NIDSコメンタリー 第411号 2026年1月6日 極超音速兵器をめぐる最新動向

理論研究部政治・法制研究室所員
有江 浩一

はじめに

「極超音速兵器」あるいは「ハイパーソニック・ミサイル」と呼ばれる兵器が安全保障上の脅威として注目されるようになって久しい。すでによく知られているように、この兵器はマッハ5以上の速度で大気圏内を飛翔し、高速飛翔中に相当程度の機動を行うことができるため、現在の防御システムでは迎撃が困難とされる。

2025年の時点で極超音速兵器を開発している国として、米中露の3カ国に加え、欧州諸国、日本、オーストラリア、インドなどが名を連ねており、さらに北朝鮮が実験を成功させたとも報じられている1。本稿では極超音速兵器の開発状況を中心に、その最新動向を探ってみたい。

なぜ迎撃が難しいのか

極超音速兵器は、ロケットで打ち上げた飛翔体を大気圏上層で分離させた後にマッハ5以上で滑空飛翔させる無動力式の極超音速滑空体(HGV)と、スクラムジェットと呼ばれる特殊なエンジンでマッハ5以上に加速させて目標に突入する動力式の極超音速巡航ミサイル(HCM)に大別される。HGVは、弾道ミサイルよりも飛翔高度が低く、大気圏内を滑空していくので飛翔経路も放物線状の弾道軌道を描かない。こうした特性により、地上レーダーでの探知が遅れ、飛翔体の機動性とあいまって飛翔経路の予測ができず、迎撃時間が少なくなるために従来の弾道ミサイル防衛システムでの迎撃が難しくなる2。また、HCMはマッハ5以上で動力飛翔し、飛翔中の機動性も優れているため、従来の防御システムで探知・迎撃することは非常に困難とされる3

このため、従来の防御システムに代わって、例えば衛星搭載センサーによる宇宙空間からの探知・追跡、極超音速兵器を制御するソフトウェアに対するサイバー攻撃、高出力レーザーによる無力化、人工知能(AI)による探知・迎撃能力の向上など4、宇宙・サイバー・電磁波を含んだ「新領域」に属する、あるいは新興技術を活用した迎撃手段が検討されている。

開発・保有国の現況

米国

米陸軍は、「Long-Range Hypersonic Weapon (LRHW)」、通称「ダークイーグル」の最終飛翔試験を2024年12月に成功させた5。「ダークイーグル」は米海軍と共同開発された射程2,775キロメートルの地上発射型HGVで、さらなる運用試験を経て部隊に実戦配備されると見込まれる6。また、米空軍は空中発射型のHGV「Air-launched Rapid Response Weapon (ARRW)」とHCM「Hypersonic Air-launched Cruise Missile (HACM)」の2つを開発中である7

中国

2025年9月に天安門広場で行われた軍事パレードで、中国は極超音速兵器として地上発射型HGV「DF-17」、水上発射型HGV「YJ-17」、空中/水上(中)発射型HCM「YJ-19」及び最新鋭の空中発射型HCM「CJ-1000」などを披露している8。また、これより先の同年1月には極超音速空対空ミサイルの開発に向けた実験を行っていることが報じられた9

中国は、極超音速兵器技術を応用したさまざまな取り組みを進めている。2021年には、中国が旧ソ連の部分軌道爆撃(FOB)に似たシステムからHGVを放出する実験を行ったと報じられた10。また最近では、折り畳み式の翼を高速飛翔中に格納・展開させて抗力(drag)と揚力(lift)を調整できる極超音速飛翔体の実験を行っている11。さらに、HGVやHCMなどのミサイル兵器に加えて、中国はマッハ7で飛翔可能とされる極超音速ドローン「MD-19」も開発している12

ロシア

米国のミサイル防衛システムを突破し得る最新鋭の戦略核戦力として、ロシアは射程6,000キロメートルの地上発射型HGV「アバンガルド」をカザフスタンとの国境に近いオレンブルク州の戦略ミサイル部隊などに配備している13。また、水上発射型の対艦HCM「ツィルコン」を海軍部隊に配備しており、ロシア側の発表によると、2025年9月にベラルーシと合同で実施された軍事演習「ザーパド2025」で発射訓練を行った模様である。なお、この演習ではMiG-31K戦闘機に搭載された空中発射型弾道ミサイル「キンジャール」の発射訓練も行われている14

欧州

フランスはHGVを開発するためのV-MAX計画を進めており、2023年6月に最初の飛翔実験を成功させている。また、現行のASMP-A空中発射型戦術核ミサイルの後継としてHCMを開発するASN4G計画などにも着手している15。ドイツ連邦軍は水平離陸及び再利用が可能な極超音速研究機の開発に着手しており、2028年に最初の実験を行うことを目指している16。英国は、米国と共同でHCMの開発に取り組んでおり、2025年に米バージニア州のNASAラングレー研究所でHCM開発に向けたエンジンの極超音速推進試験を集中的に行っている17

日本

防衛装備庁航空装備研究所は、2023年度よりスクラムジェットエンジンを搭載する極超音速誘導弾システムの研究に着手している。すでに地上試験において極超音速域でのエンジン作動に成功しており、長時間のエンジン作動が可能な見通しも得られているという18。また、2024年に防衛省は「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」の日米共同開発に着手している19

その他の諸国

オーストラリアは、2020年に米国と共同で「サザンクロス統合飛翔研究実験(SCIFiRE)」計画を立ち上げ、空中発射型HCMの開発を進めている20。また、2024年には米英との3カ国の安全保障枠組みであるAUKUSにおいても、その「第2の柱」として極超音速兵器の開発を進めることで合意している21

インドは、国防省の国防研究開発機構(DRDO)の下でHGV、HCM及びその迎撃システムを開発するためのさまざまな計画を進めており、2025年にはインド東海岸でマッハ8に達するHCMの実験を行ったと報じられている。また、ロシアと共同でHCM「BrahMos-II」の開発にも取り組んでいる22

イランは、HGV「Fattah-1」及び「Fattah-2」をすでに開発・保有したと主張している23。2025年のイスラエルによる対イラン攻撃に際し、イラン革命防衛隊が「Fattah-1」をイスラエルに対して使用したとされている24

北朝鮮は、2021年にHGV「火星8(Hwasong-8)」の発射試験を成功させたと報じられている25。2025年に平壌で行われた軍事パレードでは新型のHGVとされる「火星11マ(Hwasong-11Ma)」が公開された26。また韓国も、戦闘機に搭載可能な空中発射型HCMを開発中とされている27

極超音速兵器をめぐる議論

従来の防御システムによる迎撃の困難性から、極超音速兵器を「ゲームチェンジャー」だとする議論がしばしばなされている28。米国が極超音速兵器に核弾頭を搭載せず、通常弾頭のみの兵器を開発していることから、配備された場合には核の敷居を越えることなく相手国の核戦力を攻撃し得る潜在的な可能性も指摘されている29。また、極超音速兵器が前方展開基地や後方支援に頼ることなく迅速なパワープロジェクションを可能にするとの見方もある30

その一方で、極超音速兵器開発の技術的困難性を指摘する議論もみられる31。例えばマッハ5以上の速度で大気中を飛翔した場合、飛翔体表面の空力加熱は2,000度を超えるため、これに耐えうる飛翔体の形状や素材の開発など、克服すべき技術的課題は多いとされる32。また、極超音速飛翔中に飛翔体が機動すると抗力が増加して速度が低下するため、目標突入時の速度がマッハ5以下に落ち、打撃力が損なわれるとの見方もある33

極超音速兵器の迎撃方法や手段をめぐって、キネティック迎撃体を目標に直撃させて破壊するハードキル方式や34、電子戦などを用いるソフトキル方式に関する議論もみられる35。後者の例では、ロシア・ウクライナ戦争で、ロシアは先述の空中発射型弾道ミサイル「キンジャール」を極超音速ミサイルと称して使用したが、ウクライナ側は「キンジャール」の衛星航法信号受信機に対する電波妨害とスプーフィング(なりすまし)などのサイバー攻撃を組み合わせてミサイルの命中精度を低下させたといわれている36。なお、飛翔してくる極超音速兵器の進路上に大量の微粒子を散布して飛翔体を損傷させ、撃墜を図るユニークなアイデアも提唱されている37

今後の展望

極超音速兵器の開発に着手する国は徐々に増えてきており、今後もこの傾向は変わらないと思われる。極超音速兵器の拡散を促進する要因の一つとして、極超音速兵器の低価格化が挙げられよう。

最近、中国の航空宇宙関連の民間企業が、耐熱コーティング材として気泡セメントなどを用い、低価格で大量生産可能な極超音速ミサイル「YJK-1000」を開発したと報じられている38。詳細は不明ながら、これが事実だとすれば、小国であっても極超音速兵器を安価で入手できる可能性が高まり、さらに非国家主体へも極超音速兵器が拡散する事態を生じさせかねない。2024年にはイエメンの武装組織フーシー派が極超音速ミサイルを開発したとの報道がなされており39、事実関係は明らかでないものの、今後はこの傾向に拍車がかかることが予想される。

こうした諸々の状況を踏まえて、米国は極超音速兵器への対応をより強化していく構えを見せている。2025年11月に発表された国家安全保障戦略では、次世代の米本土ミサイル防衛システムとしての「ゴールデン・ドーム」構想について言及されているが40、同構想には極超音速兵器を探知・迎撃するための大規模なシステム開発が含まれている41。また2025年12月には、ロッキード・マーティン社が極超音速兵器開発のための新たな研究所をアラバマ州に開設したと発表している42。先述のように、米陸軍のHGV「ダークイーグル」が近々配備される予定でもあり、今後米国が攻防両面での極超音速兵器への備えをどのように強化させていくのかが注目される。

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  • 有江 浩一
  • 理論研究部政治・法制研究室所員
  • 専門分野:
    核戦略・核抑止論