NIDSコメンタリー 第415号 2026年1月20日 ロシア・ウクライナ戦況メモ 2025年10~12月

地域研究部 米欧ロシア研究室長
山添 博史

ロシア赤色による制圧・戦闘地域の図


ロシア軍がドネツク州で前進、ウクライナ軍が反撃努力

本稿は2022年2月以来のロシア・ウクライナ戦争において2025年10月~12月の期間の主な推移を扱う1。ロシア軍は引き続き主要な攻撃の場所を選び、ウクライナ軍に防衛を強いることで、主要なイニシアチブを保持し、ウクライナ軍は部分的な反撃を行った。ロシア軍は、東部でウクライナ軍の防衛拠点を崩してドネツク州北西部に残るウクライナ統治地域を制圧することを目指してきたと見られる。そこに向かう方向を二分して見るとすれば、2022年9月に失陥したハルキウ州東部からドネツク州北部に迫るルートと、ドネツク州中央部から北西に向かうルートがある。

北からのルートで争点となってきたのは、ハルキウ州東部のクピャンスクである。2025年8月にロシア軍がオスキル川を西に渡ったところからクピャンスク市街北部に進軍し、9月には中心部も戦闘地域となっていた。ロシア軍の参謀総長は11月20日にクピャンスクを解放したと述べ、12月2日にプーチン大統領がすでに数週間もロシアが完全に統制下に置いていると述べた。しかし、12月12日にはウクライナ軍が市内中心部を奪回し、前線近くにゼレンスキー大統領が入って、クピャンスクの市名表示とともに立つ映像を配信した2。ロシアの軍事ブロガーも、ロシア当局が現実と大きく異なる発表をして失敗を見せたことを批判した。一方、ドネツク州北部では、ウクライナ軍はシヴェルスクからは撤退を強いられ、リマンにもロシア軍が迫って攻撃してきた。

中央のルートでは、ロシア軍はバフムトの東チャシウ・ヤルから、主要都市コスチャンチニウカへの攻撃を続けてきた。2025年前半に制圧したトレツクから北西に進み、10月~12月にはコスチャンチニウカの近傍の土地を制圧して、同市は南東からの砲撃で大きな破壊を受けるようになった。

ポクロウスクへのロシアの攻撃は厳しくなり、ウクライナはすでに都市機能をほとんど利用できなくなった。10月29日にプーチン大統領は、ポクロウスクは包囲されていると述べたが、ロシアの軍事ブロガーはまだ包囲には至っていないと評価していた。しかし10月末には、市内に浸透したロシア兵がかなり多くなってきて、ポクロウスクの陥落は最終段階との報じられ方が増加した3。ポクロウスクと、東隣のミルノフラドにいるウクライナ部隊の補給路や退路は狭くなってきた。軍事研究者のマイケル・コフマン氏は、ドローンによる監視と攻撃が優勢となっている状況で、2~3人のロシア歩兵が高い死傷率のなかでもウクライナ側の監視をかいくぐって浸透して次の接触線をつくっており、戦況が見えにくくなっていると指摘した4。実際に、公開される画像と位置情報で確認できる状況では、12月末にも市内での戦闘が続いた5。ウクライナが失われた都市で市街戦の損耗を続けているのか、ロシアが制圧しきれずに損耗を続けているのか、評価は難しい。ただ、ロシアの作戦目標として、ポクロウスクの補給拠点としての機能を無効化することはすでに達成したが、ポクロウスクの制圧を果たしたので次の目標に前進したとはまだ言えない。

ロシアでは軍事力で前進できているという認識であり、『コメルサント』紙は2024年に3か所の拠点を制圧したのに対して2025年には10か所を制圧したと示す地図を掲載した6。ただし、仮に、人口規模6万のポクロウスクと5万のミルノフラドを制圧するのに1年かかったとすれば、人口規模7万のコスチャンチニウカ、10万のスロヴャンスク、15万のクラマトルスクは3倍の規模の都市であり、ロシアがその防御線を制するには相当の時間がかかることになろう。ロシアとウクライナが同様の戦力投入ができるならば、3年かかると想定することも可能であり、戦力差が開いていくならばそれより早くウクライナは失っていくと想定することも可能である。ウクライナは部分的に奪回することができているが、総じて後退を強いられ、生活空間だった都市を破壊されていっている。ロシアは前進しているが、ウクライナを屈服させるには遠く、重い損耗をともなう戦闘をどれほど続けられるのか明白ではない。双方にとって困難な戦闘が続くと見込まれる。

米国トランプ政権が繰り返す働きかけ

米国のドナルド・トランプ大統領は、早期の戦闘停止を期待し、ウクライナとロシアに呼びかけてきたが、ロシアがウクライナへの攻撃を激化させ、早期の戦闘停止をする意向ではないことに繰り返し直面してきた。同大統領は、仲介を断念する可能性もたびたび示唆したが、引き続き関与を継続し、ロシアが止まることを考えるまでは力の行使が必要であるとの認識を強めた。

トランプ大統領は10月16日、ハンガリーでプーチン大統領と首脳会談を行うと表明した。しかし、20日の米露外相電話会談のあと、トランプ大統領は進展の見込みがないとして首脳会談を延期し、10月22日に経済制裁を発表した。ロシアにとってこれは、ウクライナに対する要求を譲らなかったための交渉の頓挫であったが、そのあとの10月24日にも非公式なメッセンジャーとして実業家のキリル・ドミトリエフ氏を米国に送り込んで、トランプ大統領の側近のスティーヴ・ウィトコフ氏に働きかけた。

それによって、ウィトコフ氏がロシアとの取引による決着が可能だという提案を準備した。それは11月20日に28項目の提案として広く報じられ、トランプ大統領はこの28項目で和平の合意が速やかに可能だと思ったらしく、ウクライナに27日までの同意を求めた。しかしこれは、減少したといっても深刻に多大な譲歩であり、ウクライナがドネツク州の統治地域の住民と国土を明け渡し、兵力を今より小さい60万人に制約することなどを含んだ。11月21日にヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は演説で、尊厳を失うか、米国という大切な友人を失うかという厳しい選択を迫られている、ロシアがウクライナのせいにする口実を与えないように、米国案を拒絶せずに協議を進めると国民に訴えかけた7

米国がウクライナと和平案を準備している最中の11月27日、ロシアのプーチン大統領は、米国の和平案は基礎になるが妥結までの道は分からない、ウクライナの現政権との合意文書には意味がない、戦闘が終わるにはウクライナ軍が占領する地から撤退する必要がある、と発言した8。これは、ウクライナが合意する条件はつくらないということを端的に表明しており、露宇双方の合意をトランプ大統領が求めているのとは全く異なる。もし本心が異なっており、このあと米国とウクライナに譲歩して交渉を妥結させることになれば、ロシア国民からは国力を大いに費やして軍事作戦を優勢に進めているにもかかわらずプーチン大統領が急に弱気になって妥協したように見えるはずなので、そのような展開になるような発言をあえてしたとは考えにくい。

12月にも、ウクライナの安全が守られる和平案をつくるため、ウクライナ、米国、欧州諸国の協議が続いた。それがまとまって、ロシアに提示されたとき、もしロシアがウクライナの安全を認める姿勢に転換するならば、ウクライナの譲歩を米国から得て、妥協することで戦闘が停止する可能性がでてくる。そのような、これまでにない転換が起きるまでは、ロシアによるウクライナ攻撃は続くことが想定される9。なお、ウクライナは2025年にも450億ドルもの軍事支援のコミットメントを得ており10、ロシアがトランプ政権に働きかけるだけではウクライナが抗戦を断念するような状況には至っていない。

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  • 山添 博史
  • 地域研究部 米欧ロシア研究室長
  • 専門分野:
    ロシア安全保障、国際関係史