NIDSコメンタリー 第271号 2023年8月29日 進展する中国とロシアの軍事協力——共同軍事演習の多様化と高度化

地域研究部中国研究室 室長
飯田 将史

はじめに

ロシアがウクライナへの侵攻を開始するわずか3週間前に、中国の習近平国家主席は北京でロシアのプーチン大統領と会談を行った。この会談で習近平主席は、深刻かつ複雑に変化する国際情勢に直面するなかで、中国とロシアが「背中を合わせて戦略的協力を深化させ、肩を並べて国際的な公平と正義を守ることを固く誓っている」と指摘した上で、「これは中露両国と世界に深遠な影響を及ぼす戦略的な選択であり、過去、現在、将来において揺らぐことはない」と言明した。そして両国が共に「外部からの干渉と地域の安全保障上の脅威に有効に対応し、国際の戦略的な安定を守るべきだ」と主張した[1]。さらに両者の会談後に発表された中露共同声明では、両国が「NATOの継続的な拡大」と「アジア太平洋地域における閉鎖的な同盟システムの構築」に反対することが明記された。また共同声明は、「中露の新型国家関係は、冷戦時代の軍事・政治同盟関係モデルを超越している」と指摘するとともに、「両国の友好には限界がなく、協力にはタブーもなく、第三国と国際情勢の変化にも影響を受けない」と主張したのである[2]

このようにロシアとの戦略的な協力を極めて重視している中国は、ロシアとの軍事面での関係も強化しつつある。中国人民解放軍によるロシア軍との共同軍事演習の実施はその重要な一環である。両国軍は2003年に初めて共同演習を行ったことを契機に、二国間・多国間の共同演習を継続的に実施してきた。同時に近年では、新たな共同軍事演習や共同パトロールを開始するなど、その頻度や範囲を拡大させる傾向が見られる。ルールに基づいた既存の国際秩序に対抗する中国とロシアの軍事面での関係強化は、既存の国際秩序の維持に国益を有する各国の安全保障にとって大きな影響を及ぼし得る。中露の共同演習は地理的に東アジアで行われることが多いため、日本の安全保障にとってとりわけ懸念がもたれる状況となっている。本稿では、中国によるロシアとの共同軍事演習について経緯と現状を整理したうえで、その傾向や中国側の意図を分析する。最後に、今後の中露の共同軍事演習の方向性と、東アジアの安全保障に対する含意について検討したい。

1 平和使命(Peace Mission)共同演習

人民解放軍とロシア軍は、上海協力機構(SCO)の下でのテロ対策演習として、2003年8月に初めての共同演習を実施した。中露両国に加えてカザフスタン、キルギス、タジキスタンが参加したこの多国間演習は、カザフスタンと中国の新疆ウイグル自治区との国境付近で行われ、中国軍からは歩兵や砲兵、武装警察部隊など兵員700人ほどが参加した。

この演習を基礎にして、2005年からSCOによる対テロ共同演習として「平和使命(Peace Mission)」共同演習が定期的に開催されるようになった。初めての「平和使命」共同演習となった「平和使命2005」は、2005年8月に中国とロシアが参加してウラジオストクと山東半島で実施された。双方から戦闘機や艦艇、戦車、装甲車などが動員され、兵員9,800人が参加した。2回目となる「平和使命2007」は、ロシアのチェラビンスクで実施され、中露に加えてカザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンが参加した。中国軍からは戦闘爆撃機やヘリコプター、輸送機などが動員され、兵員1,600人ほどが参加した。その後も「平和使命」共同演習は1~2年に一回の頻度で開催されており、中露による二国間演習として行われる場合と、その他の国も参加する多国間演習として行われる場合とがある。「平和使命」共同演習は、これまでに10回実施されている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、3年ぶりの開催となった「平和使命2021」は、2021年9月にロシアのオレンブルグ州で実施された。「平和使命2021」には中露に加えてインド、カザフスタン、キルギス、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタンが参加し、ベラルーシがオブザーバー参加した。参加した兵員総数は約4,000人であり、中国からは北部戦区の部隊を中心に兵員550人余り、車両130台余りが派遣された。「平和使命2021」について中国国防部の呉謙報道官は、共同の作戦指揮センターと部隊指揮部の設置を通じて、戦略面と戦術面の双方における各部隊の共同作戦を円滑に展開できたことや、無人機による攻撃への対抗を演習項目に新たに加えたことなどを指摘した上で、「国際的なテロリズムの脅威に共同で対応する決意と能力を向上させた」と高く評価した[3]

「平和使命」共同演習の特徴としては、以下の3点を指摘できる。第1は、演習が定期的かつ継続的に実施されていることである。2005年から2021年までの16年間に10回開催されており、頻度はおよそ1年7カ月に1回となっている。第2は、開催される場所が多様なことである。主要な参加国である中国とロシアにおいてだけでなく、カザフスタン、タジキスタン、キルギスでも開催されており、中国とロシアにおいても開催場所は変化している。第3は、参加国が増加していることである。「平和使命2018」にはインドとパキスタンが初めて参加した。「平和使命2021」にはベラルーシがオブザーバー参加した。2015年7月にインドとパキスタンはSCOに正式加盟し、ベラルーシはオブザーバー加盟している。近年、SCOへの加盟を目指す国が増加しており、今後はより多くのSCO加盟国が「平和使命」共同演習に参加することが想定される。

中国が「平和使命」共同演習に積極的に参加を続ける狙いとしては、少なくとも以下の3点を指摘することができるだろう。第1は、中国が自国の安全保障上の課題としている、国際的なテロリズムに対する抑止力を高めることである。中国は中央アジア諸国におけるイスラム過激主義が新疆ウイグル自治区におけるテロリズムに影響を与えることを懸念しており、「平和使命」共同演習を通じて中央アジア地域におけるテロリズムへの抑止力を高めるとともに、人民解放軍のテロ対処能力の強化も図っていると考えられる[4]。第2は、ロシアや中央アジア諸国の演習場へ部隊を展開させることで、人民解放軍の戦力投射能力の強化につなげることである。中国の部隊は車両による輸送だけでなく、鉄道や航空機も利用し開催国まで輸送されており、とりわけ「区域防衛型から全域作戦型への転換」[5]を目指す陸軍にとって、遠方への機動展開能力を強化する機会を提供しているといえるだろう。第3は、中央アジア諸国における中国に対する評価を高めることである。中央アジア諸国にとって大きな課題となっているテロリズムへの対抗において中国が役割を果たす姿勢を示すことで、中国と中央アジア諸国の関係の強化が期待されているのである[6]

2 海上連合(Joint Sea)共同演習

中国海軍とロシア海軍は2012年4月に、海上における共同防衛と海上交通路の共同護衛作戦をテーマとした初めての共同軍事演習を、「海上連合2012」として山東省青島沖の黄海において実施した。中国側は、北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊から駆逐艦、フリゲート、補給艦、病院船など艦艇16隻、通常動力型潜水艦2隻、航空機13機、ヘリコプター5機を動員し、参加兵員は約4,000人に上った。ロシア側は、巡洋艦、駆逐艦、補給艦など水上艦艇7隻、ヘリコプター4機を動員し、およそ6,000人の兵員が参加した。6日間にわたって行われた「海上連合2012」では、中露両国の海軍による共同の船舶護衛、防空戦、対潜水艦戦、犯罪者制圧、捜索救難などの項目と対海上、対水中、対空中の実弾射撃訓練が行われた[7]。「海上連合2012」の中国側の統裁官を務めた海軍副司令員の丁一平中将によれば、演習の目的は①中露の全面的戦略協力パートナーシップを発展させること、②両国海軍間の実務協力を深化させること、③両国海軍が海上における共同軍事行動によって安全保障上の脅威と挑戦に対応する能力を高めること、④地域の海上の平和と安定を守る両国海軍の自信を強化することだとされた[8]

その後、「海上連合」共同演習は2018年と2020年を除いて毎年開催されている。開催される海域は多様であり、「海上連合2013」はウラジオストク沖の日本海、「海上連合2014」は上海沖の東シナ海、「海上連合2015(前段)」は地中海・黒海、「海上連合2015(後段)」は日本海、「海上連合2016」は南シナ海、「海上連合2017(前段)」はバルト海、「海上連合2017(後段)」は日本海・オホーツク海、「海上連合2019」は黄海、「海上連合2021」は日本海、「海上連合2022」は東シナ海で行われた。開催海域は中国および極東ロシアの近海が多いものの、地中海やバルト海などヨーロッパ正面に中国の艦艇が進出して行われている点が注目される。

「海上連合」共同演習の内容には多様化と高度化の傾向が見られる。11回目の「海上連合」共同演習となった「海上連合2022」は、2022年12月に東シナ海で行われた。中国側は、東部戦区と北部戦区の海軍から駆逐艦、フリゲート、補給艦など水上艦艇6隻に加えて、潜水艦、早期警戒機、対潜哨戒機、艦載ヘリコプターなどが参加した。ロシア側は、巡洋艦や駆逐艦など水上艦艇4隻が参加した。この演習では、ある地域で軍事的な緊張が発生した状況の想定の下で、中露海軍が共同で混成部隊を編成して、海空戦力による援護の下で共同の海上行動を展開することにより、地域の平和と安定を守ることを目標として、共同の封鎖作戦、臨検・拿捕、共同の防空戦、対潜水艦戦、捜索救援といった多様な科目を訓練したとされる[9]。また、中露の艦艇は事前に演習海域に集結したり、港湾での事前協議などを経ずに、それぞれ演習海域に本国より直接到着し、即時に訓練を開始する方式を採ったという[10]。「海上連合」共同演習には、両国海軍による共同作戦内容の烈度が高まり、即応性が向上するといった注目すべき進展が見られる。

「海上連合」共同演習における中国側の狙いとしては、第1に中国近海から遠く離れた遠海において実戦的な訓練を行う機会を得ることであろう。地中海で行われた「海上連合2015(前段)」においては安全航行、洋上補給、護衛任務、実弾訓練などの演習が行われ、中国側は自国から遠く離れた海域における作戦遂行の経験を得ることができた[11]。第2は、演習の実施を通じて、それぞれの重要な利益に関して相互に支持する姿勢を国際的に顕示することである。「海上連合2016」は2016年9月に南シナ海で実施されたが、同年7月には国際仲裁裁判所から南シナ海で中国が主張する権利を否定する判断が示されており、この判断に反対する中露の協調を示すことが目的とされていたといえるだろう[12]。「海上連合2017(前段)」で、ロシアが欧米諸国との摩擦を強めているバルト海で中露が共同演習を実施したことも、中国がロシアとの協調関係を顕示することを目的の一つとしていたといえよう[13]

3 戦略的軍事演習への相互参加

2005年からの「平和使命」共同演習、2012年からの「海上連合」共同演習を定期的に実施することで協力関係を次第に深化させてきた人民解放軍とロシア軍は、2018年にさらなる関係の強化に向けた大きな一歩を踏み出した。同年9月にロシアが実施した戦略演習「ヴォストーク2018」に人民解放軍が初めて参加したのである。ロシア軍は、大規模かつ烈度の高い戦争への対応を想定した戦略的な軍事演習を毎年実施しており、実施場所を4つの軍管区での持ち回りとし、それぞれ「ヴォストーク(東)」(東部軍管区)、「ツェントル(中央)」(中央軍管区)、「カフカス(コーカサス)」(南部軍管区)、「ザーパド(西)」(西部軍管区)と呼称している[14]。この戦略演習には、それまで集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟しているロシアの同盟諸国が参加してきたが、「ヴォストーク2018」にはロシアと同盟関係にはない中国が参加したのである。

中国は「ヴォストーク2018」に東部戦区、中部戦区、海軍北海艦隊を中心に兵員およそ3,200人、各種車両およそ1,000台、固定翼機とヘリコプター合計30機を参加させた。参加した兵員と装備品は、14日間をかけて鉄路と空路によって演習場まで輸送された。人民解放軍が国外において行われる軍事演習に派遣する兵員・装備の規模としては、史上最大になったとされる[15]。演習の内容は、「平和使命」共同演習が主たる項目としてきた対テロ演習に加えて、共同の防衛や反撃といった伝統的な項目も含まれる形に拡大し、「平和使命」共同演習に比較して「演習のレベルがさらに高く、規模がさらに大きく、要素がさらに揃い、共同性がさらに高く、中露双方の政治的・戦略的な相互信頼と軍事的な協力水準が歴史的に新たな高みに達したことを示している」と評価された[16]。演習2日目には、前日にウラジオストクで習近平主席と会談したばかりのプーチン大統領が視察に訪れ、中国の魏鳳和国防部長と共に閲兵を行った。魏鳳和部長は挨拶で「今回の演習は、共同で地域の平和と安全を全力で守る中露の決意と自信を体現し、様々な安全保障上の脅威に対応する両軍の能力を向上させた」と指摘した[17]。従来の「ヴォストーク」演習における仮想敵の一つが中国とされていたことから見れば、中国軍による「ヴォストーク2018」への参加は、中国がロシアにとって「友軍」になったともいえるものであり[18]、中露両国と両軍の関係が飛躍的に強化されたことを示していると評価できよう。

その後、人民解放軍は「ツェントル2019」、「カフカス2020」とロシアの戦略演習に引き続き参加したが、2021年には新たな展開が見られた。ロシア軍が行った「ザーパド2021」に人民解放軍は参加せず、人民解放軍が行った戦略演習である「西部・連合2021」に、ロシア軍が初めて参加したのである。両軍から合わせて1万人余りの兵員が参加し、多様な航空機や火砲、装甲車などが動員され、寧夏回族自治区の青銅峡訓練基地で実施された「西部・連合2021」では、両軍の部隊からなる混成部隊が編成されるとともに、両軍が同じ指揮統制システムを通じて部隊を指揮するなど、従来のレベルを大きく上回る共同運用を実現したという。また、ロシア軍部隊は中国陸軍の武器や装備も使用しつつ、中国側が企画立案した作戦計画の下で、偵察・早期警戒、電子・情報攻撃、打撃・殲滅などの能力を共同で強化したとされる[19]。中国国防大学の姚磊らによれば、「西部・連合2021」では中国側が主導的な役割を果たしたことにより、中露の共同が表面的なものから深く融合したものへと変化すると同時に、演習の内容が戦場における情報や電磁のコントロールといったレベルにまで達したことにより、「中露両軍の戦略的な信頼と深い共同が新たな水準に達した」と評価されるのである[20]

2022年2月24日に、ロシア軍はウクライナへの大規模な侵略を開始したが、その際にウクライナに面した西部軍管区とベラルーシからウクライナへ進軍した部隊の多くは、「ザーパド2021」に参加するために動員され、演習後も展開を続けていたものであった[21]。ウクライナに侵攻したロシアに対する国際的な批判が高まり、西側諸国を中心にロシアに対する制裁が強化される中で、ロシア軍は同年8月末から「ヴォストーク2022」を実施した。この演習に中国は、ベラルーシやインドなどと共に参加した。ロシア軍による「ヴォストーク2022」への参加兵員数は5万人程度であり、30万人程度に達した前回の「ヴォストーク2018」に比べて大幅に縮小したが、人民解放軍は兵員2,000人余り、車両300台余り、固定翼機とヘリコプター合計21機に加えて艦艇3隻を参加させた[22]。ロシアが戦略演習を口実にウクライナへの侵攻兵力を動員したことや、ロシア軍による侵略と非人道的行為などが国際的に強く非難されていることから判断すれば、人民解放軍が「ヴォストーク2022」に参加したことは、ウクライナ戦争に拘わらずロシア軍との関係の強化を推進するという中国の明確な意思を示したものといえるだろう。人民解放軍は従来と同等規模の戦力を「ヴォストーク2022」に参加させただけでなく、ロシアの戦略演習に初めて海軍艦艇も参加させた。中国海軍の艦艇3隻は、ロシア海軍の艦艇3隻と共に日本海で実弾射撃を伴う訓練や、共同で宗谷海峡を東進してオホーツク海に展開する航行などを行った[23]

人民解放軍がロシアとの戦略演習への相互参加を進める狙いとしては、少なくとも次の2点を挙げることができるだろう。第1は、軍の統合的な指揮と運用において多くの経験を有しているロシア軍との共同演習のレベルを上げることで、自らが進めている国防・軍隊改革の課題である統合運用能力の強化に役立てることである。ロシア軍は軍管区への指揮権限の委譲や、大隊を中心とした部隊運用などの軍改革を2000年代末ごろから推進しており、また南オセチア紛争やシリア紛争などでの実戦経験も豊富である。2015年末から国防・軍隊改革を進めている人民解放軍にとって、ロシア軍の改革から学べる点は多いだろう。「ヴォストーク2018」に参加した人民解放軍部隊の指揮官である邵元明・統合参謀部副参謀長は、「ロシア軍は実戦経験が豊富であり、作戦能力も高いため、ロシア軍の作戦と訓練における有益な経験は我々が参考として学ぶに値する」と率直に指摘していた[24]。第2は、高まる米国との戦略的競争に対応するために、軍事面を含めたロシアとの戦略的な協力関係を一段と強化することである。中国にとってみれば、「ヴォストーク」演習に参加することでロシアとの相互不信感の払しょくを図るとともに、「ツェントル」「カフカス」「ザーパド」に参加することで米国やその同盟諸国などに対して中露の結束を誇示することが可能となる[25]。中国が開催した「西部・連合2021」で、ロシア軍に中国の武器や装備を使用させたことにも、ロシア軍との信頼関係を強化する人民解放軍の狙いがあるといえるだろう。

4 共同パトロールの実施

人民解放軍とロシア軍は、「平和使命」に始まって「海上連合」、戦略演習への相互参加と共同演習を質と量の双方で強化してきた。さらに両国軍は2019年7月に、新たな共同行動を開始した。7月23日に、中国軍のH-6爆撃機2機と、ロシア軍のTU-95爆撃機2機が、日本海から対馬海峡を経て東シナ海に至る空域を共同で飛行したのである。また同時に、ロシア軍のA-50早期警戒管制機が竹島の日本領空を侵犯する飛行も行った[26]。この空域で初めて行われた中露の爆撃機による共同飛行について、中国国防部の任国強報道官は記者会見でその実施を確認したうえで、中露両国の空軍が初めてとなる「共同空中戦略パトロール(聯合空中戦略巡航)」を行ったと主張した。そして、今回の共同空中戦略パトロールが「両国軍の戦略的協力の水準と共同行動能力を高め、両国軍の戦略的信頼をさらに深め、様々な安全保障上の脅威に対して両国軍が共同で対応する能力を強めた」との認識を示したのである[27]

その後、人民解放軍とロシア軍は、それぞれの爆撃機による共同戦略パトロールを繰り返すようになった。これまでに2020年12月22日、21年11月19日、22年5月24日、22年11月30日、23年6月6~7日に中露の爆撃機が日本周辺での共同飛行を行っている。20年12月の共同飛行では、中国軍のH-6爆撃機4機と、ロシア軍のTU-95爆撃機2機が参加した。21年11月の共同飛行では、H-6爆撃機2機とTU-95爆撃機2機が参加し、日本海と東シナ海に加えて、沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋まで展開した。22年5月の共同飛行では、H-6爆撃機4機とTU-95爆撃機2機が参加し、日本海と東シナ海を飛行したのちに太平洋へ長距離の飛行を行った。22年11月の共同飛行では、H-6爆撃機2機とTU-95爆撃機2機が日本海から東シナ海、太平洋にかけて長距離飛行するとともに、中国のJ-16戦闘機2機がその護衛についた。また、護衛任務を行ったJ-16に対してH-20空中給油機が給油を行ったと報じられている[28]。さらに中露の爆撃機はそれぞれ相手国の飛行場に着陸したとも報じられており[29]、両国軍による共同空中戦略パトロールの内容には着実な深化が見て取れる[30]。23年6月6日には、中国のH-6K爆撃機2機とロシアのTU-95爆撃機2機が、東シナ海から日本海にかけて共同飛行した。翌6月7日に行われた共同飛行では、中国軍のH-6K爆撃機2機とロシア軍のTU-95爆撃機2機がともに中国本土から東シナ海を経て太平洋へ進出し、再び東シナ海へ至ったのちに、中国機は中国方面へ、ロシア機は対馬海峡を経て日本海へ向けて飛行した。その間、東シナ海上空では計15機の中国戦闘機も飛行した[31]。中国側は、中露による共同パトロールは定例化されたと主張しており、中露の爆撃機による共同飛行は今後も継続され、頻度が増していくことも想定されよう。

爆撃機による共同飛行だけでなく、海上においても人民解放軍とロシア軍の共同行動が新たにみられるようになった。先述したように、2021年10月に中国とロシアの海軍は「海上連合2021」を日本海において実施した。この演習が終了したのち、中国の艦艇5隻とロシアの艦艇5隻が共に、日本海から津軽海峡を通過して西太平洋へと進出した。その後、両海軍の艦隊は様々な訓練を行いながら太平洋を南下して伊豆諸島近海まで到達し、さらに大隅海峡を通過して東シナ海へと航行した。中露の海軍艦艇は、日本の周辺海域を半周するような共同航行を行ったのである。この航行について『解放軍報』は、中露海軍が初めての「海上共同パトロール(海上聯合巡航)」を行ったとし、その目的を両国の全面的戦略協力パートナーシップを強化し、両国海軍の共同行動能力を高めて、国際と地域の戦略的安定を守ることだと主張した[32]

中露の海軍艦艇による日本周辺海域での共同航行は、その後も継続されている。2022年6月半ばから7月初めにかけて、中国の艦艇とロシアの艦艇が、北海道周辺海域から太平洋を経て、南西諸島を通過して東シナ海に至る航行を行った。明確な共同の航行ではなかったが、ほぼ同時期に同方向へ航行しており、7月4日には尖閣諸島の日本の接続水域にロシアの艦艇と中国の艦艇が相次いで入域する航行を行った[33]。さらに同年9月には、先述した「ヴォストーク2022」に参加した中国海軍の艦艇3隻とロシア海軍の艦艇が、それぞれ日本海から宗谷海峡を経て太平洋へ進出し、伊豆諸島の間を通過して西進したのち、9月28日から29日にかけて大隅海峡を共同で航行して東シナ海へと展開した。この共同航行についてロシア国防相は「共同哨戒」を行っていると公表したが[34]、中国側は公式にコメントを発表することはなかった。中国がこの共同航行を「海上共同パトロール」として喧伝しなかった理由は不明であるが、中露海軍艦艇による日本周辺海域での連携行動が増加傾向にあることは明らかである。

2023年7月20日から23日にかけて、中国軍の北部戦区が日本海において「北部・連合2023」演習を実施し、ロシア海軍もこれに参加した。この演習には中露双方から10隻余りの艦船と30機余りの航空機が参加し、共同の指揮の下で対潜水艦戦や対空戦などの訓練を行った。その後、中国の艦船5隻とロシアの艦船5隻が宗谷海峡を通過してオホーツク海へ進出した。この両国艦艇の航行について中国国防部は、両国海軍の艦船が「太平洋西部と北部の関連海域において海上共同パトロールを実施する」と説明した[35]。国防部はこの海上共同パトロールを「3回目」としており、2022年9月の中露海軍による共同航行が2回目の海上共同パトロールだったことを間接的に確認したものといえるだろう。その後、中国の情報収集艦1隻を加えた11隻からなる中露艦船の編隊はベーリング海に進出し、アラスカ沖の海域で対潜水艦戦などの訓練を実施したとみられる[36]。さらに、中露艦船の編隊は日本周辺の太平洋を南下し、南大東島の南方を西進して、沖縄本島と宮古島の間を抜けて東シナ海へと至った[37]

人民解放軍がロシア軍と空中と海上での共同パトロールを推進する狙いは、両国軍の関係をさらに強化するとともに、ルールに基づく既存の国際秩序を維持するために協力関係を強化している日本と米国をけん制することにあるだろう。中露が3回目の共同空中戦略パトロールを行った直後の2021年11月23日に行われた、魏鳳和国防部長とロシアのショイグ国防相との会談では、両国が共同演習で挙げた成果が高く評価された。さらに両者は、中露両軍が戦略的演習と共同パトロールにおける協力を引き続き強化して、両国の核心的利益を守っていく方針で一致した[38]。中露が4回目の共同空中戦略パトロールを実施した2022年5月24日には、日本、米国、オーストラリア、インドからなるQUADの首脳会議が初めて東京で開催されていた。中露による共同パトロールの実施は、QUADを推進する日米に対して強い警告を発する目的があったと見ていいだろう。

5 今後の展望と東アジアの安全保障への含意

2003年のテロ対策を目的とした二国間共同演習に始まり、2005年以降のSCOの枠組みでの「平和使命」を中心としたロシアとの共同演習を推進した中国側の期待は、ロシアおよび中央アジア諸国との国境地帯におけるテロリズムを抑止すると同時に、陸上国境を接する軍事大国であるロシアとの相互理解と相互信頼を深めることで安定した関係を構築することにあったといえるだろう。「平和使命」を通じて醸成された中露両軍間の信頼が、海上における共同演習「海上連合」の開始にもつながったと思われる。ところが2000年代後半に入ると、中露の共同軍事演習にみられたテロ対策や相互の信頼醸成といったいわば「内向きの性質」が、中露にとって共通の課題となった米国に対して共同で対抗する姿勢を顕示する「外向きの性質」へと変化を見せるようになった。こうした変化を可能にした重要な要因は、共同軍事演習の積み重ねによって醸成されてきた中露両軍間の信頼関係であろう。人民解放軍とロシア軍が戦略的演習に相互に参加するようになったことは、中露の安全保障面での相互信頼が極めて高いレベルにまで達したことの証左である。

中国は2014年から南シナ海の軍事化を進め、ロシアは2014年にクリミアを併合するなど、中露両国は2010年代半ばごろより、米国や西側諸国との関係を悪化させてきた。中露の相互信頼がかつてなく高まる一方で、中露が共に米国との対立を強める状況は、中露の共同軍事演習に、米国に共同で対抗するというメッセージを発する新たな役割を与えることになった。その最たる実例が、2019年以降繰り返されている中露による共同パトロールである。中国が米国との間で大国間競争に突入し、ロシアがウクライナ戦争で欧米との対立を決定的にする中で、今後は中露が米国や西側諸国への対抗を目指して、共同軍事演習と共同行動をさらに拡大していくことが想定される。一例としては、中露の共同軍事演習への参加国を拡大することで、米国などへの対抗姿勢を強化することが挙げられよう。2019年11月に、中国、ロシア、南アフリカ海軍は、ケープタウン沖で初めてとなる共同軍事演習を行った[39]。これら三か国は、2023年2月にも海軍による共同演習を実施している。また、中国、ロシア、イラン海軍も、2019年12月にオマーン湾で多国間共同演習を実施した。その後も三か国海軍は22年1月、同年9月に共同演習を実施している。今後はSCOとBRICSのメンバー国を中心に、中露とともに共同演習に参加する国が増加する可能性もあるだろう。

すでに指摘したように、中国がロシアとの共同軍事演習を通じて、自らの能力の向上を目指していることは明らかである。1979年の中越戦争以来、40年以上にわたって本格的な実戦経験のない人民解放軍にとって、統合的な作戦を戦場で実践してきたロシア軍から学べる点は多いだろう。ロシアの西部や中央アジア、欧州の海域などで行われる共同軍事演習に参加することは、人民解放軍の戦力投射能力を強化し確認するうえでも有用である。中国は、自らの軍事的能力を強化することを目指して、ロシアとの共同軍事演習の内容をさらに拡大していくことが想定される。例えば中露は2016年5月に、コンピューターシミュレーションによるミサイル防衛に関する共同演習を実施した。この演習は、防空およびミサイル防衛における中露の相互運用性の向上を目的とし、ミサイル発射に関する早期警戒システムやミサイルに関するものなど、機微な情報も両国間で共有されたとみられる[40]。中露両国は2017年12月にも同様のミサイル防衛共同演習を実施した。その後、ミサイル防衛に関する中露の共同演習について公式な発表はないが、中国はミサイル防衛能力の開発を進展させていることもあり、ロシアとのミサイル防衛に関する共同演習が今後も実施される可能性は高いと思われる。また、人民解放軍が重点的に強化を図っている宇宙やサイバー、電磁波といった新領域を既存の共同軍事演習に取り入れたり、こうした能力の強化を目指した新たな共同軍事演習を開始することなども想定される。

中国によるロシアとの共同軍事演習に関するこれまでの議論から明らかなように、中国はロシアとの間の安全保障上の相互不信を乗り越えて、米国をはじめとした西側諸国に対抗するうえで安全保障上の利益を共有するパートナーとしてロシアとの関係を強化している。中露と西側諸国との関係改善が実現しない限り、中露の共同軍事演習は質と量の双方で今後も強化されることになるだろう。ウクライナ戦争においてロシア軍の能力不足が露呈したことで、人民解放軍がロシア軍との共同軍事演習への関心を低下させるとの見方もあろう。他方で、西側諸国から提供された先進的な兵器を使用するウクライナ軍と戦っているロシア軍から、人民解放軍が学べる教訓も多いものと考えられる。中国にとってロシアとの共同軍事演習は、戦略的にも戦術的にも重要であり、今後も強化されることになるだろう。

中露による共同軍事演習の拡大は、日本を含む東アジアの安全保障環境を悪化させることになるだろう。ルールに基づく既存の国際秩序に対して、力によってこれを変更しようとする現状変更勢力の中国とロシアが、共同軍事演習を通じて軍事的な連携を強化することは、米国や日本など既存秩序の維持を目指す国々に対して挑戦的な行動をとることにつながりかねない。中露による共同軍事演習は、正式な軍事同盟を宣言せずに、両国間の防衛関係を制度化する手段であるとの指摘もあり[41]、今後は中露が連携して現状変更に向けた日本や米国などへの軍事的な圧力を強化してくる可能性も十分に考えられる。こうした状況の中でも東アジアの安定を維持するためには、日本は米国やオーストラリア、インド、韓国などの国々に加えて、東南アジアの有志国やヨーロッパのパートナー諸国などとも東アジアにおける共同演習を積極的に実施していく必要があるだろう。既存の国際秩序の維持で利益を共有する多くの国々と共同演習を行うことを通じて、力による現状変更を容認しない現状維持勢力の意思と能力を中露に示すことが、抑止を通じた地域秩序の安定につながるものと思われる。

Profile

  • 飯田 将史
  • 地域研究部中国研究室 室長
  • 専門分野:
    中国の外交・安全保障、東アジアの国際関係