NIDSコメンタリー 第420号 2026年2月24日 在日米軍駐留経費を考える——終戦処理から同盟強靭化へ

理論研究部 社会・経済研究室 主任研究官
小野 圭司

はじめに

発足から1年が経過した米国の第2次トランプ政権は、対外経済・安全保障政策の再編を明確に打ち出し同盟関係の「取引化」を一段と強めている。2025年12月に発表された「米国国家安全保障戦略」では、西半球の安全と繁栄を最優先の戦略的利益と位置づける一方、欧州およびインド太平洋地域の同盟国に対しては負担分担の是正を求めている。ウクライナへの軍事支援縮小や、北大西洋条約機構(NATO)諸国に対する防衛負担の欧州中心化要求は、この戦略的再配分の具体的表れであり、「米国第一」主義は安全保障分野でも一貫した政策原理となっている。

日本に対しても、在日米軍の駐留経費負担や防衛費増額を求める姿勢が強まる可能性が高い。トランプ大統領は従来から日本の安全保障負担が不十分であるとの認識を繰り返し表明しており、第2次政権でもこの認識は基本的に変わっていない。

日本政府は、安全保障政策の自律性を確保しつつ同盟関係の安定を維持する方針を掲げている。実際、日本は岸田政権下で2027年度までに防衛費を国内総生産(GDP)の2%とする方針を決定し、装備取得、弾薬備蓄、基地の強靱化などの分野で防衛力整備を加速させている。また昨年10月に発足した高市内閣は、東アジアの安全保障環境が厳しさを増していることを踏まえ、防衛費のGDP2%とする目標を前倒しして2025年度中に達成することとした。

ただしトランプ政権は第1次政権期と同様、同盟国に対して防衛費水準のみならず、駐留米軍経費のさらなる受入国負担を求める姿勢を崩していない。現在、日本の在日米軍駐留兵力は約5万~6万人規模であり、駐留経費負担額は世界でも最大水準にある。

太平洋戦争後の終戦処理費

そもそも駐留米軍の経費負担はどのように生じ、そしてどのような状況にあるのか。その起源を遡ると、戦後の連合国軍(米軍)の駐留経費負担に辿り着く。

当時の連合国軍による占領は、講和条約締結前の国際法で規定する「保障占領」である。講和条約締結やその実施を担保するための占領で、通常これに要する経費は被占領国が負担する。日本も日清戦争後には、「下関条約」に定めた賠償金支払いと台湾割譲が実施されるまで威海衛を保障占領し、この経費は清国が負担した。

太平洋戦争後の「占領軍の経費負担」について、戦争中に策定された1945(昭和20)年度予算には、もちろんそのような支出項目はない。しかし終戦後、1945年度中は日銀が占領軍に対して必要額を立て替え払いした。そして翌年度からは「終戦処理費」として予算化され、日銀が立て替えた分も返済された。終戦処理費によって、占領軍用の兵舎・住宅の建築と、占領軍が使用する家事使用人や通訳・運転手などの日本人雇用者の給与がまかなわれた。

終戦処理費は1947年度一般会計歳出の30%、国民総生産(GNP)の5%に相当した(1946年度予算の終戦処理費には前年度に日銀が立て替え払いした分の日銀宛て返済が含まれている)。その後は徐々に比率を下げたが、「サンフランシスコ平和条約」締結の前年の1951年度でも一般会計の約12%を占めていた。

国家が崩壊したドイツでも、1949年5月のドイツ連邦共和国(西ドイツ)建国からは連合国軍の占領経費を負担しており、1950年には国家予算の38%、GNPの15%に当たる金額がそれに充てられた。両国ともに占領軍の駐留経費負担は、戦後の再建に向けて重くのしかかる負担だった。

ところが1950年6月の朝鮮戦争勃発や、対日講和交渉の進展、さらには戦後日本の均衡財政を厳しく指導した連合国軍最高司令部(GHQ)金融政策顧問のジョセフ・ドッジ公使が占領経費の日本負担軽減を米国政府に進言していたことから、米国の1952会計年度(1951年7月~27年6月)の占領費は日米で折半となった。

日本が主権を回復(1952年4月)してからは、この半額負担を基準に「防衛支出金」と費目を変えて存続した。それまでに支払われた終戦処理費など占領経費の総額は、5,131億円に上る(表1)。

表1:日本が負担した連合国軍の占領経費(1946〔昭和21〕~53年度)

(単 位:億円)
直接占領費 金額
労務費(占領軍に雇用された者の給与) 1,307
工事費(占領軍用住宅・兵舎などの工事費) 774
需品費(占領軍に納入する物品など) 948
役務費(運輸・通信・設備の維持管理など) 1,750
その他(準占領費、終戦処理付帯事務費)共計 5,131

註:戦後にはインフレが急伸したが、値は単純に加算したもの。なお「準占領費」には戦犯裁判諸費9,937万円が含まれている。占領経費は終戦処理費から庁費など(終戦処理費の1%強に当たる)を除いたもの。
出所:占領軍調達史編さん委員会編『占領軍調達史(統計編)』(調達庁総務部調査課、1955年)106頁。

防衛支出金と思いやり予算

防衛支出金は防衛分担金 (在日米軍への交付金) 、在日米軍に対する施設提供などに伴う諸経費、米国軍事援助顧問団経費(1954年度以降)で構成されていた。1960年の「日米安全保障条約」(「新安保条約」)成立で、防衛支出金の大部分を占めていた防衛分担金は自衛隊増強と引替えに、同年度で廃止された。

米国にしてみると、駐留米軍の経費負担はしなくて良いから、それよりも日本は自力で防衛力を強化せよということだ。圧倒的な経済力を有していた当時の米国は、外交・安全保障面でも鷹揚なところがあった。そして1962年度から、自衛隊増強を目的とする「第2次防衛力整備計画(2次防)」が5ヶ年計画で始まった。

ところが日本の経済力が向上し円高も進んだ1978年には、米国の要請もあって在日米軍の労務費を日本が支払うことになった。日本が自発的に米軍駐留経費の負担を再開したという建前から、これは「思いやり予算」と呼ばれた。「在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策として、財政事情などにも十分配慮しつつ、我が国が在日米軍駐留経費を自主的に負担」(防衛省ホームページ)するものだ。その後は施設整備費、光熱費なども支出対象となり、2022年度(令和4年度)から正式名称が「同盟強靭化予算」となった。2025年度には2,274億円の予算が計上されている。

ちなみに「同盟強靭化予算(旧称:思いやり予算)」は在日米軍駐留経費の一部に過ぎない(表2)。在日米軍の駐留に関する経費負担の原則は「日米地位協定」に規定されており、日本は施設・区域などの提供に関する経費を負担することになっている。またこれ以外にも地位協定の特例である「特別協定」に基づいて関連経費を支払っている。さらには沖縄の基地負担軽減(SACO関係費)や米軍再編関連経費なども日本が負担している。

具体的には地位協定に基づく駐留軍等労働者の福利費・提供施設整備費などがあり、「特別協定」によるものとして駐留軍等労働者の基本給・光熱水料・訓練移転費・訓練資機材調達費などがある。

表2:在日米軍関係経費(令和7年度予算)

在日米軍の駐留に関する経費 地位協定分 特別協定分 その他共計
●施設整備費、労務費、光熱費など 639億円 1,635億円 2,274億円
周辺対策、施設借料、漁業補償など 2,298億円 2,298億円
基地交付金、提供普通財産借上費* 2,044億円
SACO関係費 16億円 111億円
米軍再編関係経費 86億円 2,146億円
合計 2,937億円 1,737億円 8,873億円

註:●は駐留米軍経費負担を示し、いわゆる「同盟強靭化予算(旧称:思いやり予算)」に相当する。基地交付金、提供普通財産借り上げ費は令和6年度の予算・試算。SACO関係費とは沖縄の基地負担軽減を目的とする、米軍訓練の移転・騒音対策・施設整備などの経費。
出所:防衛省ホームページ

世界における米軍駐留経費負担

米国は現在、世界中の約60ヶ国・地域に軍を展開・駐留させている。そして日本も含めて受入国側では、それぞれの国情などに応じて米軍の駐留経費を一部負担している。

古い数値だが、2002年の米軍駐留受入国の負担金額と負担率の一覧が2004年に米国防省から発表されている。その内容を駐留兵員数と併せて表3に示す。なお表中の駐留兵員数は23年のもので、負担金額・負担率との時期的整合性には留意が必要である。

日本には陸海空軍と海兵隊合計55,600人が駐留しており 米軍が駐留している各国の中では最も多い。2番目がドイツの39,050人、3番目は韓国で30,400人だ。これにイタリア・英国・クウェート・サウジアラビアが続く。60ヶ国・地域の中で、この7ヶ国が抜きん出て米軍の駐留兵員数が多い。

これはそのまま、アジア・欧州・中東の安全保障上の緊張度を示しているとも言える。駐留米軍経費の受入国負担率を見ると、各国とも米軍の駐留に決して「タダ乗り」しているわけではないことが分かる。駐留兵員数の多い日本の負担額が多いことは容易に想像できる。実際に米軍駐留受入国の中では最高額を負担しており、その金額は2番目に多いドイツの3倍近い。そして駐留経費の受入国負担率でも、日本はノルウェーに次ぐ世界で2番目の高い率である。これは米軍の日本駐留に対して日本政府が高く評価していることの証左でもある。

もちろんその背景には、在日米軍が日本の防衛のみならず、東アジア全体の軍事力均衡と抑止構造の中核を成しているという現実認識がある。換言すれば、駐留経費負担は「同盟維持のコスト」であると同時に、日本自身が安全保障環境を主体的に形成するための戦略的投資でもある。

表3:駐留米軍経費負担の国際比較

国名 駐留米軍兵員数 受入国負担額 受入国負担率
日本 55,600人 44.1億ドル 74.5%
韓国 30,400人 8.4億ドル 40.0%
ドイツ 39,050人 15.6億ドル 32.6%
イタリア 13,050人 3.7億ドル 41.0%
英国 10,000人 2.4億ドル 27.1%
スペイン 3,250人 1.3億ドル 57.9%
トルコ 1,700人 1.2億ドル 54.2%
ノルウェー 1,100人 0.1億ドル 83.5%
クウェート 10,000人 2.5億ドル 58.0%
カタール 10,000人 0.8億ドル 61.2%
サウジアラビア 2,500人 0.4億ドル 64.8%

註:駐留米軍兵員数は2023年、受入国負担額と受入国負担率は2002年の値。
出所:U.S. Department of Defense, 2004 Statistical Compendium on Allied Contributions to the Common Defense; Military Balance 2024より作成。

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  • 小野 圭司
  • 理論研究部 社会・経済研究室 主任研究官
  • 専門分野:
    戦争・軍事の経済学 戦争経済思想