NIDSコメンタリー 第427号 2026年4月7日 ホルムズ海峡に関する共同声明の意義及び特色——その内容にみる国際法(海洋法)上の意義及び留意点等
- 理論研究部政治・法制研究室 主任研究官
- 永福 誠也
はじめに
米がイランを攻撃した2026年2月28日の夜、イランのタスムニ通信はホルムズ海峡が封鎖されたと報じた1。また、3月2日にはイラン革命防衛隊の幹部がホルムズ海峡封鎖を明言したことが報じられた2。さらに、3月11日、同隊幹部はホルムズ海峡の通過にイランの許可が必要との方針を示したことが、3月12日にはイランの最高指導者に選出されたモジタ・ハメネイ師がホルムズ海峡の封鎖を徹底することを強調したことが報じられた3。なお、英海運貿易オペレーション(UK Maritime Trade Operations: UKMTO)は、2月28日から3月11日の間、アラビア湾、ホルムズ海峡、オマーン湾付近で13隻の船舶が攻撃されたと伝えた4。このような状況を踏まえ、3月11日、国際連合(以下、国連)安全保障理事会(以下、安保理)は、ホルムズ海峡の航行に対する妨害その他の干渉等を企図したイランによる諸行為・威嚇を非難し、当該措置を控えることをイランに要求する決議2817を採択した5。さらに、3月19日、英・仏・独・伊・蘭・日は、イラン軍によるホルムズ海峡の事実上の閉鎖(closure)を非難し、イランに対し脅迫行為などの商船(商業船舶)の航行(commercial shipping)を妨害する一切の行為の即時停止、安保理決議2817の遵守を求めるとともに、「航行の自由」は国際法の下で確立された基本原則であるとし、すべての国が国際法を遵守することを求める共同声明(ホルムズ海峡に関する英・仏・独・伊・蘭・日の首脳による共同声明(以下、共同声明))を発出した6。なお、19日以降当該共同声明に15カ国以上が加わり、3月21日時点で共同声明参加国はオマーン、UAEを含む22カ国となっている7。
この共同声明の特色の一つは、米・イスラエルとイラン間の武力紛争に関し、自国領域内でイランによる攻撃を受けているオマーン、UAEを除けば、当該武力紛争と無関係の第三国により発出されたものであることと言えるが、国際法、特に海洋法の観点からの意義・特色としては、国際海峡における航行の利益の内容として商船の航行・海運に焦点を当てていること、武力紛争時においても遵守すべき海洋法上の原則として「航行の自由」を示していることが挙げられるだろう。そこで、本稿では、まず上述の2点がなぜ国際法(海洋法)上の特色と言い得るのかについて解説する。
また、ホルムズ海峡は、排他的経済水域(公海)と排他的経済水域(公海)の間にある沿岸国の領海で構成される国際海峡であり、国連海洋法条約上当該国際海峡では通過通航権が認められるのが原則であるが(37、38条)、共同声明では通過通航権に触れず、国際法上の原則として明示しているのは「航行の自由」のみである。もっとも、「航行の自由は」本来公海、排他的経済水域といった領海外の水域、すなわち、国際水域に係る原則であるため、沿岸国の領海で構成されるホルムズ海峡の通航に関しては馴染まないようにも思える。しかしながら、ホルムズ海峡は制度的構成等に固有の特殊性があり、また紛争の諸状況から、イランによる同海峡の事実上の閉鎖について、通過通航権の侵害とは単純に言い難い事情もある。このため、共同声明では、通過通航権等、沿岸国領海内の外国船舶の航行上の権利にあえて触れず「航行の自由」という表現を用いているとも考えられる。よって、国際声明の趣旨を正確に捉えるには、イランによるホルムズ海峡の事実上の閉鎖が国際法(海洋法)上いかなる点で違法と解されるかについて正確に把握する必要があり、そのためには上述の特殊性等を押さえておくことが肝要と考えられる。そこで、上述の2点の次に、ホルムズ海峡の制度的構成の特殊性等について解説する。
「航行の自由」の具体的内容の明示:商船の航行・国際海運
船舶の「航行の自由」は、国連海洋法条約でも明示されている「公海の自由」の内容の一つであり(87条)、公海だけではなく排他的経済水域(以下、EEZ)においても認められている国際法(海洋法)上の原則である(57、87条)。この「航行の自由」の原則によって守られている航行の利益を沿岸国の領海制度に反映した制度が「無害通航」制度である。よって、「航行の自由」や「無害通航」という国際法上の原則・制度に係る利益の具体的な内容は、軍艦・公船を含む国家(国際法主体)の管轄下にある船舶の航行と言える。しかしながら、「航行の自由」・「無害通航」の範囲に関する国際法(海洋法)上の争点となっているのは、沿岸国EEZで外国軍艦が「航行の自由」の一環として軍事訓練や軍事演習をなし得るか、あるいは、沿岸国領海内で外国軍艦が「無害通航」権を享有するかといった8、主に軍艦に関するものである。その意味で、「航行の自由」・「無害通航」に関する国際法(海洋法)上の焦点は、従来から主に軍艦の航行に当てられてきたと言える。また、これは国連海洋法条約で新設された国際海峡たる沿岸国領海に係る「通過通航」制度に関しても言えるだろう。例えば「通過通航」制度の創設は、領海幅員12海里の制度化により国際海峡が沿岸国の領海で構成されるようになっても「無害通航」制度の下では認められていない原子力潜水艦の潜没航行を国際海峡の通航で可能にするという米ソの要求を契機の一つとしていたし9、国際海峡を領海とする沿岸国が武力紛争当事国(交戦国)である場合の航行船舶への「通過通航」制度の適用の有無に関し、見解が分かれているのは非武力紛争当事国(中立国)潜水艦の潜没航行についてなのである10。
このように、従来「航行の自由」の内容に関する国際法(海洋法)上の争点は主に軍艦に関するものであり、その意味で「航行の自由」に関する国際法(海洋法)上の焦点は軍艦に当てられてきたという状況にあって、今回のホルムズ海峡に関する共同声明では、「航行の自由は、国連海洋法条約を含む国際法の下で確立された原則である」ことを謳うとともに、イラン軍によるホルムズ海峡の事実上の閉鎖により侵害されている利益、すなわち、同海峡の航行により得られる利益の具体的内容として、商船(商業船舶)の航行(commercial shipping)や国際海運(international shipping)を挙げている。これは、「航行の自由」の内容として商船の航行・国際海運に焦点を当てたものであり、両者が海洋法上保護対象となる海洋権益であることを強調している点で、従来とは異なる視点からの海洋法上の指摘と言い得るものであり、その点において本声明の特色の一つと言えるだろう。
また、共同声明では、安保理決議2817の「国際水路での合法な通過通航又は航行の自由を妨げるいかなる企ても国際の平和と安全に対する重大な脅威を構成する」という言及を踏まえ、国際海運に対する干渉(interference)が、国際的な平和と安全に対する脅威を構成することを強調している。国連憲章では、安保理の権能として、国際の平和及び安全を維持し又は回復するための勧告又は軍事的措置を含む措置の決定を規定していることから(39条)、当該声明は、国際海運という海洋権益への干渉は、安保理決議に基づく軍事行動の事由になり得ることを示唆するものと言い得るが、これは、国際的な平和と安全に対する脅威の範疇に関し、従来無かった視点であり、その意味で、共同声明の国際法(海洋法・安全保障法)の観点からの特色の一つとも言えるだろう。
武力紛争時においても遵守されるべき海洋法上の原則:「航行の自由」
戦争の違法化以前、すなわち、国際法の適用が平時・戦時の二元論的であった時代、戦時には戦時国際法が適用され、平時の国際法規則は内容上適用可能なものを例外として、基本的に適用停止になると考えられていた11。しかし、不戦条約や国連憲章の成立により戦争の違法化が進み、国際法上戦時は観念されず、国際法の適用が一元論化された現代では、武力紛争法と海洋法の関係は、理論上、同位法源間の優劣関係を規律する原則、具体的には「特別法は一般法を破る」という特別法優先の原則に従い規律せざるを得ない。そこで、武力紛争法と海洋法の関係ではどちらが特別法でどちらが一般法かがまず問題となるが、例えば、武力紛争法上、敵国軍艦は軍事目標として攻撃可能であり、敵国商船はだ捕可能であることなどを踏まえると、海洋法上の原則である自国領海内での無害通航権の保障は、武力紛争当事国間では必要ないと解される。このように、それぞれの法規の内容を踏まえると、理論上、武力紛争法を特別法、海洋法を一般法と位置付けるのが妥当と考えられる。各国から招へいされた国際法及び海軍の専門家によって作成された海上武力紛争に関するサンレモ・マニュアルも、そのような前提で記述されている12。
以上を踏まえると、「航行の自由」といった海洋法上の原則は、武力紛争法上の規則との関係では一般法上の原則となるため、武力紛争法との抵触がある場合、武力紛争法上の規則が優先すると解される。そうであるならば、武力紛争法と抵触せず、武力紛争時であっても適用が維持される海洋法上の原則は何かが国際法(海洋法)上一つの論点となり得るが、共同声明では、イラン軍によるホルムズ海峡の事実上の封鎖を非難した上で、商船の航行への妨害停止を求め、「航行の自由は、国連海洋法条約を含む国際法の下で確立された原則である」ことを強調していることから、「航行の自由」、特に、ホルムズ海峡における(非武力紛争当事国)商船の航行の自由は、武力紛争時であっても維持されることを示唆しているという点で、当該声明は海洋法上重要、かつ、意義あるものと考えられる。なお、上述のサンレモ・マニュアルも、平時に国際海峡に適用される通過通航権は、武力紛争時においても引き続き適用されると記述している13。
ホルムズ海峡の制度的構成の特殊性等
ホルムズ海峡は地理的にはアラビア半島中のムサンダム半島と対岸の大陸との間の海峡であるが、法制度上はイランとオマーンの領海として構成されている海峡である。なお、イランは、国連海洋法条約に署名したが、加入していない。また、署名時、「通過通航」制度は締約国のみに適用される旨の解釈宣言を行い14、国内法では、外国船舶がイラン領海を通航する場合「無害通航」権の範囲でのみをこれを認め15、軍艦等の通航に関してはイランの関係当局の事前許可を要件とし16、安全保障上の利益又は自国防衛上「無害通航」を停止できる旨を定めている17。このイランの国内法に関しては米が抗議している他18、EU、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタール、バーレーンが国際法違反であるとして抗議・異議申し立てを行っている19。他方、オマーンは国連海洋法条約の締約国である。しかし、署名時、オマーン領海への通過通航制度の適用に否定的な解釈宣言を行っている20。もっとも、外国軍艦の(潜没航行等による)ホルムズ海峡のオマーン領海部分通過に関し、オマーンが公式に抗議した事例は確認できない。
なお、1972年の海上衝突予防規則Rule10に基づき、ホルムズ海峡には国際海事機関(IMO)の定める分離通航帯が設定されており、ホルムズ海峡を通過する外国船舶は基本的に当該分離通航帯を航行することになるが、当該分離通航帯は、水深の関係でオマーン領海内に設定されている。よって、イランが自国領海において通過通航権を認めていないこと、また、ホルムズ海峡の自国領海部分で無害通航を停止することは、ホルムズ海峡通過に関し、国際海運上は基本的に影響がない。そのため、イランが国際海運のホルムズ海峡通過を阻止するには、オマーン領海での機雷の敷設や商船攻撃が必要になる。しかし、これはオマーンの領域主権の侵害となり21、一般国際法上違法と解される。また、イランによる当該行為はオマーンの領域主権侵害であると同時に、武力行使禁止原則に違反すると解されるが、自衛権行使の要件となる武力攻撃に当たるかについて、中谷和弘教授は、「多分に状況次第だが、侵略の定義(国連総会決議3314、1974年)では、『一国の兵力による他国の港又は沿岸の封鎖』を侵略行為の一例として例示しており、その限りではイランによるオマーン側のホルムズ海峡封鎖はオマーンに対する武力攻撃と推定され得る」と指摘している22。
「はじめに」で述べた報道やUKMTOの発表等を踏まえると、現在のイランによるホルムズ海峡の事実上の閉鎖は、ホルムズ海峡のオマーン領海内分離通行帯を通航する商船であっても機雷、ドローン、ミサイルによる攻撃を受けることを暗示する脅迫行為を主な手段としていると思われるが、当該脅迫が効果を挙げているのは、共同声明でも述べられているように、ペルシャ湾でイランが商船(タンカー等)を攻撃しているため、脅迫内容の蓋然性が高いと認知されやすいこと、特に石油タンカー乗組員の場合、攻撃の脅迫を受ければ致死的被害を受けるという恐怖感が強く醸成されるため、航行を断念するのは必然的だからであろう。共同声明では、イランに停止を求める商船航行への妨害として、まず脅迫行為を挙げているが、それは上述の状況を踏まえてのことと考えられる。
また、イランがホルムズ海峡の事実上の閉鎖の手段として現時点では脅迫行為を主としているのは、上述の法的事情を加味してのことと考えられるが、手段が脅迫にとどまっているとしても、その目的はホルムズ海峡のオマーン領海内分離通航帯における商船の航行を妨げることであり、現にそのような結果を生起させている以上、違法(非難可能性)性は高いと言えるだろう。
おわりに
ホルムズ海峡に関する英・仏・独・伊・蘭・日の首脳による共同声明は、イランに対し脅迫行為などの商船(商業船舶)の航行を妨害する一切の行為の即時停止、安保理決議2817の遵守を求めるとともに、「航行の自由」は国際法の下で確立された基本原則であるとし、すべての国が国際法を遵守することを求めるものである。政策的観点に立てば、当該共同声明は常識的な内容を述べているという理解にとどまるかもしれないが、国際法、特に海洋法の観点に立った場合、従来「航行の自由」の内容に関する海洋法上の争点は、主に軍艦に関するものであったが、本声明は、その内容として商船の航行・国際海運に焦点を当て、両者が海洋法上保護対象となる海洋権益であることを強調しており、従来とは異なる視点から国際法上の「航行の自由」の内容を指摘していると言い得る点で、国際法上意義あるものと言えよう。
また、国際法の適用が一元論化された現代において、武力紛争法と海洋法の関係は特別法と一般法として捉えざるを得ない状況下、武力紛争時であっても適用が維持される海洋法上の原則は何かが海洋法上の論点となり得るが、共同声明は当該原則として商船の航行の自由を示唆していることから、この点でも、共同声明は、海洋法上重要、かつ、意義あるものと考えられる。
なお、ホルムズ海峡は、イランとオマーンの二カ国の領海として構成されているが、オマーンは停止することのできない通過通航制度を規定した国連海洋法条約の締約国であるのに対し、イランは同条約に未加入である。しかしながら、ホルムズ海峡内の分離通航帯はオマーン領海内に設定されているため、同海峡を通過する外国船舶は基本的にオマーン領海内を航行することになる。したがって、イランがホルムズ海峡を閉鎖するためには、オマーン領海内の船舶航行を遮断する必要があるという事情がある。通航妨害の手段としてイランは主に脅迫という手段をとっており、共同声明では国際海峡における「通過通航」制度に言及していないが、その背景にはこういった事情があることを押さえておくことも、ホルムズ海峡における問題を分析検討していく上で肝要であろう。
Profile
- 永福 誠也
- 理論研究部政治・法制研究室主任研究官
- 専門分野:
国際法(武力紛争法、海洋法、国際刑事法)、刑法