NIDSコメンタリー 第414号 2026年1月20日 「英国国防産業戦略」を読み解く——安全保障環境の地政学的変化に対する取組み

理論研究部社会・経済研究室室長
富川 英生

英国の「防衛産業戦略」刷新の背景

本稿は2025年9月に公表された「英国の現代的な産業戦略:防衛産業戦略――成長のエンジンとしての防衛の形成(以下、「25DIS」)について概要を紹介する。24年7月に発足した英国のスターマー労働党政権は、選挙公約の一つとして防衛産業戦略の更新を掲げていた。そして24年末に「趣意書(SOI)」を発出し、その後、関係各界からパブリックコメントを聴取していた。当初は25年の「遅い春」には同文書を公表する見通しであったが、同年6月に発表された「戦略国防見直し(25SDR)」で産業戦略は策定中とされ、25DISの公表は9月にずれ込んだ。

前回の戦略は21年に策定されており、政権交代があったとはいえ非常に短い間隔で刷新された背景にはロシアによるウクライナへの侵略という大きな安全保障環境の変化があった為である。同年6月になり新政権の下では重要な政策文書が公表された。25DISの上位文書に当たる「国家安全保障戦略(内閣府)」及び「25SDR(防衛省)」、国防支出拡大を裏付ける「支出見直し(財務省)」、そし「産業戦略(ビジネス貿易省)」などは、策定の前提となる文書で、これらの公表を受けて、さらに調整が進められたものと考えられる。

(表1)経済成長優先8セクター
先端製造(Advanced Manufacturing)
クリーンエネルギー産業
クリエーティブ産業
防衛
デジタルと技術
金融サービス
ライフサイエンス
専門職・ビジネスサービス

国防支出については、トランプ米国大統領との会談(2月)やNATO首脳会議(6月)を経て、27年までにGDP比2.5%、財政状況が許せば3%、35年までに5%を目指すという野心的な目標が掲げられ、11年の所謂「レヴィーン見直し」以降の継続的な縮減が進んだこれまでの状況とはまったく異なる前提の中で25DISは策定される事となった。また「産業戦略」において防衛産業は8つの経済成長優先セクター(表1参照)の1つとされ、他の7セクターとは別に防衛部門における計画としてその策定が国防大臣に委託される形をとっており、経済政策としての一面がより際立つ事となった。

本文の構成

25DISは序文においてその目的を「新しいSDRでの計画を実装するために産業能力を強化する事」と位置付け、国家安全保障と経済成長を同時に担うことが示され、政策効果の範囲を非常に広く設定している事が伺える。構成は第1章で「課題」として①戦略的な一貫性の欠如、②非効率な支出と民間投資、③競争の欠如、④輸出の減少、⑤国防人材、⑥イノベーションのペース、⑦長期的なパートナーシップと伝達(delivery)の欠如、⑧投資のボトルネックと参入障壁、の8点を挙げ、これに対する「優先すべき成果」を6点を挙げており、成果に関する詳細な行動(Action)が第3章~第8章でそれぞれ説明する形をとっている(表2参照)。

(表2)「英国の現代的な産業戦略:防衛産業戦略――成長のエンジンとしての防衛の形成」の構成
序文・概要・背景・ビジョン
1.戦略枠組み:課題、優先すべき成果、アプローチ
2.実装:要約、評価基準、2035年までの計画
3.成長のエンジンとしての防衛力の形成:①地域と全国に拡がる防衛産業の支援、②国防エコシステムにおける民間投資と成長の促進、③技能ギャップの解決と高技能・高報酬雇用の創出の為の投資と支援の拡大
4.英国地盤のビジネスへの回帰:①公開競技の対象とする適切で強固なオフセット政策、②雇用と技能・技術とイノベーション・輸出可能性・国内サプライチェーンの発展に着目した調達枠組みの改善、③参入と投資へのアクセスの向上の為の中小企業への提案の向上、④英国地盤企業による防衛省とのビジネスの簡易化、⑤英国の成長と戦略的利益を推進する輸出提案の向上
5.先端国防イノベーションにおける地位の獲得:①防衛省による科学・イノベーションとテクノロジーに対する大胆な新しいアプローチの適用と防衛の中心への組込み、②英国における技術優位性と技術の「潜在性(pull-through)」の商業的利活用可能性の向上、③防衛部門への野心的目標に対する反応としての国防科学・イノベーション・技術エコシステム近代化と改善、④合理化した規制環境によるイノベーションと能力提供の活性化
6.英国防衛産業の強靭性の発展:①国防省と産業省の優先事項の一つである英国防衛産業基盤の即応性と強靭性、②英国防衛産業の新たな脅威に対応するペースと増産(surge)の適応可能性、③防衛産業の防護と悪意ある活動・ショック・混乱に対する強靭性、④戦略的投資と「トリプル・ロック核兵器政策」を通じた核抑止の長期的提供の保障、⑤国防核エンタープライズにおける生産性阻害要因の除去
7.国防調達の調整:①産業界への長期方針を含んだ明確な政府需要シグナルの提供、②効果的な調達法の実装、③目的に沿った取得システムへの変革、④より競争的・生産的・効率的な防衛セクター
8.新しいパートナーシップの形成:①優先すべき特定分野の新産業ベンチャー企業との政府-産業間パートナーシップの向上、②政府と幅広いセクター間とのパートナーシップの向上、③緊密な同盟国とのコラボレーション強化
結論

成長のエンジンとしての防衛力の形成

第3章では政府の最重要ミッションである「経済成長」の為の防衛産業戦略が示されている。防衛産業は約46万人の雇用を生んでおり、このうち約70%がロンドン及び南東部地域以外である点が強調されている。つまり防衛産業への投資はハイテク、高成長産業ばかりではなく、地方部での伝統的な製造業での雇用や産業育成にも焦点を当てている事が強調されている。そして潜在的な高成長産業クラスターとして以下の12の地域・都市を挙げ、各エリアの特定分野、キーアセット等を紹介している(表3参照)。

(表3)高成長産業クラスター
エリア 有力地場産業/特定分野 キーアセット/企業/軍施設
セントラル・ベルト(ファスレーン、グラスゴー、エジンバラ、ロサイス) 造船、衛星(生産・発射・アプリケーション)量子、フォトニクス、半導体産業 ・国立生産研究所スコットランド(NMIS)、フラウンホッファー応用工学センター、国立ロボタリウム(ヘリオットワット大学)
・クライド海軍基地
ノースイースト 電子材料産業 ・化合物半導体応用製品カタパルト、北東宇宙技能・技術センター(新設)
・オクトリック・セミコンダクター社等
ベルファスト サイバーセキュリティ ・クイーンズ大学ベルファスト信頼性ITセンター
・タレス社、レイセオン社、スピリット・エアロシステム社、ハーランド・アンド・ウルフ社
ノースウェスト 固定翼機製造、艦船造修、高機能兵器システム生産・支援 ・特殊装備・システム試験施設
・キャメル・レアード社
南ヨークシャー 防衛向け高品質・精密材料開発・生産 ・防衛省シェフィールド製鋼所、シェフィールド大学先端製造研究センター
・BAEシステムズ・シェフィールド工場(火砲)
東西ミッドランズ・ベルト データ、AI、通信、サイバーセキュリティ ・MIRAテクノロジー・パーク、コベントリー製造技術センター(MTC)、
・リンカンシャー地域防衛・安全保障クラスター、サイバー・バレー
・ロールスロイス・レインズウェイ工場(潜水艦用原子炉)、ラインメタルBAEシステムズ・ランド(RBSL)テルフォード工場
オクスフォード-ケンブリッジ成長回廊 防衛・両用技術イノベーション(コンピューター産業、データ産業、宇宙産業等) ・オクスフォード大学-ケンブリッジ大学等、ハーウェル科学技術イノベーションキャンパス、国立地理空間情報センター
・主要IT企業各社
・ワイトン空軍基地、ブライズ・ノートン空軍基地
南ウェールズ 地域サイバーセキュリティ、自律システム ・南ウェールズ大学、カーディフ大学、エアバス・サイバーイノベーションハブ
・スペースフォージ社、ジェネラルダイナミクス社
イングランド西部、チェルトナム、グロスター 分野横断的イノベーション、サイバー分野 ・主要大学、国立複合材料センター(ブリストル大学)、ゴールデンバレー構想
・エアバス社、ボーイング社
ロンドン広域都市圏 データ・AI産業 ・量子コンピューター研究拠点(UCL量子バイオメディカルセンシング研究所等)
・ヘイン社、パランティア社、ヘルシング社等スタートアップ各社
ポーツマス、ソレント海峡 海洋科学技術(USV・UUV等) ・キネテック国立海洋システムセンター、国立海洋地理センター
・BAEシステムズ社、エアバス社
・ポーツマス海軍基地他
プリマス(プリマス・サウスデボンフリーポート) 先端海洋技術、ドローン ・国立沿海域自律性センター、プリマス大学海洋自律センター
・スマートサウンド・プリマス社

ここに「国富ファンド(NSF)」による両用技術への投資や、英国ビジネスバンク(中小企業金融を専門とする政府系銀行)による融資、英国輸出信用保証局の輸出信用など様々な資金を活用し、また防衛省内に小規模ビジネス成長室を設置して、各種ファイナンスへのアクセスを支援、投資を強化する体制も整えるとしている。

地域における技能労働力の不足や高技能高報酬雇用の創出については、国防産業分野への就職機会の拡大を図るべく、防衛技能高等カレッジの設立や大学・カレッジの就職支援部門との連携を強化したり、協力関係にある大学との間で国防大学連盟(DUA)を設立したりする事などを計画される。その他にも雇用の流動性を高め、中途キャリアでの就職を容易にするために求職者の技能ベンチマークのデジタル化や退役軍人の活用なども構想している。

英国地盤のビジネスへの回帰

第4章では国内産業を重視する方針について述べられている。この「英国地盤(UK Based)」というワードには2つの重要な政策的含意が込められている。まず国内で雇用を生み、その技術・技能を国防能力の提供に貢献するのであれば、(懸念国を除き)出資元について問わない点である。次に2021年防衛・安全保障産業戦略(21DSIS)で一部残存していた、政府調達おける「バリュー・フォア・マネー(Value for Money)」を重視した調達先の内外無差別という原則から決別し、英国地盤を優先するという姿勢を明確化した点である。その為の施策として、まず2026-27年会計年度中に新しいオフセット政策を導入し、雇用や技能を重視する「社会価値モデル」を適用する。この際、オフセットの成果(範囲、優先すべき部門、義務等)を明確化するためのコンサルテーションを実施し、同時に、防衛部門における産業構造やサプライチェーン構造に対するモニタリングを強化する事で、経済安全保障面でのリスクを管理する。

中小企業(SME)の参入促進と機会へのアクセスを促進については、25年秋に新しい中小企業行動計画を公表し、26年1月に上述の小規模ビジネス成長室を新設する予定である。この他に、企業が防衛省とのビジネスをより容易にするための措置として、戦略分野や基幹産業での電力料金の低減、工場建設等における都市計画に関する許認可への便宜供与、防衛安全機構(Defence Safety Authority)と規制当局との連携を通じた安全性リスクに対する保証の効果的な提供などが検討されている。

輸出の促進については、ビジネス貿易省国防安全保障輸出庁(UKDSE)の一部を防衛省に統合し、個別の政府間輸出案件について支援する国防輸出室を新設する。また国内調達の際の仕様決定において、英国の防衛能力の優位性を確保しつつも、NATO基準といった輸出市場に向けた設計を心掛け、輸出可能性についての考慮する事が求められた。この際、防衛産業合同委員会(DIJC)や国家兵器ディレクター(NAD)を支える各プログラムのポートフォリオ・ディレクターらが、成長への貢献度合いに関する指標を報告する責任が付与されている。輸出許可制度の改善については、新しいタイプの免許や組織機能とともにLITEと呼ばれる新しいデジタル・ライセンス・プラットフォームを開発・導入する。その他MTCRやワッセナーアレンジメントなどの国際レジームの改善についても同盟国やパートナー国とともに、より適切な制度への見直しに取り組むとしている。

先端国防イノベーションにおける地位の獲得

第5章では、国防イノベーションに関する新たなアプローチを紹介している。25年7月に英国国防イノベーション機構(UKDI)が設立された。この新組織の戦略目標として、①既存の技術を迅速に導入し、勝利に導く作戦上の優位性を提供する、②国防支出によるインパクトを増加させ、技術セクターの生産、輸出機会、雇用を通じた経済成長を加速させる、③SME、スタートアップ、学術界、非伝統的防衛サプライヤー、ベンチャーキャピタルに信用を与え防衛に資する技術開発への投資を促す、④英国の迅速な防衛能力の提供能力を見せ、グローバルな影響力とNATOやAUKUSに代表される戦略的パートナーシップを強化する、の4点が掲げられた。特に能力提供については、ウクライナでの経験を踏まえた教訓事項として、そのペースの速さと効率性が繰り返し指摘されており、英国防省として注目していることが伺える。

これまで防衛省内の各部門で分権的に行われていたイノベーション活動(防衛・安全保障アクセラレーター(DASA)、英国防衛イノベーションユニット(DIU)、コマンド・イノベーションハブ(jHub)、防衛装備・支援庁(DE&S)、将来能力イノベーション(FCI)チーム)はUKDIの下に集約された。そして、ビジネス貿易省(DBT)、科学・イノベーション・技術省(DSIT)、英国研究技術革新機構(UKRI)、英国情報機関(UKIC)などとの調整のもと、重複を排した全政府的アプローチによる効率的な投資・支援に取り組むとしている。この際UKDIは優先事項を明確化することで、国防イノベーションに関するポートフォリオの確立に責任を持つとしている。またUKDIの隷下には、予算、業務、調達権限に関して高い自由度を持つUKDI迅速イノベーション(RIU)が新設され、米国DIUやNATOのパートナー等と連携して新しい脅威や機会に対し迅速に対応する事を目指している。現在は、産業部門と連携して安価で大量生産可能な長距離一方向攻撃ドローンの国内サプライチェーンを構築することや、一人称視点ドローンを含む革新的UAVの開発に取り組んでいる。

両用技術への投資については、英DIUに統合されるDASAに、NATO-DIANAとの連携やNATOイノベーション基金の活用も含めた両用技術を支援する役割が付与される。またAIや(原子炉技術を含む)クリーンエネルギーに焦点を当てた新たな投資計画の策定や組織の設立も検討されている。

国防科学技術エコシステムの強化に関しては、国防科学技術研究所(Dstl)は引き続き国が要請する安全保障に関する高いスキルが求められる少数の課題に集中しつつ、高等研究発明庁(ARIA)やUKRIと連携して次世代のイノベーションを加速させる役割を果たす。一方でデジタル分野については、革新的なソリューションを提供できる体制の構築に向け、最新ソフトウェアやデータ、AIを提供するサプライヤーに焦点を当てた「国防技術スケーラー」イニシアチブを開始し、またDSITの国家AIユニットと連携する国防AIセンターを防衛省内に創設する計画である。

その他、基盤面から支援する取り組みとしては規制環境の見直し、試験・評価(T&E)に関するイノベーション促進、実験計画に関する柔軟性の向上、取得プロセスにおける迅速ルートの確立などが提案されている。そして、イノベーションや防衛力の提供がより素早くシンプルにできるよう上述の防衛成長協定を通じて、規制当局や関係各所との連携を密に図る事が提案されている。特にSMEや新規参入企業などが、T&Eリソースへのアクセスが限定されたり、複雑な手続き等の障壁の為にそのペースが遅くなったりしないように、適切な内外・官民のT&E施設、能力、支援施策を紹介するプラットフォーム「試験・評価マーケットプレイス」を26年に立ち上げる事となっている。同プラットフォームでは試験・評価施設を紹介するだけでなく、小規模事業者にとって実験レンジが遠方であったり使用料が高額であったりする事で生じる障壁を無くすため、簡便な試験技術の開発や迅速な試験・部内でのシステム統合を可能にするようなバーチャル試験場の導入などの取組みも視野に入れている。

英国防衛産業の強靭性の発展

第6章では防衛産業基盤の強靭化についての各種施策が紹介されている。まず主要な組織改編として軍事戦略本部(MSHQ)にNAD及び同グループが新設され、防衛産業の即応性、強靭性の向上に向けた新しい政策・計画策定等についての明確な説明責任が求められる事となった。そして、防衛産業との関係に関し、これまでの受動的なアプローチから脱却して「通常の業務(business as usual)」として、防衛産業合同委員会(DIJC)を含めた産業界とのコラボレーションを、防衛産業政策の策定過程に組み込むとしている。この際、防衛産業に係るウォーゲームを実施する事が計画され、NADグループにはそのシナリオ策定能力を確立する事が求められている。

新たな脅威への対応としては、上述のウクライナでの教訓事項にあるような、ペースと増産(surge)に如何に適応できるようにするかについて各種施策が提案されている。まず増産しやすいような技術標準の確立、契約規約に係る負担の軽減や規制の見直し、労働力供給に関する協力体制の構築、そして緊急時に防衛産業を活用できる行政権限を米国やフランスの事例を参考に検討する事としている。主要調達品の量産性と強靭性の確保に関しては、契約規則の中に受注者によるサプライチェーンのアセスメントや情報提供の強化が盛り込むことで、新設するサプライチェーンセンターにおいて、これを分析する事が提案されている。国際協力や国際共同開発においては、同盟国やパートナー国とのサプライチェーンの強靭化を図るべく、米英二国間大量破壊兵器対抗リーダーシップ・グループのようなサプライチェーンの可視化、ハイリスク分野の強靭化に関する協力フォーラムを形成する。これらサプライチェーン情報については、国防サプライチェーン能力プログラムを通じ、防衛省がその実態把握を進めるが、新たなアプローチによる制度設計や管理の向上についてはカテゴリー・マネージャーやNADグループが責任を持つ事となった。その他のリスクの管理については、レアメタル、レアアースに関するリサイクルへの取り組み強化、各産業固有の重要インフラへの依存リスク等について実態把握を進め、必要な対策を採る事とされている。

最後に、核兵抑止体制の提供基盤強靭化ついて、英国政府はこれを確実なものにするため「トリプル・ロック(Triple Lock)」として、①国家全体のサプライチェーンが裨益する高品質高待遇の実習・雇用を実現する四隻の新原子力潜水艦のバロー・イン・ファーネスでの建造、②英国とNATOの安全保障を護る継続的な海洋抑止の維持、③自国の安全を維持し海域を警備する潜水艦に必要な全ての将来的なアップグレードの提供、の三つの施策について確約した。そして国防原子力事業体(the Defence Nuclear Enterprise)の各能力及びプログラム(表4)対する「戦略的な投資」を実施し、産業パートナーに長期需要シグナルを提供するとともに、生産性を阻害する障壁の除外を求めた。

(表4)
国防原子力事業体構成施設 能力・プログラム 雇用者数
バルカン原子力試験施設 加圧水型原子炉試験施設 250
クライド海軍基地 潜水艦部隊母港、クールポート海軍兵器廠、潜水艦CEO 5000
バブコック・ロサイス造船所 ロサイス退役潜水艦の解体 850
BAEシステムズ・バロー 原子力潜水艦の建造 13500
シェフィールド製鋼所 炉心用高品質大型鋳造品及び特殊鋼鍛造品の生産 700
ロールスロイス・サブマリン 潜水艦用原子炉生産・開発拠点 4000
防衛省本館 国防原子力機関、DNE本部
AWE原子力セキュリティ・テクノロジー 核弾頭の設計、製造、保守、廃棄 9500
潜水艦提供庁 潜水艦プログラムの提供 2500
海軍司令部
デヴォンポート海軍基地、バブコック・デヴォンポート王立造船所 潜水艦の高度保守、核燃料交換、ライフサイクルサポート 8000
EPURE(仏ヴァルドック) テウタテス条約に基づく英仏共同の流体力学研究施設
(出典)「2025年防衛産業戦略」82~83頁を元に筆者が作成。

国防調達の最適化

第7章では防衛調達に関して、野心的な制度改革を含めた各種取り組みが示された。まず25年秋に国防投資計画を公表し長期需要シグナルを産業界に提供、このうち10%は防衛省が優先する先端分野に割り当てられるとした。そして25年中にはNAD及び同グループが、市場との連携を調整する担当部局を設立し、26年3月までに防衛省商務産業局が「中央デジタルプラットフォーム」を開設、一か所で複数の入札や全ての契約情報を確認できるシステムを構築して調達の簡素化と透明性の向上を推進する。輸出促進策との関連では、26年4月までに全ての主要調達について、計画当初から輸出可能性に関するアセスメントを含める事が求められる事となった。

調達枠組みについては、対象を①主要複合(modular)プラットフォーム(長期戦略的)、②計画的スパイラル型・構成部品アップグレード、③緊急商用技術利用、の3つに分類した「セグメント別アプローチ」(表5参照)を導入するとしている。またスナク保守党政権下で発表された総合調達モデルで示されていた「デフォルトによるスパイラル開発」を継承し、26年4月までに全ての取得プログラムにおいて同アプローチを適用するよう求めている。

(表5)
セグメント 課題 価格・初回目標 例・合計期間
主要複合プラットフォーム 妥当な場合のみ競争:長期的投資への確実性の提供、生産性と協力性を促進するインセンティブ、英国のシェア拡大 高価格
2年
MBT、航空機、フリゲート
5年以上
計画的スパイラル型・構成部品アップグレード 競争的:簡単交換(plug-and-use)アプローチの採用、国産の増加、プラットフォームの共通デジタルアーキテクチャ及び標準 中価格
1年
通信システム、センサー、武器類のアップグレード
約2年
緊急商用技術利用 迅速な競争と拡張契約(scaled contract):最新技術のオペレーションへの導入、イノベーションの向上、プライベートエクイティとベンチャーキャピタルの解放 低価格
3か月サイクル
無人システム・ソフトウェア
数か月
(出典)「2025年防衛産業戦略」89頁を元に筆者が作成。

この際、安全なデジタル環境の下で防衛省と産業界が、課題ステートメント(problem statement)や運用情報、デジタル化された契約合意内容を共有できるように、25年末までにNADグループが統合的な戦略、計画、ガバナンス構造を提供する計画である。またサプライチェーン管理について、市場の脆弱性につながると判断される場合には、新たな形で適正化措置や市場介入を積極的に行うとしており、各セクターに特化した戦略の策定についても支援することになっている。

最後に、契約改革については「単一ソース契約規則」枠組み及び「その他の国防契約」アプローチの両者に関する包括的な見直しを実施し、25年秋までに「国防改革・効率性計画」策定および「単一ソース契約規則(SSCR)」見直しの第一段階を終えるとしている。

新しいパートナーシップの形成

第8章では各主体別にパートナーシップ形成に関する方針が示された。まず産業界との関係では、上述の国防産業合同委員会(DICJ)が新設され、新たな形での防衛産業セクターとのパートナーシップ確立が目指される。例えば同委員会には労働組合からも代表者が参加し、大手企業以外にテック企業の役割が重視されている。加えて投資コミュニティーからも助言を得る方針であり、金融サービス部門への働き掛けも強化するという。政府部門とは、戦略的なパートナープログラムを活用した取り組みを進める。その最初の取り組みとして、DSIT・UKRI傘下のイノベートUK高付加価値製造カタパルト(HVMC)センターと提携を結んでいる。

同盟国やパートナー国との関係強化については、SDRに示されたNATOファーストのアプローチを実現するために関係を強化していくという。まずNATOとは、多国籍調達イニシアチブ(MPI)やネットワーク化統合防空・ミサイル防衛装備提供(DIAMOND)イニシアチブなどの既存の協力枠組みを補完する形で、NATO国防生産行動計画(DPAP)やNATO産業能力拡大(NICE)誓約(predge)を立ち上げ、英国の防衛能力開発計画にNATO国防計画プロセス(NDPP)を組み込むとした。米国との間では、原子力協力を含めて、米国の装備ポートフォリオからの調達や米国主導の先端防衛技術開発計画への参加を推進し、AUKUSでの支援に見られるようなコラボレーションを継続する。EUとは25年のEU-英国サミットで示された新しい安全保障・防衛パートナーシップを通じて協力や共同投資に関する野心的な目標を定めた。戦闘技術の共有やドローン生産、前線での戦訓を活用した先端技術と英国防衛産業の連係といった恩恵を受けているウクライナとのパートナーシップについては、二国間の防衛協力枠組み合意を通じた装備支援に加え、25年1月に「100年パートナーシップ協定」を結んでいる。

2021年国防・安全保障戦略(DSIS)との比較

以上、25DISで示された内容を紹介したが、この中には保守党政権下で策定された21DSISで示された方針を継承しているものも含まれる。ただし、前戦略について現政権は、予算不足や責任の所在が不明確であった事などの理由から、その多くは実現されなかったと総括している。またいくつかの点では大きな方向性の転換が見られた。まず英国地盤への完全な回帰である。21DSIS(表6参照)でも単一ソースの見直しについては触れられていたが、依然として「バリュー・フォア・マネー(Value for Money)」の原則は堅持されていた。しかし25DISでは「社会価値」という考え方を適用して、国内での生産を前提に据えた。第2点目として、地方での雇用と技能・労働、経済成長に対して大きな配慮が示されている点である。21DSISでは「技能、タレント、多様性」の項目の一部として僅か3頁の簡単な記述があっただけだが、25DISでは複数の章にわたって関連施策が言及され、より直接的なアプローチが採用されている。第3点目としては、防衛産業に関する権能の集約化と責任の明確化である。NAD及び同グループの設置は、既にSDRやSOIおいて言及されていたが、25DISで、より多くの具体的な計画について責任が付与されることとなった。最後に第4点目として、ロシアによるウクライナへの侵略での教訓事項を反映した取得改革である。英国は政府、防衛産業ともにウクライナ防衛に深くコミットしているが、この戦時下で実現した迅速なイノベーションのペースと増産による防衛力の提供を、如何に英国に制度として取り入れる事ができるかに高い関心を示しており、多様な施策を模索している。以上のように、25DISでは21DSISと比較して多くの計画や構想が具体的に示されている。しかい、これまでの英国における防衛産業戦略の歴史では実行が伴わなかった計画、構想も見られた。国内外の状況が激しく変化する中で、25DISを具現化する各計画や構想が確実に実施されるのか、引き続き細部計画やその進捗状況を確認する必要がある。

Profile

  • 富川 英生
  • 理論研究部社会・経済研究室長
  • 専門分野:
    産業政策、技術移転、イノベーション・システム、東南アジアの軍近代化