NIDSコメンタリー 第430号 2026年4月21日 ロシア・ウクライナ戦況メモ 2026年1~3月
- 地域研究部 米欧ロシア研究室長
- 山添 博史
ロシア軍がドネツク州で前進、ウクライナ軍が反撃努力
本稿は2022年2月以来のロシア・ウクライナ戦争において2026年1月~3月の期間の主な推移を扱う1。ロシア軍は引き続き主要な攻撃の場所を選び、ウクライナ軍に防衛を強いることで、主要なイニシアチブを保持し、ウクライナ軍は部分的な反撃を行った。
ロシア軍は多くの正面で前進を試みウクライナの防衛に圧力を加えているが、反撃を受けて後退する局面もある。2025年12月にハルキウ州クピャンスクで後退を強いられたまま、2026年3月までに盛り返すことができなかった。ドネツク州中部からドニプロペトロウスク州南東部とザポリージャ州北東部の境界地帯に向かってロシア軍は前進してきたが、戦争研究所(ISW)の評価では、2026年2月上旬にスターリンク端末の「無許可利用」が遮断されて指揮統制に支障が生じ、その頃にウクライナ軍の反撃を受け、ロシア軍の占領地は大きく後退した2。ただし、この場所はもともとロシア軍が明確に占領を確立していない状況だったとの評価もある3。いずれにしても、この方面でもロシア軍はフリャイポレに進軍しノヴォパヴリウカに迫っており、ウクライナはドネツク州を越えたところでも後退を強いられた。
ポクロウスクをロシアが制圧したと主張した2025年11月以降も、市内でウクライナ部隊による戦闘は継続し、ロシアが制圧して活用する段階にはならず、2026年1月21日にはウクライナの東部軍(Skhid)は同市北部および東隣のミルノフラドで防衛線を維持していると述べていた4。しかしその頃から段階的に両市の防衛拠点からウクライナ部隊が撤収したと見られる。ISWは2月25日の分析で、ウクライナ軍による市内での戦闘行動が観測できないとして、ロシアが制圧した可能性が高いと評価した5。その後、ポクロウスクから西で戦闘地域の拡大が観測されており、ウクライナはポクロウスクを放棄して防衛を強いられる段階に入った。
ウクライナのドネツク州のうち統治範囲には人口規模7万のコスチャンチニウカ、10万のスロヴャンスク、15万のクラマトルスクがあり、これらは多くの人々の生活拠点であり、2014年以来防衛拠点としても強化しており、ウクライナはロシアによる占領に明け渡すことを拒否する姿勢を保っている。ポーランドの東方研究所(OSW)の分析は、これらの「要塞線(Fortress Belt)」に対し、ロシア軍が南(ポクロウスク/コスチャンチニウカ方面)、北(リマン方面)、東(バフムート方面)から同時に圧力を加えており、幹線道路の利用が脅かされるようになれば要塞線の持久が困難になっていくと指摘する6。
ロシア軍はシヴェルスクを制圧したのちも西に進み、少し北西のリマンにも迫っている。要塞線南部の重要拠点コスチャンチニウカの近傍にも戦闘地域が迫っており市街地が砲撃範囲に入るようになってきた。ロシア軍はコスチャンチニウカとスロヴャンスク方面を結ぶ幹線道路H-20へのドローン攻撃を行っており、2月27日のISWの分析はこれを、地上連絡線(GLOC)を妨害し補給効果を弱らせて地上攻勢を準備するものと評価する7。また、ロシアは装甲車両を伴う局地的な小規模襲撃も行っており、ドローン、砲兵、機甲部隊を組み合わせた前進条件を準備しているとみられる8。
このようにロシア軍の前進が見られるが、それは多くのコストを伴うものであり、ウクライナ軍の適応も展開していて、ロシアの成果は十分に大きくはない。戦略国際問題研究所(CSIS)における推算では、2022年2月から2025年12月までのロシア軍の人的損害は死傷者およそ120万人、戦死がおよそ27.5~32.5万人という規模にのぼる一方、2024年以降に前進を続けている状況でも1日あたりおよそ15~70mであり、過去の戦争の事例と比較しても成果に乏しい9。カーネギー国際平和財団のマイケル・コフマン主任研究員は、戦争の4年間を振り返り、ドローンによる偵察・攻撃がカバーする「キルゾーン」が15km以上になった環境で、少数のロシア歩兵が防衛線に浸透して支配領域が不明瞭になっていく状況を指摘し、双方が適応しながらの消耗戦で耐久力をめぐる競争となっていると特徴づける10。
戦闘継続をめぐる競争
ロシアは戦場でウクライナを屈服させる実力を示すことはできておらず、並行してウクライナ国内に打撃を与える武力行使や、ウクライナへの支援を鈍らせるような諸外国への働きかけも続けた。
2025年を通じて、ロシアの長距離攻撃向けドローンの生産力が向上し、2026年1月~3月には毎月4,000~6,000回のドローン攻撃によってウクライナでは毎月500~600回の打撃を受けた11。ウクライナにとっては4回目の冬で、最も厳しい冬の寒さのなかで、最も多くの攻撃を受け、民間の死傷者に加え、エネルギー・インフラへの打撃により多くの人々が暖房不足・電力不足に苦しまされた。しかし国家・社会はなおも忍耐力を示し、損害箇所を復旧し、政権の運営を調整し、諸外国に働きかけ、前線と国土の防衛を続け、ロシアによるウクライナ屈服の目的をこの冬にも阻止した。
ウクライナはロシアの戦争継続を困難にし、やがて不可能にしていくことを狙った打撃手段を準備してきた。ウクライナ国産の巡航ミサイルFP-5フラミンゴが2月20~21日にヴォトキンスクの軍需工場を攻撃し12、ドローンが3月下旬にサンクトペテルブルク付近のウスチ・ルーガ港やキリシ製油所を攻撃した13。このような攻撃がロシアの石油輸出を長らく40%削減するといった決定的効果は持たないが、継続的な実施により、ロシアは迂回や回避、復旧のコストを負っていく効果がある。
ウクライナの防衛の問題は、ウクライナと協力国の共通の利益と見なされる場面が増加している。NATOの軍事演習 Hedgehog 2025 において前線経験のあるウクライナのドローン運用者が相手側集結地を短期間で捕捉する成果を挙げ、NATO加盟国が現代戦における指揮統制の課題を発見しウクライナとともに適応していく意義が指摘されている14。2月28日に米国とイスラエルが開始した武力行使への反応としてイランが湾岸諸国に大規模なドローン攻撃を開始したのに対して、ウクライナはシャヘド系ドローンに対する迎撃の技術と運用経験を提供することを申し出て、UAE、サウジアラビア、カタール、クウェート、ヨルダンに専門家を派遣した15。
このようにウクライナと協力国の軍事協力の利益が深まるなか、欧州諸国が支出額を増してウクライナに米国製軍需物資を供給する「ウクライナ優先要求リスト」(PURL)の枠組みが稼働しており、2025年には軍事支援がおおよそ310億ユーロ、財政・人道支援がおおよそ350億ユーロの水準だった16。米国のトランプ政権が直接的な支出による支援を削減したものの、欧州諸国がコミットメントを増してウクライナの資源不足を補うようになった。ロシアの立場では、ウクライナへの支援を切り崩して孤立無援にする試みが失敗しており、ウクライナを屈服に導く道筋は見えていない17。
戦闘が続く中でも、戦闘終結をめぐる対話は行われた。2026年1月23日に米・露・ウクライナの三者が初めて直接協議を行う段階がアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで始まった。2月17日~18日にはジュネーブで第3ラウンドの協議が行われ、実務協議が進んだとされる。その後、3月末までに同種の協議の継続は発表されず、国際情勢の複雑化や協議の進展の困難さがうかがわれる。報道では、ウクライナがドネツク州の統治地域をロシアに明け渡すことが困難であることが目立って触れられる18。ウクライナの立場では、仮にこれに同意するという不公平に大きな譲歩をしたとしても、その代わりに戦闘終結による安定が得られると信じられる条件はまだ整っていない(2022年3月にウクライナは中立化と安全の保証を定める条約草案の協議をロシアの担当者と進めていたが、4月15日にロシアの大統領はウクライナに安全が保証されないような書き換えを行った19)。ウクライナが重大な権利を断念してロシアの要求を受け入れる状況も、条件に納得して停戦合意に進む状況も、ロシアや米国はまだつくることができていない。これまでと同様に2026年1月~3月にも、ウクライナが応戦せざるを得ないような攻撃をロシアは続けており、ウクライナは抗戦努力を維持した20。
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- 山添 博史
- 地域研究部 米欧ロシア研究室長
- 専門分野:
ロシア安全保障、国際関係史