NIDSコメンタリー 第395号 2025年9月5日 中国軍事パレードにみる航空戦力の急速進化 ―― 有人・無人協調は航空戦をどのように再定義するか?
- 地域研究部米欧ロシア研究室
- 相田 守輝
はじめに
2025年9月3日、北京・天安門広場で中国軍事パレードが盛大に執り行われた。習近平中央軍事委員会主席が検閲した今回の軍事パレードでは、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記を含む複数国の首脳が参列し、国内外の注目を集めた1。
図1:巡閲する習近平中央軍事委員会主席、背後には魚雷に似た無人潜水艇(UUV)や空母艦載の可能性があるステルス・ドローンGJ-11が映る(【全程直播】纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利80周年大会」)
8月20日の事前記者会見では、閲兵領導小組事務室副主任で、中央軍事委員会統合参謀部作戦局副局長の呉沢棵少将が、「展示される装備はすべて国産かつ現役の主力装備である」と説明し、今回のパレードを人民解放軍(PLA)の最新装備を誇示する場であると強調した2。
当日の軍事パレードでは、戦車や戦闘機などの従来装備に加え、多数のドローン、対無人兵器、魚雷に似た無人潜水艇(UUV)、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)など、約100種類もの装備品が披露された。PLAが将来の戦争に勝利するために追求する①システム作戦能力(原文:体系作战能力)、②新領域・新質戦力、③強力な戦略的抑止力といった特徴が、パレード全体を通して強調されていた3。
その中でも特に注目を集めたのが、筆者が事前に登場を予測していたステルス・ドローンFH-97Aではなく、形状を刷新した新型ステルス・ドローンの登場である。本稿では、この新型ステルス・ドローンと、それを遠隔制御する複座型J-20Sステルス戦闘機を軸に、拙稿「中国が想定する将来の航空戦」(『「新たなる戦争」の諸相』防衛研究所、2025年4月)を踏まえながら4、中国航空戦力の進化について検証する。
注目点①:新型ステルス・ドローン ― 実戦配備を示唆する進化
今回の軍事パレードで最も衝撃的だったのは、トラック牽引で登場した新型ステルス・ドローンである。
図2:車両パレードで登場した新型ステルス・ドローン(【全程直播】纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利80周年大会」)。
外形は従来のFH-97系列を踏襲しつつも、左右にあったエアインテークが廃止され、機体上部に単一のエアインテークを備えるデザインへと刷新されていた。このフォルムは、米空軍が開発を進めているステルス・ドローンYFQ-42と極めて類似しており、中国が有人・無人協調運用の高度化を急速に進めている現実を印象づけた。
そもそもFH-97の製造元である中国航天科技集団(CASC)は、偵察、電子戦、精密攻撃といった多様な任務に対応できるジェット推進のステルス・ドローンを開発し続けてきた。初期型のFH-97は、2021年の珠海エアショーで公開され、2024年には改良型のFH-97Aが公開された5。さらに、その機体内部には小型徘徊型ドローン(FH-901)を複数搭載できる構想まで示されてきた6。こうした経緯や中国当局が「国産かつ現役装備のみ展示した」と強調したことを踏まえると、この新型ステルス・ドローンは単なる試作機ではなく、実戦運用を前提とした量産段階に移行している可能性が高い。
拙稿「中国が想定する将来の航空戦」でも指摘したように、これまでのFH-97Aは有人機による遠隔制御を前提とした「随伴型ドローン」として位置づけられてきた。しかしその役割は、単なる有人機のためのミサイルキャリアーにとどまらず、偵察、囮、攻撃目標の評定(Target Degignation)、電子戦、敵の防空網の制圧まで担える潜在力を有する7。さらに機体内部に小型の徘徊型ドローンを搭載し、敵の地上目標を撃破する統合作戦能力も兼ね備えている点も注目に値する。
こうした中国の発想は、米軍が2010年頃から追求してきたネットワーク統合無人航空機運用に通じるものである8。近年の米軍の動向と比較すると、その位置付けが一層明確になる。米Boeing社が豪州空軍向けに開発したMQ-28「Ghost Bat」9や、米Kratos社が開発したXQ-58A「Valkyrie」10を経て、2025年3月には次世代空対空ドローンYFQ-42が正式採用された。しかしながら、その初飛行はつい先日の8月27日に初飛行を終えたばかりである11。こうしたタイムラインを踏まえれば、中国の新型ステルス・ドローンは米国を凌駕するスピードで、実戦配備態勢に近づいていると見ても不自然ではない。
2024年時点の西側アナリストの多くは、FH-97が実戦配備に至るには少なくとも2029年まで時間を要すると予測していた12。しかし、今回のパレードで展示された実機や中国当局の説明を額面通りに受け止めるならば13、PLAはアジア太平洋でこうしたステルス・ドローンの即応態勢を急速に整えつつあると見るべきなのであろう。
注目点②:複座型J-20S ― 空中指揮センターとしての進化
続く上空パレードでは、複座型J-20Sが編隊の先頭で飛来し、その存在感を示した。
図3:空中パレードに向かうJ-20編隊、先頭は複座型J-20S(【全程直播】纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利80周年大会」)。
機体は、新しいステルス塗装の影響なのか機体がダークグレーの外観となり、機首下には360度センサー可能と思われるEOTS(Electro-Optical Targeting System)に換装されるなど、複数の改良点が確認された。これらの変化は単なる外観の刷新ではなく、ネットワーク化・知能化を前提とした作戦運用を支えるハード面の進化を象徴している。
図4:空中パレードに向けて地上滑走する複座型J-20Sステルス戦闘機(【全程直播】纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利80周年大会」)。
複座型J-20Sは、昨年の珠海エアショーでも空中における戦術指揮の中心として活用される構想が示されていたが14、今回のパレードではその方向性がより鮮明になったと言えよう。つまり、後席パイロットがAI支援を受けながら戦闘空域内で複雑な情報処理や複数ドローンのリアルタイム管制を担う運用構想があり、有人機を中核としたドローンの制御が現実の物となりつつあることを示唆している。
さらに注目すべきは、この有人・無人の協調運用が航空戦の概念そのものを再定義しつつあるという点である。従来、航空優勢の獲得はこれまで「高性能な有人機やミサイルの数」に依存してきた訳だが、筆者の拙稿でも指摘したとおり、中国の戦略家たちは、複座型J-20Sのような有人機がドローン群を遠隔制御することで、将来の航空戦はネットワーク化された多層構造へと進化し、有人機が複数のドローンを随伴させた航空戦が常態化すると想定している15。
事実、中国当局による会見でも、複座型のJ-20Sが高帯域通信を介して「北斗」衛星や地上レーダーと連接し、リアルタイムで戦術状況を構築するネットワーク・ノードとしての能力を果たすと強調されていた16。これは、ドローンを有人機の前方の危険な空域に展開させ、有人機ははるか後方で戦術的に遠隔制御をおこなう「有人・無人協調」の完成形を視野に入れたものと評価すべきであろう。
米空軍が進めるCCA(Collaborative Combat Aircraft)構想との比較で見ても17、この動きは際立っている。米国が質の向上を慎重に追求する一方、中国は質よりも迅速な量的拡充を優先し、周辺地域において早い段階から航空優勢を短時間で確立しようとしている。米国の技術水準と完全に肩を並べるにはまだ時間を要するであろうが、少なくとも実戦配備に先行した中国が「数」で優位に立てば、航空戦の緒戦において優勢な状況を獲得していく可能性が高くなるのではないだろうか。
おわりに
今回の軍事パレードは、中国の航空戦力が「智能化戦争」への移行を想定以上のスピードで進めている現実を鮮明に示した。J-20Sと新型のステルス・ドローンによる有人・無人協調の深化は、単なる技術革新にとどまらず、航空戦の概念そのものを再定義しつつある兆候と言える。
拙稿「中国が想定する将来の航空戦」でも指摘したとおり、ウクライナ戦争を契機に顕在化したドローン群の統制、電子戦と通信妨害の一体化、スタンドオフ精密攻撃の有効性は、中国が独自に構築してきた「一体化統合作戦」、そしてその延長線上にある「智能化戦争」の枠組みに巧みに組み込まれている。今回披露された装備群は単なるデモンストレーションではなく、実戦配備を視野に入れた即応態勢の形成を示唆している。
今後注視すべきは、J-20Sを中核とした指揮・統制システムの成熟度、FH-97AやGJ-11だけでなく今回の新型ステルス・ドローンの量産スピード、そして両者が協調しながら運用されることで現れる新たな航空戦の姿である。中国の航空戦力は、従来の航空優勢を巡る単純な機数・性能に基づく競争から、AIとネットワークを基盤とした多層的な統合作戦に基づく競争へと急速に移行しており、その進化速度は西側の初期予測を明らかに凌駕している。
筆者は過去のコメンタリー「中国のドローン TB-001 が弾道ミサイルの着弾に関与していた可能性について」(239号、2022年)で、中国国内で膨大な数のドローンが製造されている現状から日本を取り巻く安全保障環境を楽観視することの危うさを指摘してきた18。ドローン技術がさらに洗練され、AIと融合した自律型ドローンが戦場で攻撃判断を下す段階へ移行するのは時間の問題であろう。現状でも周辺国への強硬姿勢を崩さない中国が、こうした自律行動型ドローンを積極的に実戦投入し始める傾向を深刻に受け止めるべきであろう。
Profile
- 相田 守輝
- 地域研究部米欧ロシア研究室所員
- 専門分野:
中国をめぐる安全保障