報取得と検証の余地は残されうるということである。分析しやすい商用の光学画像へのアクセスが制限される環境下でも、無償SAR画像のような代替データを用いることで、少なくとも「何らかの重大な変化が生じている箇所はどこか」という水準での状況把握は可能な場合がある。これは、公開情報分析が制度的制約によって完全に無力化されるわけではないことを示している。
第二に、しかしながら、その可視性は本質的に何が起きているかを明らかにするものではなく、特異な変化を検出するのみに留まるという限界を持つ。本稿の分析でも、検出された変化が破壊によるものか、別の要因によるものかは、PWTTのみからは確定できない場合が多く見られた。この点は、現地語情報や情報の適切な解釈に必要な専門知を伴わない、衛星画像のみによる分析が持つ脆弱性でもある。同時に、拡大の一途をたどる公開情報分析がしばしば前提としがちな、可視化すなわち現状理解という図式に対して、重要な留保を与えるものである。
以上を踏まえると、公開情報分析の意義は、単一の手法によって状況を確定的に把握することにあるのではなく、複数の不完全な観測結果を突き合わせることによって、限定的ながらも頑健な認識を構築する点にあるといえる。PWTTのような手法は、そのための一つの構成要素として、他の情報源や専門的知見と組み合わせて用いられることで初めて意味を持つ。
言い換えれば、公開情報分析の有効性は個々の分析手法や実践者の単独の能力に依拠するものではない。重要なのは、異質な専門知と多様な情報源・分析手法を横断的に接続し、相互に補完させる枠組みである。その意味で、公開情報分析の成否は、個別の知を統合的に運用し得る制度的基盤、すなわち組織内外での協業や知見の接続を可能にする仕組みにかかっていると考えられる。
公開情報分析を取り巻く環境は、技術的にも制度的にも変化し続けている。シャッターコントロールの問題は、その中で顕在化した一つの制約である。本稿で提示した試みは限定的なものであるが、こうした制約の下でいかに分析の可能性を確保し、その限界を自覚的に扱うかという課題に対する、一つの視角を提示するものである。
補遺
本稿中の「分析の実装」で示された計算の手順を、t値を算出する場合を想定して以下に示す 。まず、取得したデータは①時期(紛争の前/後)、②軌道方向(ascending / descending)、③偏波(VV / VH)の3変数で分類できるため、それぞれをBallinger (2025)に従って、τ,ω,πの下付き文字として表すことにする。取得したデータに対してまず行うのは、後方散乱係数のピクセル(x)毎の平均値を、上記3変数が一致する群ごとに算出することである。
同様に、ピクセル毎に標準偏差も算出する。
これらを用いて、t値を算出する。ただしτの下付き文字は紛争の前(τ=0)と後(τ=1)を表す。
こうして算出したt_ωπは、軌道方向と偏波特性それぞれ2種類ずつ、一つのピクセルに対して計4種類算出されていることになる。PPTWでは、偽陽性のリスクを受け容れつつ変化の検出を最大限可能とするため、これら4つの値のうち絶対値の最も大きいものを当該ピクセルの変化指標(T)として採用している。
Profile
- 本山 功
- 政策研究部グローバル安全保障研究室 研究員
- 専門分野:
数理政治学、安全保障論、危機交渉