NIDSコメンタリー 第365号 2025年2月4日 トランプ2.0と「台湾問題」の行方

地域研究部中国研究室 専門研究員
五十嵐 隆幸

はじめに

2025年1月20日、第2次トランプ政権(トランプ2.0)が始動した。前年11月の米国大統領選挙後、有識者の多くは「予測不能」なトランプがホワイトハウスに戻ってくることに身構えた。特に台湾では、トランプ2.0の対台湾政策をめぐる予測と議論が絶えなかった。なぜならば、その安全保障を米国に大きく依存しているからである。だが、それは4年に1回訪れる「恒例」の議論といっても過言ではない。

台湾の大統領にあたる総統と米国大統領の選挙周期は同じく4年であり、どちらもオリンピックの年に行われる。台湾は1月に選挙、5月に就任。米国は11月に選挙、翌年1月に就任となる。台湾の総統選挙では、米国との関係が重要な争点の一つになっているが、5月に就任したとしても、新政権の外交は本格始動できない。米国大統領選挙の結果次第で、台湾の外交政策が転換を迫られる可能性があるからだ。

2024年5月の頼清徳政権発足後、台湾ではトランプ警戒論が絶えなかった。だが、徐々に楽観論が広まった。トランプが、台湾との関係強化を主張するルビオ上院議員を国務長官に、対中強硬論者のウォルツ下院議員を国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名したことが大きい。12月、第1次トランプ政権期に売却承認されたM1A2戦車が台湾に到着したことも、台湾の不安が払しょくされる要因になった。

一方で2025年1月17日、トランプと中国の習近平国家主席が電話会談した。中国側の発表では、「双方が戦略的な意思疎通の仕組みをつくることで合意した」としている1。米中関係が安定すれば、「台湾有事」を防ぐことができるという見方がある2。ただ、実態はともかく良好な米中関係が演出されると、台湾では「米国に見捨てられる」との不安が渦巻く3。台湾は固唾を呑んで米中関係の行方を追うしかない。

トランプ大統領の任期は2029年1月までで、次の選挙は出馬することができない。頼清徳総統の任期は2028年5月までで、その年の1月に再選をかけた選挙が行われる。彼らの任期は、まさに2021年3月にインド太平洋軍司令官が示した「今後6年以内に中華人民共和国が台湾を侵攻する恐れがある4」の期間と重なる。果たして、中国は台湾侵攻に踏み切るのであろうか。その時、米国は台湾を見捨てるのであろうか。本稿では、台湾をめぐる米中の立場を提示したうえで、「台湾問題」の行方を洞察していく。

第1次トランプ政権期とバイデン政権期における対台湾支援の強化

2016年にトランプが初当選した際、台湾メディアはトランプへの不安を隠さなかった。だが、トランプがTwitterで「蔡英文と電話会談した」と公表、「“一つの中国”原則に縛られない。維持していくか否かは中国の対応次第」と述べたことで5、台湾側はトランプに期待を寄せ始めた。ところが、大統領就任後は挑発的な言動から一転、トランプは習近平と良好な関係を築いていった。しかし、長続きしなかった。2017年末以降、トランプ政権は中国を戦略的競争相手と位置づけ、台湾重視の姿勢を鮮明にした。

2018年3月に制定した米台政府高官間の相互訪問を推奨する「台湾旅行法」を皮切りに、米国は公式な外交関係のない米台間の交流を事実上強化した。2020年12月の「台湾保証法」では、台湾への武器売却の継続を明言した。2期8年間で台湾への武器売却が4回(総額約140億ドル)だったオバマ政権と比べ、トランプ政権はわずか4年間で11回(総額約180億ドル)と大きく伸びた(表1)。

トランプ大統領の台湾に対する支持を背景に、台湾では2020年の大統領選挙でトランプ再選を期待する声が高まった。だが、バイデン候補がトランプ再選を阻むと、オバマ政権の副大統領であったバイデンが、当時の融和的な対中政策に回帰するのではないかと不安が広がった。ところが、政権発足から間もなくバイデンは前政権の対台湾政策を踏襲する姿勢を示し、台湾側の不安は一気に和らいだ。

バイデン大統領は、何度か「中国が台湾を武力で侵攻した場合、米国は台湾を防衛する」と発言した。それは、「戦略的あいまいさ」政策の転換かと台湾側に期待を抱かせた。だが、インパクトこそ及ばぬものの、バイデン政権は1979年の断交時に台湾との関係維持を図った「台湾関係法」以来、最も包括的な対台湾政策の再構築と言われる転換を行っている。2022年12月の「台湾レジリエンス促進法」である6

同法で米国政府は、5年間で総額100億ドルの無償軍事支援の提供、米台間での軍事演習や訓練プログラムを強化、米台の国防産業間の協力を強化して台湾での兵器生産能力向上などをうたった。バイデン政権での対台湾武器売却は、4年間で17回(総額約190億ドル)、トランプ1.0とほぼ同じであった(表1)。バイデン政権の対台湾政策を背景に、今度は「予測不能」なトランプ再選に不安が高まっていた。

表1 米国歴代政権における対台湾武器売却の総額と主要装備等(2009.1~2025.1)
オバマ政権 第1次トランプ政権 バイデン政権
期間 2009.1~2017.1(8年) 2017.1~2021.1(4年) 2021.1~2025.1(4年)
総額(回数) 約140億ドル(4回) 約180億ドル(11回) 約190億ドル(17回)
主要装備等 F-16A/Bの性能向上
PAC-3ミサイル
AH-64E攻撃ヘリ
M1A2戦車
F-16V
地対艦ミサイル
空対艦ミサイル
空対空ミサイル
無人偵察機
出所:米国防安全保障協力局(DSCA)の公式Web(https://www.dsca.mil/press-media)などに基づき筆者作成。

「台湾問題」に対する中国の「原則」と米国の「政策」

米国が台湾の安全保障にコミットすることに対し、中国は断固として反対の姿勢を示している。この台湾をめぐる米中の確執は、今世紀に入って始まったことでない。1949年の中華人民共和国成立後も、米国政府は台湾に撤退した中華民国政府との外交関係を維持した。それから30年後、米国は中華人民共和国と外交関係を結ぶのだが、台湾との非公式な関係を維持し、今日まで「台湾問題」として禍根が残る。

中国は「台湾問題」に関し、「一つの中国」原則を掲げる。それは、①世界で中国はただ一つである、②台湾は中国領土の不可分の一部である、③中華人民共和国政府は全中国を代表する唯一の合法政府である、という立場である7。これに対して米国は、③は「承認(recognize)」したものの、②は中国の主張を「認識(acknowledge)」するにとどめ、台湾の位置付けを確定することについては曖昧さを残した。

米国政府の台湾問題に対する立場は、「一つの中国」政策と総称される。それは、①米中関係三つのコミュニケ(1972年のニクソン訪中時、1978年の米中外交関係樹立時、1982年の対台湾武器売却についての共同声明)、②1979年の「台湾関係法」、③1982年の「六つの保証」、から成り立つ。ただし、米国は、明確に「政策」と掲げておらず、「政策」と「原則」の違いも強調することなく、曖昧にしている。

「一つの中国」政策のなかでも、「米国の政策」と明記してその立場を示しているのが「台湾関係法」である。同法は、断交後に台湾の人民との間で、経済、文化、その他の非公式な分野での関係を維持し、促進を図るものである。同法で米国は、台湾が自己防衛を確保できるよう防御的な性質の武器装備の提供継続のほか、平和的手段以外で台湾の将来を決める試みは西太平洋地域の平和と安全に対する脅威だと表明している8。重要なポイントは、中国が台湾に対して武力侵攻した際、米軍を派遣するか否かは大統領判断に委ねていることだ。これが、いわゆる「戦略的あいまいさ」政策と称される由縁である。

当然ながら、中国は米国が台湾に武器の売却を続けたことに抗議した。そのため、米中交渉を経て発表された1982年の「台湾向け武器売却についての米中共同コミュニケ」において、米国が台湾に売却する武器に性能と数量の面で制約が課せられることが明記された。ところが、コミュニケ発表に先立ち、レーガンが蔣経国総統に対し、米国政府は「台湾関係法」に重きを置いており、台湾に対する武器供与政策に変更はないと伝えていた。いわゆる「6つの保証」である(表2)9。レーガンは中国政府との合意をひそかに「骨抜き」にしたのである。米国政府としての立場は1982年に固まった。以来、米国の歴代政権はそれを維持している。

「六つの保証」

中国は台湾侵攻に踏み切るのか?

「2027年」の米・中・台を率いるリーダーが出揃った。ただし、中国が「〇〇年に侵攻する」と明言したことは一度もない。2027年侵攻説の発信源は、米国である。論拠は、習近平が3期目満了の2027年までに歴史に残る成果を挙げ、4期目につなげる意図があるとの分析である10。だが、2018年3月の全国人民代表大会において、国家主席2期までという制限は撤廃されている。この先、4期目であろうと5期目であろうと、任期制限が存在した3選へのハードルに比べれば皆無に等しく、それならば2027年にリスクを冒してでも成果を残す必要はない。中国は「そのような計画はない」と明確に否定している11

「いつ」でなければ、「なに」があれば、中国は台湾侵攻に踏み切るのか。中国は、その条件を2005年の「反国家分裂法」で明示している。その要訣は、「台湾独立」である12。米国と台湾もその条件を見積もり、それぞれ年次報告書で説明している。米台は「台湾独立」は当然ながら、「反国家分裂法」で曖昧にされている「台湾の中国からの分裂をもたらしかねない重大な事変」について、「台湾の核兵器保有」と「外国勢力・軍隊の台湾への関与」と分析する13(表3)。米軍の台湾駐留も、簡単には進められない14

そうなると、「台湾独立」の動きに最大の関心を払わなければならない。中国は、頼清徳を「台湾独立派」と見なす15。たしかに、かつて頼清徳は「台湾独立を求める現実的な活動家」を自称していた16。しかし、頼清徳は民主化後の歴代総統とは異なり、政権No.3の行政院長、No.2の副総統と一段ずつ政治経験を積み重ねて総統に就任した。頼清徳は総統選挙への出馬に先立ち、「台湾は既に中華民国という主権が独立した国家である。独立を宣言する必要ない」と語っている17

だが、何を「分裂をもたらしかねない重大な事変」と見なすかは、中国が判断することである。中国が台湾に対して侵攻するか否か、その決定権は中国が握っており、台湾側の意図にかかわらず発動される。

表3 中国が台湾に対して非平和的手段を行使する条件
中国の公式見解 台湾の見積もり 米国の見積もり
①「台湾独立」分離主義勢力が如何なる名目または方式であれ、台湾を中国から切り離す事実をつくり、
②台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、
平和的統一の可能性が完全に失われた場合
台湾が独立を宣言
台湾独立へ向かうことが明確
③台湾が核兵器を保有
④中国内部の動揺や不安定化
⑤海峡両岸の平和的統一の遅延
⑥外国勢力による台湾内の問題への関与
⑦外国兵力の台湾駐留
台湾独立の正式な宣言
台湾独立へ向かう兆候
③台湾内部の不安定化
④台湾が核兵器を保有
⑤統一に関する両岸対話再開の無期限な遅延
⑥台湾内政への外国軍隊の干渉
反国家分裂法(2005.3) 中共軍力報告(2021) PRC年次報告(2023.10)
出所:「反分裂国家法 2005年3月14日第十屆全国人民代表大会第三次会議通過」(『人民日報』2005年3月15日)、翁衍慶『中共軍史、軍力和対台威脅』(台北:新鋭文創、2023年)、U.S. Department of Defense, “Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2023,” (Washington D.C.: The Department of Defense, October 19, 2023)をもとに筆者作成。

おわりに

2025年1月20日、トランプ2.0が始動した。選挙期間中、トランプが台湾に防衛費をもっと支払うべきと迫るなどの発言を繰り返したことから、多くの台湾メディアは警戒感を顕わにしていた18。ところが、トランプ2.0が始動すると、台湾の専門家からも武器購入のチャンスと見て防衛費の増額を主張する声が上がった。トランプ1.0の終盤で米国政府が高機動ロケット砲システム「ハイマース」やハープーン対艦ミサイルを改良した空対地ミサイル「SLAM‐ER」など中国本土を攻撃できる武器の台湾への売却を決定したことに触れ、「台湾関係法」が定める「防御的な性質の武器装備を台湾に提供する」との制限を越えるものだと期待を込める19

だが、近年、台湾はバイデン政権の「台湾レジリエンス促進法」などに基づく支援を受け、自主生産体制を整えてきた。トランプ政権は、バイデン政権が認めなかった高性能で高額な武器の売却を認めるかもしれない。他方、限りある予算をそれに費やすことにより、自主生産能力の伸びが鈍化する恐れがある20

今後、トランプ2.0の対台湾武器売却が強化された場合、台湾海峡の緊張が増すとの懸念が高まるであろう。だが、トランプが台湾に武器を売却する目的は、台湾の軍備増強よりも米国の経済的利益、ビジネスであろう。トランプは就任演説で「私の誇れるレガシーはピースメーカーになることだ」と発言している。三四半世紀続く「台湾問題」を解決することは容易でない。だが、2029年1月までのトランプ2.0の4年間、台湾海峡で燻る紛争の火種が燃え上がらないように防ぐことを期待したい。

Profile

  • 五十嵐 隆幸
  • 地域研究部 中国研究室 専門研究員
  • 専門分野:
    東アジア国際政治史