NIDSコメンタリー 第290号 2023年12月22日 日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議——安全保障協力の方向性

地域研究部長
庄司 智孝

2023年、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力関係は50周年を迎えた。50年の間に両者の関係は発展し、成熟した。日本とASEANの人的交流は「心と心の」強固なパートナーシップを築き、インド太平洋地域の平和と安定、そして発展と繁栄に資する協力関係を築いてきた[1]

同年12月17日、日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議が東京で開催された。日本とASEANの特別首脳会議は、小泉政権下の2003年に友好協力30周年を記念して初めて開催された。その際両者は、経済開発のみならず、政治・安全保障分野でも協力を拡大することで合意した[2]。10年後の2013年に安倍政権下で行われた特別首脳会議では、両者は「平和と安定のパートナー」と規定され、海洋安全保障での協力で合意すると同時に、安倍首相の提案により、防衛担当大臣会合の開催に向け検討することとなった[3]。その後第1回防衛担当大臣会合は2014年にミャンマーで開催され、2023年の会合まで8回開催されるに至っている。

日本がASEANとの安全保障協力の強化を志向したのは、経済のみならず安全保障での協力を強化することにより、日本がASEANとより包括的な協力関係を築こうとしたことに加え、東シナ海と南シナ海での中国の海洋進出を背景に、安全保障におけるより緊密な協力関係を築こうとしたことにある[4]

特別首脳会議の開催

さて、2023年となり堅調な経済発展により国際社会におけるASEANの存在感はますます高まる一方、日本や東南アジアを含むインド太平洋地域の戦略環境はいっそう複雑化している。加えて、気候変動をはじめとするグローバルな課題への対応はますます喫緊のものとなっている。こうした困難な国際・地域情勢を背景に、3回目となる特別首脳会議が開催されたのである。

東京にはミャンマーを除くASEAN9カ国の首脳が集い、近々ASEANへの加盟が予定されている東ティモールの首相がオブザーバーとして参加した。2021年2月のクーデターによって権力を奪取した軍事政権はミャンマーを代表する正統性を認められず、代わりに東ティモールが加わることにより「ASEAN10」の体裁を保つ形となった。

今回の首脳会議で、日本とASEANは「世代を超えた心と心のパートナー」「未来の経済・社会を共創するパートナー」「平和と安定のためのパートナー」という3種類のパートナーシップを推進することで合意した。「世代を超えた~」では若い世代を中心とする人的交流を活発化させること、「未来の経済・社会~」では持続可能な経済発展に向け、環境、エネルギー、インフラ、サプライチェーンといった分野での共同の取り組みを強化することがうたわれた[5]

安全保障協力が中心となる「平和と安定のためのパートナー」においては、海洋安全保障、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)をはじめとする日ASEAN防衛協力、女性・平和・安全保障(WPS)に関する行動計画、テロや国境を越える犯罪等の非伝統的安全保障課題での協力等々で合意した[6]。安全保障協力の主眼は、法の支配に基づく自由で開かれた国際・地域秩序の維持である[7]。中国の海洋進出にどのように対応するか、米中間の戦略的競争にどう向きあうかといった具体的な課題については、日本とASEAN各国でアプローチが微妙に異なるものの、日ASEANは法の支配に基づく秩序の維持という基本原則では認識を共有していることが、今回の首脳会議でも示された。

安全保障協力の方向性

今回の特別首脳会議に先立つ2023年2月、日本ASEAN友好協力50周年に際し、今後50年の協力のあり方について政府に提言する目的をもって、有識者会議の報告書が発表された。同報告書の主要な主張の1つは、国際社会で存在感を増すASEANが、以前のように日本が片務的に支援を行う対象ではもはやなく、両者の共通課題に共に取り組むパートナーであることを強調する点にあった[8]。今後の安全保障協力には、「イコール・パートナー」の基本認識を踏まえ、「支援」から「協力」へと方針や内容をシフトさせつつ、実施していくことが求められている。主権や領土の一体性を尊重し、力による現状変更を容認しないという認識は、日本(や欧米)とASEANに共有されている。こうした共通認識を起点に、安全保障協力の推進が図られることが適切である[9]。今回の首脳会議にあたり、マレーシアとの2国間首脳会談も行われ、両国は政府安全保障能力強化支援(OSA)の枠組みに基づき警戒監視用機材を供与することで合意した[10]。ASEANが日本と海洋安全保障協力を進める動機は、自らの戦略的自律性を高めるためである。日本とASEANは、地域秩序を構築し、維持する協力を今後も推進すべきであろう[11]

今回の首脳会議では、安全保障分野を含めて130もの具体的な項目で協力することが合意され、前回に比べ項目が倍増する結果となった。これは、日本とASEANの信頼関係が長期間の協力を経て確固たるものとなり、一層多くの分野で協力することが可能になったことを示すものである。シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所による専門家対象の世論調査の結果からも明らかなように、ASEANの日本に対する信頼度はきわめて高い[12]。日本はこの信頼という「アセット」をいかに具体的な政策的成果に結びつけるかが求められているが、今回の首脳会議での合意は、この一里塚となろう。

日本もASEANも、米中の戦略的競争に影響を受けずに対外政策を実施することは難しく、むしろ大いに影響を受けている。一方そうした国際情勢を背景に、ASEANを含む「グローバルサウス」の存在感が高まっており、日本としては長年の協力関係を礎としつつ、ASEANとの独自の関係性を追求する段階にある。日本とASEANがそれぞれ、そしてインド太平洋の地域全体が大国の動向に影響を受けつつも、2者間では独自の協力のあり方を模索し、それを着実に実施して成果を積み上げることにより、それぞれの戦略的利益を増進し、かつ地域に影響を与えていこうとする姿勢が必要であろう。今回の首脳会議はそうした日本とASEANの「心意気」が感じられるものであった。

Profile

  • 庄司 智孝 Tomotaka SHOJI
  • 地域研究部長
  • 専門分野:
    東南アジアの安全保障