NIDSコメンタリー 第400号 2025年10月3日 中国空母「福建」と新艦載機の発着艦 ―― 発展経緯と残された課題とは何か?

地域研究部米欧ロシア研究室
相田 守輝

1.空母「福建」と新艦載機の登場

2025年9月22日、中国メディアは人民解放軍(PLA)海軍航空兵のJ-35ステルス戦闘機、J-15T戦闘機及びKJ-600早期警戒管制機が中国の三番艦空母「福建」で発着艦に成功したと報じた1。これら新しくPLA海軍に配属された3機種の空母艦載機は、先月9月3日に行われた中国軍事パレードにおいても天安門広場の上空を飛行し、注目を集めたばかりである2

空母「福建」は、1番艦空母「遼寧」、2番艦空母「山東」に続く3番艦である。全通甲板を有する「フラットトップ」設計を採用した中国初の国産空母であり、米海軍の原子力空母「ニミッツ級」とほぼ同等のサイズを誇る。注目すべきは、従来のスキージャンプ方式ではなく、電磁カタパルト(Electromagnetic Aircraft Launch System:EMALS)方式による艦載機の発艦を可能とした点である。

中国メディアは空母「福建」が実戦可能なレベルに到達したなどと大々的に報じ3、また海外メディアにおいてもこの成功が単なる技術的なブレークスルー以上の意味を持つだけでなく4、これまでの空母「遼寧」や「山東」よりも戦闘範囲が広がり、PLA海軍に外洋能力をもたらすだろうと報じた5

一方で、「これは我が国の空母発展における新たな飛躍であり、空母『福建』の電磁カタパルト発艦と回収の能力を示すものであり、海軍の変革を推進する上で重要な節目となる6」と強調した中国側の公表内容に注目してみる価値はある。中国の技術が向上していることを誇示したいことは容易に想像できるが、特に、「EMALS方式の発艦装置とアレスティング制動装置の能力が空母『福建』に備わった」ことを強調したかったのだろう。,

今回の成功報道が“世界で初めてステルス機をEMALSで発艦させた”事例に該当するかどうかは断定できない。米海軍はすでに空母「ジェラルド・R・フォード」にEMALSを導入しており、F-35Cを含む艦載機の試験を非公開で行ってきた可能性は十分にある。そのため“世界初”かどうかは慎重な検証を要する7。しかしながら、少なくともPLA海軍にとって、今回の発着艦成功が空母航空戦力を新たな段階に押し上げたことは疑い得ない。

もっとも、これらEMALS方式の発艦装置とアレスティング制動装置は、近年において米海軍が苦労してきた新技術でもあり、PLA海軍においても同様に実戦的な運用に向けての課題に直面していくであろう。本稿は、そのような趣旨から空母「福建」での艦載機発着艦の意義について述べるとともに、その背後にある技術的課題と人的課題についても検討していく。

2.新しい3機種の艦載機とその意義

今回、EMALSによって空母発着艦に成功した艦載機は、次のとおり3機種である。

(1)J-35ステルス戦闘機

J-35は中国が独自開発した新世代艦載戦闘機であり、ステルス性能を有した艦載機である。CCTVによると、軍事専門家の張俊社氏は、「J-35は我が国が独自に開発した新世代の艦載戦闘機であり、海軍が近海防衛から遠海防衛へと役割を移行する上で画期的な航空機となった。主に制空権を確保する作戦を目的として設計されるが、海上目標や陸上目標を含む様々な攻撃任務も遂行可能である」と説明した8。たしかに、J-35の就役は、米国に次いで中国が世界で2番目にステルス艦載戦闘機を開発・保有する国となったことを意味しており、ステルス性能が優れている場合には、より容易に敵の防空網を突破できるかもしれない。

(2)改良型J-15T戦闘機

J-15は、2012年に一番艦空母「遼寧」が就航した際の艦載機として登場したが、度重なる事故が発生し、その安全性と信頼性が課題とされてきた。2016年には短期間に複数の墜落事故が生じ、操縦系統や品質管理の不備が指摘された経緯まである9。今回のJ-15Tは、そうした問題を経ながら改良された「T」型であり、単に電子機器を最新のものに改修しただけでなく、J-15の首脚部分を強化しながらEMALS方式での発艦を可能にした点に大きな特徴がある10。これにより、これまでの墜落事故を繰り返した過去から一歩進み、実戦的運用へと漸く近づいたと言えるだろう。これまでのスキージャンプ方式ではなく、電磁カタパルトによる発艦は艦載機の離陸最大可能重量を増加させることを可能になったため、結果としてJ-15は兵装や航続距離を増加させることができ、J-35のステルス侵攻能力と組み合わせることによって「ハイロー・ミックス」の航空戦力を形成しながら、空母艦隊の遠洋戦闘能力を効果的に向上していく可能性が考えられる。

(3)KJ-600早期警戒管制機

KJ-600は、新しく開発された中国初の固定翼艦載早期警戒機であるが、米海軍のE-2D「ホークアイ」早期警戒機に酷似している。これまで空母艦載ヘリによって早期警戒任務が行われてきたが、このKJ-600の登場により高高度・長距離での警戒監視が可能になるのであろう。空母「福建」のEMALS方式のカタパルトによって初めて発艦可能となったことから、空母打撃群に「空飛ぶ目」と「頭脳」を与える存在となったと喧伝されている11。KJ-600が空母運用できるようになったことは、中国にとって海上での戦闘環境が大幅に改善したのは間違いない。もっとも、KJ-600の能力は依然として米海軍のE-2Dと比べると到達度に差はあるだろうが、固定翼早期警戒機を運用できる段階に至ったという事実自体が、PLA海軍の空母運用能力が新たな次元に踏み出したことを意味している。

3.艦載機部隊の形成と空母「福建」への道程

これら新しい3機種の艦載機による空母発着艦の成功は、中国空母航空戦力の歴史を振り返ると、その長年に渡る積み重ねの成果と言える。中国史上初めて空母着艦が実現したのは2012年11月、一番艦空母「遼寧」でのJ-15戦闘機によるテストであった12。当時の成功は国内で大々的に報じられ、PLA海軍や航空機産業を挙げて祝賀する国家的イベントとして扱われた13

翌2013年には、PLA海軍航空兵に編成された「艦載機部隊」が正式に発足し、部隊は戦闘機飛行隊、整備支援隊、多用途ヘリ部隊などで構成され、J-15を中心に運用が始まっていった14。当時の部隊初代司令員であった張少兵が吐露していたように、艦載機パイロットの養成は困難を極めた。そのため、PLA海軍航空兵、PLA空軍問わずにパイロット候補者を最優秀層から厳選していく必要があった。そして、5種類以上の航空機の操縦経験があり、かつ総飛行時間は1,000時間以上のベテランパイロットが中核となりながら部隊建設が始められていった15。艦載機部隊は、発足当初から「教官なし、教材なし、経験なし」という困難に直面しながら艦載機 J-15 のテスト飛行を重ねて模索し16、2021年には、J-15同士で「空中給油」を行う能力を獲得するまでに至ったのである17

また、2017年時点で遼寧省葫芦島の飛行場において電磁カタパルトのような設備が観測され18、電磁カタパルト開発担当者が共産党中央委員会委員に異例の昇格を果たしたことなどから19、3隻目の空母にEMALSが搭載される可能性が高いと考えられていた。このような積み上げの延長線上に、今般2025年9月の空母「福建」における発着艦の成功が位置づけられている。

確かに、2025年9月23日付のPLA機関紙『解放軍報』が強調するように、中国はわずか10年余りで、経験ゼロの状態から空母を1隻から3隻へと増加させながら空母の国産化を果たし、またスキージャンプ方式からカタパルト方式へと艦載機の運用を支える基盤を急速に進化させてきた20。とはいえ、今回の空母「福建」におけるEMALSからの発艦成功そのものが、即座に戦力化を意味するものではなく、多くの技術的・人的課題が残されている。

4.技術的・人的課題と展望

(1)米海軍が経験したEMALSとアレスティング制動装置の課題

EMALS方式カタパルトの使用は、従来のスチーム方式カタパルトのような複雑な構造ではないため、発艦直後から次の発艦準備の時間が大幅に軽減され、艦載機の出撃率を高めることが期待されている。一方で、2017年にEMALS の試験運用を一足早く始めていた米海軍であっても、EMALSとアレスティング制動装置の設定調整において問題に直面してきた21

例えば、純粋に空対空兵装の米海軍空母「ジェラルド・R・フォード」の艦載機F/A-18E/F「スーパー・ホーネット」と、1,000ポンド級の精密誘導爆弾を10発搭載したF/A-18E/Fとでは、EMALSの設定を調整せねばならないという。つまり、空対空ミサイルだけ搭載した比較的軽量な戦闘機と爆弾を可能な限り搭載した戦闘機とでは、離陸可能重量が大きく異なるため発艦する個々の機体の状況に応じてEMALSで艦載機を発艦させる設定を調整していく必要がある22。また、兵装だけでなく、燃料の増加タンクがEMALSのシステムと干渉するケースもあり、機種、兵装、増加タンク、機体重量などで様々な組み合わせがあっても、EMALSが正常に作動することを米海軍は細かく検証していかねばならなかった。こうした問題は着艦時にも起こりうる。個々の機体の兵装や残燃料を踏まえながらアレスティング制動装置の設定を調整していく必要があり、それらに関する膨大な実証データを収集・蓄積するために米海軍は苦労してきたのである23

こうした米海軍の問題と解決プロセスに注目したジョセフ・トレビシック(Joseph Trevithick)は、EMALSを16,500回使用して1回の重大故障が発生する確率にまで、米海軍は同システムの信頼性を向上させようと改善を続けていると指摘する24

(2)中国の技術的課題(EMALS・アレスティング制動装置)と人的課題(パイロット養成)

空母「福建」は中国初の電磁カタパルトを搭載した空母であり、スキージャンプ方式の空母「遼寧」や「山東」に比べ、出撃効率や搭載機種の多様性を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。しかし、米海軍空母「ジェラルド・R・フォード」が経験したのと同様に、艦載機の兵装や燃料の搭載状況に応じた細やかな調整が必要であり、そのために十分な実証データを蓄積していくことになろう。さらに、着艦時には残燃料や兵装重量を考慮したアレスティング制動装置の調整が求められるため、これもまた膨大な試験とデータの蓄積を要するだろう。こうした背景から、空母「福建」が本格的に実戦投入されるまでにはやはり時間がかかると思われる。

また、技術面だけでなく人的基盤の面での課題、特に艦載機パイロット養成に関しても制約を受け続ける可能性を秘めている。中国は空母の増産とともに艦載機パイロットの需要増が見込まれていたことから、2020年頃から養成方式を大転換しはじめた。これまでのベテランパイロットを艦載機に従事させる「機種転換モード」から、20歳程度の若手パイロット候補生を早い段階から発着艦の訓練をさせる「成長モード」へと移行してきた25。つまり、これまでの艦載機パイロットの選抜には、第三世代戦闘機の飛行経験が1000時間以上(原文:三代机1000小时以上的飞行经验)を有する者が選抜されていたが、2020年からの飛行教育体系の変更により、第三世代戦闘機の飛行経験が100時間にも満たない(原文:三代机飞行时间不足百个小时)若手の操縦者が艦載機パイロットとして養成されることになったのである26

これにより人的基盤の拡充が可能になる一方で、経験の浅い若手パイロットが増加するため、当面は主として昼間での有視界飛行条件(VMC)での飛行運用に制約されるものと考えられ、さらに空母発着艦だけでなく、実際の航空戦に耐えうる操縦技量を彼らが確立できるようになるには、今後も長期的な飛行訓練と経験の積み重ねが不可欠と思われる。

5.おわりに

今回の空母「福建」でのJ-35、J-15T、KJ-600の発着艦成功は、中国が空母航空戦力において新たな段階に到達したことを示している。EMALSで効率的に発艦したこれら艦載機は、他の友軍艦艇と連携しながら空母打撃群としての運用(対潜水艦哨戒や防空態勢など)を効果的に行うことができるため、中国の海軍力全体を一段と高めることになるだろう。特に、KJ-600が空母から運用可能となったことは、PLA海軍にとって海上戦闘環境の改善を大きく後押しする成果といえる。

しかし、それは「実戦配備の完成」ではなく、むしろ「課題の出発点」である。EMALSやアレスティング制動装置の信頼性向上、膨大な実証データの蓄積、さらに艦載機パイロットの量的拡充と質的成熟といった課題など、克服すべき壁はなお多い。

空母「福建」のように電磁カタパルトを備えた空母が今後も増えていくことが予想されるなか、ただ単に中国側の公表を額面通りに受け止めるのではなく、こうしたハード(技術的信頼性の確立)とソフト(パイロット養成体系の成熟)の両面での克服がどのように進むのかを、冷静かつ継続的に分析していくことが重要である。空母「福建」とこれら新しい艦載機が真に即応態勢を備えるには、数年単位の実証を経た後に初めて近づくと考えるべきであろう。

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  • 相田 守輝
  • 地域研究部米欧ロシア研究室所員
  • 専門分野:
    中国をめぐる安全保障