NIDSコメンタリー 第423号 2026年3月10日 イランに対する攻撃と軍事衝突の地域的波及——ガザ紛争の「大詰め」としての戦争と沈黙のフーシー派
- 理論研究部社会・経済研究室 研究員
- 𠮷田 智聡1
エグゼクティブ・サマリー
- 米国とイスラエルは2月28日、イランに対する攻撃を行った。イランはハーメネイー最高指導者や軍指導部を軒並み喪失する被害を受けた。米国は作戦目標として、①ミサイル能力の破壊、②海軍の殲滅、③核兵器保有の阻止、④親イラン勢力への支援阻止を挙げている。
- 米国・イスラエルの攻撃は、2023年10月に始まったガザ紛争の「大詰め」としての側面がある。同紛争はパレスチナを超えて中東地域全体に拡大し、イスラエルは地域内の親イラン系勢力を各個撃破していった。さらに2024年からイランにも攻撃したうえで、イスラエルは今般の指導部斬首を通して、体制転覆も視野に入れる形でイランに最大限の打撃を与えることを目指しているとみられる。
- この軍事衝突は既に中東地域に波及しており、その影響は国際的にも甚大である。イランによる反撃は、GCC諸国の米軍施設に留まらず石油施設や民間施設にまで被害が及んでいる。特に湾岸諸国において水資源供給の大部分を担う海水淡水化プラントは、極めて脆弱なインフラである。
- ヒズブッラーやイラク諸派ですら攻撃を行う中、ガザ紛争中に最も好戦的な姿勢を示したフーシー派は、軍事介入を宣言していない。比較的勢力を温存しているとみられる同派は、事実上の沈黙状態にあるが、サウディアラビア等の石油施設に対する脅威であることに変わりはない。
(注)本稿のデータカットオフ日は2026年3月8日であり、以後に情勢が急変する可能性がある。
米国・イスラエルの攻撃
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する合同軍事作戦を開始した。米国が「壮絶な怒り(Epic Fury)」、イスラエルが「咆哮する獅子(Roaring Lion)」と呼ぶこの作戦は、イランの指揮統制センターや革命防衛隊統合司令部などを標的とした。米国中央軍の発表によれば、イランのUAV「シャヘド136」を模倣した「低コスト無人戦闘攻撃システム(LUCAS)」が初めて実戦で使用されたほか、B-2ステルス戦略爆撃機や各種戦闘機、防空システムなど多種多様なアセットが投入された2。また、米国は「記載できない特殊能力」も投入したと明かしており、アンソロピック社製のClaude AIが使用されたという報道も見られる3。
イスラエルは、2月23日に米国との電話会談でイラン最高指導者やその側近らを一撃で殺害できると伝えたと言われており、軍事作戦の準備と外交交渉を同時に進めていたドナルド・トランプ(Donald Trump)政権に前者を選択させることに成功した4。長年イランに対する諜報工作を仕掛けてきたイスラエルは、最高指導者アリー・ハーメネイー(‘Alī Khāmene’ī)らの会合にかかる情報を掴んでおり、空爆で彼を筆頭とする指導部を殺害した[表1参照]。テヘラン市内のほぼ全ての交通監視カメラは何年も前からイスラエルにハッキングされ、ハーメネイー邸宅前のカメラから身辺警護にかかる情報などが漏洩していたとされる5。また2月28日の攻撃直後、イランで用いられる宗教カレンダーのアプリ「バーデサバー(Bād-e Ṣabā)」上でイラン軍からの離脱を求めるメッセージが表示されるなど、激しいサイバー戦も展開されている。総じて見れば、米国とイスラエルはイランに対する圧倒的な軍事的優位を活かして、イラン指導部に強力な打撃を与えることに成功したといえる。
【表1:米国・イスラエルの攻撃で殺害されたイランの政治・軍事指導部】
| 役職 | 名前 |
|---|---|
| 最高指導者 | アリー・ハーメネイー |
| 国防評議会議長 | アリー・シャムハーニー |
| 国防軍需大臣 | アズィーズ・ナスィールザーデ |
| 統合参謀総長 | アブドゥッラヒーム・ムーサヴィー |
| 統合参謀本部作戦企画部長 | バフラーム・モトラク |
| 統合参謀本部兵站支援副部長 | モフセン・ダッレバーギー |
| 革命防衛隊総司令官 | モハンマド・パークプール |
| 革命防衛隊航空宇宙軍司令官 | マジード・ムーサヴィー |
| 最高指導者軍事事務所代表 | モハンマド・シーラーズィー |
| ハータモルアンビヤー中央基地諜報部長 | サーレハ・アサディー |
| 情報省幹部 | モハンマド・バーセリー |
| 警察諜報局長 | ゴラームレザー・レザーイヤーン |
| 国防イノベーション研究機構代表 | ホセイン・アーメリヤーン |
| 元国防イノベーション研究機構代表 | レザー・ニヤー |
(出所)Al Jazeeraを基に筆者作成
この作戦の目標について、3月2日にトランプは①ミサイル能力の破壊、②海軍の殲滅、③核兵器保有の阻止、④親イラン勢力への支援阻止を挙げた6。同日に米国国防長官ピート・ヘグセス(Peter Hegseth)も「いわゆる体制転換戦争ではない」と発言7した一方、当初トランプはイラン民衆への蜂起を呼びかけていたため、戦争の目標を修正したとの見方がある8。イスラエルは合同軍事作戦について、「イランのテロリスト体制(筆者註:原文ママ)を徹底的に弱体化させ、イスラエルに対する生存の危機を除去するため」であるとした9。イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)は、トランプが(体制打倒を含めない)上記4目標を掲げた後もイラン国民に体制打倒を呼びかけており、体制打倒を含むか否かなどで米国とイスラエルの間に目標上の齟齬があるという指摘もある10。トランプ政権は既に開戦にかかる国内向けの正当化に苦慮しており、今後その目標が二転三転する可能性がある一方、イスラエルは体制打倒も含め最大限のイランの弱体化を目標としていると考えられる11。
前述の通り、イスラエルがイラン指導部の会合情報を得たことが作戦決行のタイミングに影響を与えたとみられる。それに加えて、イラン攻撃は2023年10月~2025年10月のガザ紛争や、開戦直前まで続いていた核協議というより長い時間軸で捉える必要がある。ガザ紛争において、イスラエルはパレスチナ自治区のハマースに壊滅的な打撃を与えるだけでなく、レバノンのヒズブッラーの大幅な無力化や、シリアのアサド(Bashshār al-Asad)政権崩壊に乗じてシリア南部の占領も進めた。後述するようにイエメンの武装組織「フーシー派」に対しても斬首作戦を実施しており、総じて見ればイスラエルはイランを主導とする反西側ネットワーク「抵抗の枢軸」の弱体化に成功した。イスラエルは2024年4月以降、同年10月と2025年6月にイランへの大規模な攻撃を行っており、ガザ紛争を嚆矢とする地域内の敵対勢力排除の「大詰め」としてイランの弱体化を目指していると考えられる。
核を巡る協議は、イランの核開発疑惑が明らかとなった2002年に遡るものであるが、直近の動きとしては2026年2月に前年の中断を経て再開されていた12。再開後3回目の協議(2月26日)を受けて、仲介を担うオマーン外務大臣バドル・ブーサイーディー(Badr al-Būsa‘īdī)は、「米国とイランの交渉に重大な進展があった」と述べていた13。イランも米国が「過剰な要求」を取り下げる必要があるとの認識を示しつつも、前進を歓迎する姿勢であった14。他方で『アクシオス』は、トランプが米国側の交渉を担う中東担当特使スティーブ・ウィトコフ(Steven Witkoff)や、トランプの娘婿ジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)から「交渉が行き詰まっている」という報告を受けたと報道している15。オマーンやイランが実際に進展を感じていたかは別として、トランプ政権は交渉に見切りをつけた形となった。
真偽は判然としないものの、サウディアラビア皇太子ムハンマド・ビン・サルマーン(Muḥammad bin Salmān, 以下MbS)がトランプに対して攻撃を実施するよう後押し16したという報道が散見される17。2023年にサウディアラビアとイランは中国の仲介の下で外交関係を回復させ、以後合同海軍演習や政府高官の相互訪問などを実施し、安定的な関係を構築しようとしていた。ただし、合意後もMbSが「もしイランが核を持てば、我々も持たねばならない」と述べていたように、イランを脅威とみなすこと自体に変わりはなかった18。本稿は今般MbSが実際にトランプを後押ししたかは判断しないものの、その可能性は完全に排除できないと考えられる。
イランによる反撃と地域への拡大、ホルムズ海峡封鎖
最高指導者を失ったイランは、攻撃同日から「真実の誓い4」作戦を発動して反撃を開始した。イランの攻撃範囲はイスラエル領や在中東米軍に留まらず、中東諸国の民間施設にも及んでいる。ヒズブッラーは2024年に大打撃を受けた後、目立った対イスラエル攻撃を実施していなかったが、今般の情勢では参戦した。同組織は開戦以前に「限定的なイランへの攻撃であれば参戦しないが、ハーメネイーを標的としたり体制転覆を試みたりする場合は、レッドラインとなる」と警告していた19。また「シャヘドのようなドローン」が在キプロス英軍基地を攻撃したが、英国防省はイランから発射されたものではないと評価している20。
在中東米軍については、2025年も攻撃対象となったカタルのみならず、クウェートやバハレーン(第5艦隊司令部)、UAE、サウディアラビア、ヨルダンなどが攻撃を受けている。また海外軍の常設基地を置いていないオマーンについても、米軍が補給に用いるドゥクムやサラーラが攻撃対象となったほか、NATO加盟国で米軍基地を擁するトルコにも攻撃が及んでいる。イラクの親イラン系諸武装組織も参戦しており、バグダード空港付近のヴィクトリア米空軍基地やクルディスタン地域のエルビルへ攻撃を行った。米国やイスラエルはイラク拠点のクルド人武装組織にイランでの陸戦を行わせようと画策しているとみられ、国内の抗議運動を抱えるイラン側はクルド勢力への警戒感を高めている21。
民間施設については、上記の国々の空港や石油施設、ホテルなど広範な施設が被害を受けている。さらに、水資源の大部分を供給する海水淡水化プラントに対するイランの攻撃が行われており、湾岸諸国の脆弱性が浮き彫りとなった。イスラエルと良好な関係を持つアゼルバイジャンでは、飛び地領であるナヒチェバン共和国の空港にUAVが直撃しており、アゼルバイジャン大統領イルハム・アリエフ(Ilham Aliyev)が軍に報復を指示した(イランは関与否定)。イラン側でも南部ミーナーブにあるシャジャラ・タイイェベ女子学校が空爆を受けて児童が多数死亡するなど、広域で民間被害が拡大している。3月7日にイラン大統領マスウード・ペゼシュキヤーン(Mas‘ūd Pezeshkiyān)が「その国から攻撃が来ないかぎり、近隣諸国は標的とならない」旨を決定したうえで、謝罪の意を表明したため、大統領周辺には軌道修正を図りたい意向が窺われる。しかし国内の強硬派は既に反発を示しており、「分散型モザイク防衛戦略」と呼ばれる司令官に作戦権限を委譲する戦時体制が敷かれた現状では、どれほどの統制力を持つかは不明である。
陸での戦いに加えて、イラン軍はホルムズ海峡周辺の船舶への攻撃を行っており、これにより同海峡の通航船舶量が急減した。革命防衛隊は当初封鎖を主張していたが、3月6日に正規軍報道官が海峡を封鎖しておらず、米国とイスラエルの船舶以外の通航を認めると述べた。この論法は、ガザ紛争期におけるフーシー派の「紅海・アデン湾においてイスラエル関連船舶以外は攻撃対象としない」という主張と酷似している。実際には同派は、イスラエルと関係がない船舶も(イスラエル関連と主張することで)攻撃していたため、今般の情勢においてもイラン側の主張をそのまま受け取るべきではないであろう。イランは石油施設や船舶への攻撃を通して国際経済に打撃を加えることで、中間選挙を控える米国に圧力をかけようとしていると考えられる。コモディティ市場では原油価格が上昇した一方、為替市場では2026年1月には約4年ぶりの低水準になっていたドル指数が3月6日時点で100を視野に入れる局面となっており、現金に限定する形とみられるものの「有事のドル買い」も見られた。
従来指摘されてきたように、ホルムズ海峡封鎖は、イランにとっても実行したくない「諸刃の剣」の選択肢であった。経済制裁によって苦境に立たされる同国は、中国への原油輸出によって外貨を獲得してきた背景があり、海峡封鎖はその苦境を一層悪化させるためである。しかし、それは裏を返せば体制存続のうえで悪影響であるという理由であり、体制崩壊につながりかねないほどの軍事衝突では、イランが有効に圧力をかける手段となる。
イラン軍の反撃もある一方、米軍とイスラエル軍は着々とイラン軍の能力破壊を進めている。イスラエルは3段階から成る航空優勢確立計画を示したうえで、3月7にはテヘラン上空の制空権をほぼ掌握したと述べた。同国はイラン国内の治安維持を担う司令部・部隊等への攻撃を強めるとともに、テヘラン周辺の石油施設も攻撃した。また、イスラエル軍はイランの防空システムの80%を破壊したと述べている22。イラン劣勢で状況は推移しているとみられ、3月5日に米国中央軍ブラッド・クーパーは、開戦初日時点と比較してイランの弾道ミサイル攻撃が90%減少、ドローン攻撃も83%減少したと報告している23。
本稿のデータカットオフ日である3月8日時点で、最高指導者は決定されたとみられる一方、氏名は公表されていない。候補としてはハーメネイーの次男モジュタバー(Mojtabā Khāmene’ī)や、初代最高指導者の孫ハサン・ホメイニー(Ḥasan Khomeynī)の名が取り沙汰されてきた。なお、モジュタバーの法学者としての階級(ホッジャトルイスラーム)が最高指導者のそれに及ばないという指摘があるが、父アリーも最高指導者に選出される過程で同様の問題に直面し、憲法の条項改正を図った経緯がある。
やや余談ではあるが、今回の軍事衝突では、他の紛争と同様に激しい情報戦が繰り広げられている。それらの中にはAI生成画像の流布などが含まれており、例えばネタニヤフおよびイスラエル軍参謀総長の死亡に関する『ジャズィーラ(アル=ジャズィーラ)』風の偽報道や、ハーメネイーの死体と称する偽画像がソーシャル・メディア上で出回った[図1参照]。前者は『ジャズィーラ』の字幕用字体を精巧に模倣しており、(内容は非現実的であっても)一見するだけで真贋を見抜くのは難しい。発信者が不明なソーシャル・メディアのみならず、専門家によるスクリーニングを経た新聞やテレビなどの他媒体、あるいは外国語などを含めた幅広い情報収集が求められる。
【図1:ソーシャル・メディア上で出回った偽情報・誤情報】
(注)ソーシャル・メディア上で出回った偽画像である。
(出所)Xより引用
事実上の沈黙を貫くフーシー派
抵抗の枢軸の一角を占めるフーシー派は、今般の情勢において軍事介入を宣言しておらず、反応が鈍い。同派が事実上の沈黙を貫く理由については、様々な議論が交わされているところであるが、以下に能力と意思に分けたうえで考えられ得る要因を示す。
能力の面では、フーシー派は依然としてミサイル・UAV等の戦力を保持しており、これらをイスラエル領や在中東米軍、あるいはGCC諸国の石油施設等への攻撃に用いることができる状態にある24。またガザ紛争への軍事介入時に行ったように、紅海・アデン湾等を航行する船舶への攻撃も可能である。
意思の面では軍事介入の宣言をもたらし得る要因と、もたらし得ない要因の双方が混在しており、後者が前者に勝っているため、介入宣言が行われていないと考えられる。前者については、フーシー派がイランの体制護持や自派の軍事的優位性維持のために介入が必要と判断した場合である。同派はイランからの軍事支援を一因として、今日のイエメン国内における軍事的優勢を確保した経緯がある。また、同派が今日保有しているミサイル・UAV戦力はイランからの密輸品であり、サウディアラビアなどに対する威圧の道具として用いられてきた。イランの体制が崩壊すれば、これらの前提が崩れることとなる。同派の幹部にはイランで訓練を受けた者も多く、強硬派はイランに呼応する可能性が高い。
後者については、フーシー派は2025年3月~5月の米国との交戦、あるいは前述のイスラエルとの交戦によって、政治・軍事指導部や軍事アセットに一定程度の被害が生じていた。同派は同年10月のガザ停戦後に戦力の補充を急いできたとみられており、そうした中で軍事介入を行えば、人的・物的資源を一層失うことになる。また、イブラーヒーム・ジャラール(Ibrāhīm Jalāl)はイランからの命令があれば参戦するとの見方を示しつつも、同派にはイランを見捨ててイエメンの和解プロセスに真剣に取り組むという選択肢もあると述べた25。
フーシー派の意思決定に影響を与えられるイランの目線では、既にヒズブッラーとイラク諸派を参戦させている。米国・イスラエルとの長期戦を視野に入れなければならない中、フーシー派は自国に残された「切り札」となっており、どのタイミングでどういった軍事作戦を行わせるかが焦点となろう。そして前述の通り同派は依然として様々なアセットを保持しているため、同派が参戦すれば、さらなる戦火の拡大は免れない。
Profile
- 𠮷田 智聡
- 理論研究部社会・経済研究室 研究員
- 専門分野:
中東地域研究(湾岸諸国およびイエメンの国際関係・安全保障)、現代イエメン政治