NIDSコメンタリー 第295号 2024年1月16日 イエメン情勢クォータリー(2023年10月~12月)——国際社会に拡大するフーシー派の脅威と海洋軍事活動の活発化

理論研究部社会・経済研究室 研究員
𠮷田 智聡
理論研究部社会・経済研究室 研究員
清岡 克吉[1]

エグゼクティブ・サマリー

◆ フーシー派は10月7日以降のイスラエル・パレスチナにおける武力衝突に際して、パレスチナ支援を掲げて軍事活動を開始した。攻撃対象はイスラエル本土と、紅海・アラビア海を航行するイスラエル関連船舶およびイスラエルに向かう船舶である。この他にサウディアラビアとの和平合意が妥結するとの見方が広がったものの、本四半期には実現しなかった。

◆ アリーミー政権派は東部諸県でのサイクロン被害を受けて、大統領がマフラ県を前四半期から連続して訪問する形となった。軍事面では参謀総長に対する実行犯不明の暗殺未遂事件が発生した他、参謀総長がハッジャ県や紅海島嶼部に展開する沿岸警備隊部隊を巡閲した。

◆ 南部移行会議は今次のイスラエル・パレスチナ情勢に際して、沈黙を貫いており、イエメン諸勢力の中で最もイスラエル寄りの姿勢を示した。またズバイディーはイスラエルによる南イエメンの民族自決権承認と引き換えに、紅海航路庇護のための用意がある旨の発言をした。

◆ 国民抵抗軍はフーシー派の海洋軍事活動に対抗し、密輸拿捕などの成果を挙げた。同組織は幹部等を通して海軍や沿岸警備隊に一定程度の影響力を有しているとみられる。またこれまで同様に西海岸地域の支配強化が目指され、ターリク・サーレハは正式開業が目指されるモカ空港を視察した。

(注1)本稿のデータカットオフ日は2023年12月31日であり、以後に情勢が急変する可能性がある。

(注2)フーシー派は自身がイエメン国家を代表するとの立場をとるため、国家と同等の組織名や役職名を用いている。本稿では便宜的にこれらを直訳するが、これは同派を政府とみなすものではない。

【図1:イエメン内戦におけるアクターの関係】

エグゼクティブ・サマリー

(注1)大統領指導評議会の中で、サウディアラビアの代理勢力と評される組織を(◆)、UAEの代理勢力と評される組織を(◇)とした。

(注2)代表的なアクターを記載した図であり、全てのアクターを示したわけではない。

(出所)𠮷田作成

フーシー派:対イスラエル戦争の成果と国際社会の対応

フーシー派は10月7日以降のイスラエル・パレスチナにおける武力衝突に際して、パレスチナ支援を掲げて軍事活動を開始した。以下では、別論考のデータカットオフ日であった11月5日以降の同派の動きや国際社会の反応について整理したい[2]

イスラエル南部エイラートへの頻繁な航空攻撃に加え、フーシー派は11月9日に米軍のドローン「MQ-9リーパー」を撃墜した[3]。米軍も撃墜を認めたものの、それがイエメン領海上であったか公海上であったかという認識には食い違いが見られる。国際社会にとってより差し迫った脅威である紅海での軍事活動については、米国中央軍の発表によれば、11月19日から12月31日までの国際物流への攻撃は23回に及んだ[4]。諸攻撃の中でも、11月19日の日本関連船舶「ギャラクシー・リーダー」の拿捕が耳目を集めた。フーシー派海軍司令官ムハンマド・アブドゥンナビー(Muḥammad ‘Abd al-Nabī)は同船舶の乗組員を「イエメンの客人」と表現[5]しており、家族との連絡など最低限の接触は許可されている模様である[6]。乗組員はフィリピン、ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、メキシコ国籍であり、各国がイランやサウディアラビアを介して解放交渉を進めてきた。12月29日には解放実現が間近であるという報道も出ている[7]。船舶本体については、本稿執筆時点でホデイダ県北部の港湾部サリーフ沖南方に停泊しているとみられる[8]。これは船舶自動識別装置(AIS)から得られた情報であり、フーシー派がAISを切断せずに、国際社会に船舶の位置を知らしめようとしていることを意味する。前述の乗組員を客人として扱う発言なども含め、自派が国際社会の敵ではなく、イスラエルと戦っているという主張に沿った行動を示したい思惑があると考えられる。

海洋面での軍事活動に関して、フーシー派の攻撃対象は徐々に拡大してきた。当初はイスラエル関連船舶として紅海を航行する①イスラエル旗掲揚、②イスラエル企業運営、③イスラエル人所有のものが標的とされていた。しかし12月4日に活動範囲がアラビア海に拡大[9]され、さらに同月10日にイスラエルに向かう船舶であれば国籍を問わない方針が示された[10]。実際にはイスラエルに向かっていなかったとされる船舶への攻撃も看取されており、英国石油大手BP社など紅海での運航を停止する企業が増加している。前述したエイラートへの航空攻撃の影響も併せて、イスラエルで唯一の紅海に面した貨物ターミナルであるエイラート港は85%活動が縮小した[11]。フーシー派は自身を紅海における「安全弁」であると表現しており、イスラエルに対する経済戦争は成果を挙げていると評価できる。

イスラエルを強固に支持する米国は、紅海の航行の自由確保を大義として、12月18日に多国籍枠組み「繁栄の守護者」作戦の創設を発表した[12]。当初同作戦への参加を表明したのは英国、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、セーシェル、バハレーンであり、後にギリシャと豪州の参加も発表された。米国防総省の発表によれば米国を含め20カ国以上が参加していることから、8カ国以上が非公開で参加している。またフランスは自国の指揮下で、スペインはNATOもしくはEU主導の共同作戦にのみ参加するという立場を示すなど、参加国の中には米国主導のイニシアティブに一定の距離を保とうとする動きも見られる[13]。こうした一因として、欧州各国が国内の反イスラエル世論の高まりを考慮している点が指摘されている他、フーシー派が米国のパートナーも敵視する姿勢を明らかにしていることが挙げられよう。多国籍枠組みが十分に機能するか疑問が残る中、米軍は12月31日にフーシー派海軍と交戦し同派戦闘員を10名殺害、3隻の舟艇を沈没させた。また同日に米英はイエメン空爆の用意をしていると報じられた[14]。仮に米英の独断で空爆が行われれば、後述するように政治的解決が模索されているイエメン情勢は後退を余儀なくされる。

国際社会の懸念に対し、フーシー派の認識は正反対のものである。同派は米国こそが紅海の軍事化を進めていると主張した上で、「イスラエルがガザ地区への侵略を停止するまで、自軍がイスラエル攻撃を継続する」という従来の立場を堅持している。紅海でのエスカレーションの責任を米国に転嫁する点は別として、パレスチナ支援のための軍事行動という言説は、中東諸国の民衆単位では一定の支持を得ている可能性がある。例えばワシントン近東政策研究所の調査によれば、2023年8月時点で10%に過ぎなかったサウディアラビア人のハマースへの好感度は、同年10月~11月に40%にまで急伸した[15]。パレスチナ系難民の人口に占める割合が高いヨルダンでは、ハマースを肯定的に捉えるという回答は85%にも上る。以上のようにアラブ諸国では国内世論の関係から、ハマースを支援するフーシー派に対して敵対的な行動を公には取りにくい環境が醸成されていると考えられ、「繁栄の守護者」作戦への参加を認めているアラブの国はバハレーンのみである。なおイスラエルと国交を有するバハレーンでは、政府によるパレスチナ連帯デモ参加者の逮捕が報告されており、イスラエル寄りの姿勢が窺われる[16]

フーシー派・サウディアラビア間の和平交渉も、イスラエル・パレスチナ情勢の影響を受けているとみられる。11月16日には地元有力紙『アデン・ガド』編集長は、6カ月の停戦合意が1週間以内に署名されると『X』に投稿した[17]。同人物は合意内容として給与支払いや空港開放に加え、戦争終結の政治的解決に達するための政治対話委員会設立が含まれると述べた。同日にスルターン・アラーダ(Sulṭān al-‘Arāda)を除く大統領指導評議会メンバーがサウディアラビア国防大臣ハーリド・ビン・サルマーン(Khālid bin Salmān)と会合したこともあり、イエメンウォッチャーの間でも和平合意実現の可能性が俄かに取り沙汰された[18]。また米国がフーシー派抑止のための多国籍枠組みを検討する中、12月7日にサウディアラビアは米国に自制を求めたとされる[19]。サウディアラビアはイスラエル・パレスチナ情勢がイエメン問題にまでスピルオーバーすることを恐れているとともに、米国が取り得る軍事介入の烈度ではフーシー派を軍事的に抑え込めないと考えている可能性がある。前述した空爆が行われれば、サウディアラビア主導の有志連合軍が2022年4月以来停止してきたイエメンへの空爆が再開されることになり、イエメン内戦の政治的解決は一層遠のくことになる。また軍事的観点からも、山岳歩兵を中心として、(2015年から2022年までの)7年以上有志連合軍からの苛烈な空爆に耐えてきたフーシー派を航空攻撃だけで抑止できるとは考えにくい。米英としてはフーシー派が強度の海洋軍事活動を行えない程度までの攻撃に留める思惑があるかもしれないものの、それが可能か不明である上、更なるエスカレーションが起きることは不可避な状況にある。フーシー派が明確に国際社会の脅威となっている点は事実であるが、米英は過去に軍事的解決を求めたイラクやアフガニスタンでの事態の経過とその結末を今一度冷静に分析し、長期的な視点に立った政策と実行が求められるのではなかろうか。

【図2:本四半期の一枚(ギャラクシー・リーダー拿捕と同船舶を視察するアーティフィー国防大臣)】

フーシー派:対イスラエル戦争の成果と国際社会の対応 フーシー派:対イスラエル戦争の成果と国際社会の対応

(出所)Wikāla al-Anbā’ al-Yamanīya より引用[20]

アリーミー政権派:参謀総長の暗殺未遂

大統領ラシャード・アリーミー(Rashād al-‘Alīmī)は、10月下旬にイエメン東部に上陸したサイクロン “TEJ” の被害視察のために東部マフラ県を訪問した。同月28日にマフラ県知事およびハドラマウト県知事との会合が実施され、対応が協議された[21]。また11月28日にアリーミーはドバイに到着し、南部移行会議最高指導者アイダルース・ズバイディー(‘Aydarūs Qāsim al-Zubaydī)とともに国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に参加した。アリーミーはCOP28演説にて、前述のサイクロン “TEJ” について触れつつ、気候変動課題への対峙の世界的な減速に警鐘を鳴らした[22]

軍事面では、11月7日に参謀総長サギール・ビン・アズィーズ(Ṣaghīr bin ‘Azīz)に対する暗殺未遂事件が発生した[23]。マアリブ県への帰任の際を狙った自動車爆弾攻撃であり、参謀総長は無事であったものの、随行員3名が負傷したとされる。国防省は実行犯の調査を命じたとされるが、本稿執筆時点では続報はない。またアリーミー政権派も海洋面で活動を行っている。10月18日にはわが国の防衛駐在官が沿岸警備隊長官と二国間関係強化などについて議論したと報じられた[24]。同月下旬には、参謀総長がハッジャ県ミーディー港[25]および紅海島嶼部に駐留する沿岸警備隊部隊を視察した[26]。なお政権側沿岸警備隊(アデン管区)のFacebook投稿(11月25日)を見ると、巡視艇の保有も確認される[27]

南部移行会議:イスラエル寄りの姿勢の堅持

南部移行会議は、フーシー派の海上軍事活動を利用して南部独立を追求する動きを見せた。12月9日にズバイディーは海軍司令官と会談した[28]。また同日には南部移行会議の軍事部門「南部軍」の公式報道官ムハンマド・ナキーブ(Muḥammad al-Naqīb)が、バーブ・マンデブ海峡およびアデン湾の海洋航路の安全・安定性保護において実効的かつ機軸的な協力を行う準備ができている旨の発言をした[29]。同月11日にはイスラエルによる南イエメンの民族自決権承認と引き換えに、南部移行会議が紅海航路庇護のために協力する用意がある旨を表明したと報じられた[30]。ズバイディーは2021年時点でロシア国営テレビ『RT』のインタビューで、将来の南イエメン国家がイスラエルと国交正常化することは可能であると述べている[31]。こうした経緯からも明らかなように、南部移行会議は今次のガザでの衝突に際してもイスラエルを非難しておらず、南部軍公式サイト『南の盾』等でもイスラエル・パレスチナ情勢は一切報じられていない。他勢力がイスラエル非難を展開する中、南部移行会議は自組織の利益最大化を目標として、最もイスラエル寄りの姿勢を示したといえる。

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

フーシー派の軍事活動の活発化に合わせて、国民抵抗軍の海洋面での軍事活動も活発化した。10月11日にホデイダ県南部ファーザ沖でフーシー派と連合抵抗軍[32]の衝突が発生した他、同月16日に最高指導者ターリク・サーレハ(Ṭāriq Muḥammad Ṣāliḥ, 以下T.サーレハ)が沿岸警備隊長官と会談した[33]。その後同月23日[34]、および12月23日に沿岸警備隊がタイズ県西部で密輸の阻止に成功した[35]。沿岸警備隊紅海方面司令官アブドゥルジャッバール・ザフズーフ(‘Abd al-Jabbār al-Zaḥzūḥ)は国民抵抗軍幹部であることから、国民抵抗軍は沿岸警備隊に一定程度の影響力を有しているとみられる。12月12日にはT.サーレハが沿岸警備隊および海軍旅団の教育年次修了式に出席した[36]。なお、T.サーレハやザフズーフに加え、海軍歩兵第一旅団司令官ブハイジー・ラマーディー(Buhayjī al-Ramādī)が同行事に参加したと報じられたが、ラマーディーも国民抵抗軍幹部とみられる[37]。国民抵抗軍の海軍力はフーシー派と比べて小さなものであるが、モカなど紅海南部での活動が可能であるため、今後の動向が注目される。

12月4日にT.サーレハはモカ空港を視察し、正式な開業や、同空港発着の国内・国際民間航空便の運航開始に向けた最終調整が進められた[38]。国民抵抗軍は西海岸地域支配を開始した2018年以降、モカ港付近で空港の開発を進めてきた。その動機は、国民抵抗軍の支配地域において国外や長距離の移動に有効に運用できる空港がなかったためとみられる。以下では同空港の開発の推移について、Google Earthの「航空写真」や国民抵抗軍の政治声明や報道を基に分析を試みる[39]。また、開発中のモカ空港の現状を空中画像から分析し、将来の拡張計画を指摘した上で、どのような運用を目指しているのかを概況ではあるが示したい。

まずモカ空港の整備状況を航空画像の時系列分析によって確認する[図3参照]。これらの画像は1枚目から順に、①2018年5月5日、②2019年9月25日、③2023年1月27日、④2023年3月15日に取得されたものを時系列順に並べたものである。民間の航空画像サービスであるGoogle Earthを利用した簡易的なものであるため、これらの画像の中には、撮像のチャンクによって取得時期が一致しないものがあるが、大まかな動きを分析することを目的とするため、本稿においては該当部について適宜明示の上で活用したい。

時系列の変化として大きく見て取れるのが、2018年から2019年の間である。2019年9月撮影の写真では、砂洲にそれまでになかった滑走路の基礎部分とみられる埋立地が出現した。これは国民抵抗軍がモカを含むイエメン西部を支配した時期と合致する[40]。2022年11月25日には同空港において初となる航空機が着陸した[41]。これに先立つ同年11月24日には空港建設の「第2段階」の起工式が行われていることから、およそ2018年から2022年11月までが安定した滑走路のみを建設する工期の「第1段階」であったとみられる[42]。続く第2段階では写真Bで示した管制塔や、旅客ラウンジなどの建設が行われた[43]

2023年1月25日からは工期の「第3段階」が開始されている。この第3段階は、図4-2で示した滑走路の3,000mへの拡張を指すとみられ、国民抵抗軍が報道で示したようにより多くの燃料や人員を積載した状態でも離陸できることを目指したものであろう[44]。また中東地域のような高温な環境では空気の密度が低くなるため、より長い滑走距離が必要となることも考えられる。また、第3段階の滑走路埋め立ても1月の着工から3月までの2か月でその輪郭を表している[図3参照]。このことから、約4年を要した第1段階に比べて、第2段階や第3段階の工事進度が極めて速いことも指摘できる。

時系列での概観の比較に続いて、上空画像と公開情報からモカ空港の詳細を分析する。本稿執筆時点では最新版にあたる2023年3月時点の航空写真で確認すると、滑走路とその周辺の施設から成ることが確認できた。2023年3月時点(「第1段階」工事終了)では、長さ約2,300m、幅約45mの滑走路を有する空港である。その規模から、滑走路単体で見ればジェット旅客機を運用する基準を満たしているといえる[45]。これは、航空機の離陸の滑走距離としてボーイング737など小型ジェット機は約1,800m、ボーイング767などワイドボディ機は約2,000m、ボーイング747などの大型機は3,000m程度が必要[46]ということからもわかる[47]。加えて報道ベースではあるが、赤十字が運用するエンブラエル社製のERJ-145型機(最大離陸重量で2,270 mの滑走路が必要)が本空港から離着陸した。しかし2023年3月時点での滑走路の航空写真や映像からは、航空機がオーバーランをした際に必須の設備となる「過走帯」が設置されていなかったり、「ターニングパッド」が世界的にもあまり見られない特徴を有していたりするなど、運用上疑問符が付く点が散見される[図4-1参照]。また砂州に建設されていることから、大規模な駐機場の拡張にはコストがかかると考えられる。ただし先述のターニングパッドであるが、工期の第3段階の途中とみられる滑走路南端側の延伸部分の画像(写真C)では、南端部のみ図5のような一般的な形状に施工されているのが確認でき、過走帯も僅かながら確保されている[48]。これらの措置については、2023年2月にT.サーレハが最も厳格な国際基準と仕様を遵守する必要性を強調したことに影響を受けている可能性もあろう[49]。この他に前述した2023年12月のT.サーレハの視察では、写真Aのようにほぼ完成したターミナルの様子も公開されており、支配地域の開発が進んでいる。

【図3:時系列でのモカ空港周辺開発状況】

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

(注1)撮像のチャンクによって取得時期が一致しないものがある。

(注2)画像取得日は各記載の通り。

(出所)Google Earth を基に清岡作成

【図4-1:モカ空港滑走路の詳細航空写真】

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

(出所)Google Earth を基に清岡作成

【図4-2:モカ空港滑走路の全長と全幅、および延長が見込まれる距離】

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

(出所)Google Earth を基に清岡作成

【図5:一般的なターニングパッド】

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

(出所)国際民間航空機関(ICAO)より引用

【図6:国民抵抗軍が公表したモカ空港の様子(画像A,B,C)】

国民抵抗軍:海洋面での軍事活動とモカ空港の開発

(出所)Wikāla al-Thānī min Dīsambir より引用

その他:2023年のイエメン情勢を回顧して

2023年のイエメン情勢を総括すると、内戦終結へ向けた交渉妥結の希望が幾度か持たれたものの、実現することはなかった。まず同年3月のイラン・サウディアラビア国交正常化合意が、イエメン内戦の終結に寄与すると言われた。この合意ではイランによるフーシー派への兵器供与停止が約されたとも言われるが、前述した国民抵抗軍による密輸阻止など、実際には兵器供与が続いているのではという見方が強い。翌4月には捕虜交換およびサウディアラビア代表団のサナア訪問が実現し、サウディアラビアの3段階の和平合意案が報じられた。しかし、その後水面下での接触は続いていたものの8月頃まで交渉の具体的な進展は見られなかった。また8月から9月にかけて交渉が再度前進するも、10月からフーシー派が対イスラエル軍事介入を開始し、妥結間近とみられた和平合意は年内には実現しなかった。政治的解決が近づいては遠のく、もどかしさを感じる1年であったといえよう。

大統領指導評議会については、内戦終結という文脈ではむしろ悪化した側面がある。サウディアラビアが内戦から撤退した後、フーシー派と交渉を行うのは大統領指導評議会である。その際にバーゲニング・パワーを強める上で、反フーシー派諸勢力が大統領の下で一致していることが望ましいであろう。しかし2023年5月に副大統領ファラジュ・バフサニー(Faraj al-Baḥsanī)および副大統領のアブドゥッラフマーン・ムハッラミー(‘Abd al-Raḥmān al-Muḥarramī, 通称「アブー・ザラア」)が南部移行会議副議長に指名された。南部移行会議はハドラマウト県の支配拡大を企図して、同県都ムカッラーを拠点に、同県北部のサイウーンを中心とするアリーミー政権派と勢力争いを繰り広げた。他方でアリーミー政権派は大統領直轄部隊「祖国の盾」創設や東部訪問などを通して、南部移行会議を抑制する動きを見せた。国民抵抗軍は自組織の勢力拡大・地方支配強化に邁進しており、モカ空港の一部運用開始など成果を挙げたといえる。すなわち、フーシー派との衝突が小康状態にある中、大統領指導評議会内での抗争や自組織を最優先する状態が続いた。大統領指導評議会の一体性の欠如は、反フーシー派諸勢力の致命的な問題であり、改善の兆候は見られていない。

2023年は恐らく、わが国でイエメンないしフーシー派が耳目を集めた年であった。この注目はイエメン内戦の文脈ではなく、前述した日本関連船舶拿捕事件という、イスラエル・パレスチナ情勢の文脈で起きたといえよう。しかし日本イエメン友好協会の「グローバルフェスタJAPAN 2023」出展など、それ以前からイエメンに関連した活動が多数実施され、日本のイエメン関係者にとって充実した1年であった。2024年も旺盛な情報発信・国際協力活動が期待され、研究者・実務家の垣根を超えた協働が求められるといえよう。

「イエメン情勢クォータリー」の趣旨とバックナンバー

アラビア半島南端に位置するイエメンでは、2015年3月からサウディアラビア主導の有志連合軍や有志連合軍が支援する国際承認政府と、武装組織「フーシー派」の武力紛争が続いてきた。イエメンは紅海・アデン湾の要衝バーブ・マンデブ海峡と接しており、海洋安全保障上の重要性を有している。しかしながら、イエメン内戦は「忘れられた内戦」と形容され、とりわけ日本語での情勢分析は不足している。そのため本「イエメン情勢クォータリー」シリーズを通して、イエメン情勢に関する定期的な情報発信を試みる。

◆ バックナンバー

𠮷田智聡「8年目を迎えるイエメン内戦-リヤド合意と連合抵抗軍台頭の内戦への影響-」『NIDSコメンタリー』第209号、
 防衛研究所(2022年3月15日).

———「イエメン情勢クォータリー(2023 年 1 月~3 月)-イラン・サウディアラビア国交正常化合意の焦点としてのイエメン内戦?-」『NIDSコメンタリー』第258号、防衛研究所(2023年4月20日).

———「イエメン情勢クォータリー(2023 年 4 月~6 月)-南部分離主義勢力の憤懣と「南部国民憲章」の採択-」『NIDSコメンタリー』第266号、防衛研究所(2023年7月18日).

———「イエメン情勢クォータリー(2023年7月~9月)-和平交渉の再開とマアリブ県で高まる軍事的緊張を読み解く-」『NIDSコメンタリー』第266号、防衛研究所(2023年10月19日).

Profile

  • 𠮷田 智聡
  • 理論研究部社会・経済研究室
    研究員
  • 専門分野:
    中東地域研究(湾岸諸国およびイエメンの国際関係・安全保障)、現代イエメン政治

Profile

  • 清岡 克吉
  • 理論研究部社会・経済研究室
    研究員
  • 専門分野:
    防衛産業・装備政策、技術と安全保障、軍備管理