NIDSコメンタリー 第375号 2025年5月16日 ロシア・ウクライナ戦況メモ 2024年10~12月

地域研究部 米欧ロシア研究室長
山添 博史

ロシア(赤色)およびウクライナ(青色)による制圧・戦闘地域

ロシア軍が二正面で前進、北朝鮮兵が参加

本稿は2022年2月以来のロシア・ウクライナ戦争において2024年10月~12月の期間の主な推移を扱う1。ロシアは引き続き主要な攻撃の場所を選び、ウクライナに防衛を強いることで、主要なイニシアチブを保持しつつ、自国領クルスク州内に進軍したウクライナ軍部隊への対処を続けた。ロシアは引き続き、ドネツク州のチャシウ・ヤルやポクロウスクを制圧して全州の占領を目指す動きを続けた。ポクロウスクの周辺の前線では、北東のトレツクの激戦が続き、南西のヴフレダルでは10月1日にウクライナ軍が撤退した。2023年2月にはロシアの精鋭戦力がヴフレダルを拠点とするウクライナ部隊に撃退され大損失を被った(第155海軍歩兵旅団が壊滅されたといわれた)が、ロシアは20か月かけて兵力・物資の運用を改善し、ウクライナは損耗が重なって兵力のローテーションや砲弾確保もできなくなって撤収を強いられた2

10月に入り、北朝鮮人員の戦場での存在が報じられ始めた。10月3日のウクライナによるドネツク付近への砲撃により、北朝鮮の将校6人を含む20人が死亡したと、ウクライナ軍の情報筋からキーウ・ポストとインターファクス・ウクライナが報じた3。プーチン大統領は6月19日に署名した北朝鮮との包括的戦略パートナーシップ条約を10月15日に議会に送り、11月6日に上院が批准した4(12月5日に両国の批准書交換により発効)。10月18日、韓国国家情報院は、北朝鮮兵がロシアの極東地域で訓練を受けており、1,500人の特殊部隊が戦場に送られることを確認したと発表した5。ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、10月23日にクルスク州の戦場で北朝鮮兵の参加を確認し、彼らはロシア極東地域の訓練場で訓練を受けて送られた12,000人と見積もられる派遣部隊の一部であると発表した6。11月前半のウクライナと米国の分析は、クルスク州でのロシア側の兵力は約5万人に増加し、そこに北朝鮮兵士約1万人以上が参加していると見積った7。ロシアも北朝鮮も、これらの部隊の参加を否定し、条約の義務にも言及しなかった。

この時期のウクライナが直面した北朝鮮部隊は、歩兵の大量損耗を強いるロシアの戦い方においてロシア部隊の代わりの損耗を引き受ける役割を担っていた。11月23日にゼレンスキー大統領は3,000人が死傷したと述べ、27日に米国のカービー報道官は最近の1週間だけで1,000人が死傷したとの見積もりを述べた8。これらの戦力投入の結果、ロシアはウクライナ前線に対して前進し、ウクライナは若干の反撃を行いつつ、占領地域は9月末の約740km2から12月末の約520km2に減少し、スジャを中心に占領統治を保った。

ロシアはクルスク州の統治回復に戦力を投入しつつも、ドネツク州での前進を優先し続けた。ただし主要目標ポクロウスクへの前進は比較的遅く、その周辺で占領地を拡大することを続けた9。戦争研究所(ISW)の見積もりによると、9月から11月の戦力投入が特に大きく、進軍2,356km2に対して死傷者125,800人だった(1月から12月だと4,168km2、死傷者42万人)10

外交とミサイルをめぐる応酬

米国の大統領選挙では11月5日の投票で、ドナルド・トランプ氏が2期目に就任することが確定し、キャンペーン中に加えて就任前の期間にも、米国の姿勢に関する各種の発言で国際関係への影響力を行使した。同氏はたびたび米国がウクライナの軍事などに支出してきたことを批判し、自分が戦争を終わらせると唱えてきたが、無条件に支出をやめる選択肢も、米国の力を背景にロシアと交渉して停戦を達成する選択肢(ウクライナ担当特使に選んだキース・ケロッグ氏の所論11)も持っており、どちらの方向も可能だった。ウクライナのゼレンスキー大統領は9月27日にトランプ候補に説明した「勝利計画」の概要を、10月16日にウクライナ最高会議で発表し、NATO加盟の道筋、防衛力の強化、ロシア抑止、パートナーとの共同経済開発、戦後に米軍部隊に代わって欧州駐留の5項目を挙げた12。トランプ氏とウクライナの利害の一致を通じてウクライナに有利な戦争終結への道筋を狙ったものだった。

米国のバイデン政権は11月17日、北朝鮮による戦争参加を受けて、ウクライナに供与したATACMS戦術ミサイル(射程約300kmのもの)による打撃対象をウクライナ領内からロシア領内に拡大することを決定したと報じられた13。11月19日、ロシアは核兵器の使用基準を修正して公開し、現状でも核兵器を使用しうることをより明確に示した14。11月19日にウクライナが発射したATACMSがブリャンスク州の軍事施設を打撃した。11月21日、未明のドニプロ市街への攻撃に対する迎撃戦闘において、ウクライナ空軍はロシアのアストラハン州(約800km東)から発射された「大陸間弾道ミサイル」が含まれたと発表した15。同日午後、プーチン大統領は、ATACMSによる攻撃を受けて新開発の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を用いたと述べた16。11月25日、ロシアのクルスク州のハリノ航空基地にある攻撃拠点がATACMSによって打撃を受けた17。これらの経緯においては、制御不能な危険なエスカレーションは起きなかった。

2024年12月30日に米国国防省が発表した軍事支援は、防空システム弾薬、高機動ロケット砲システム(HIMARS)弾薬、155mmおよび105mm砲弾、対レーダーミサイル、医療用品、補修部品などを含む合計約25億ドル相当であり、2022年2月以来の合計ではパトリオット防空システム、300万発以上の155mm砲弾、戦車、ヘリコプターなどを含む約654億ドルとなった18

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  • 山添 博史
  • 地域研究部 米欧ロシア研究室長
  • 専門分野:
    ロシア安全保障、国際関係史