関東大震災100年
―関東大震災に関する旧日本陸海軍の史料―

 令和5(2023)年は、関東大震災から100年の節目にあたります。
 本デジタル史料展示では、防衛研究所戦史研究センター史料室が所蔵する、関東大震災に関する日本陸海軍の史料を展示し、関東大震災の被害や軍隊の対応、復興について紹介します。

1.関東大震災の被害

 大正12年9月1日午前11時58分、相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9の地震が発生しました。多くの民家で昼食の支度をしていたことから、多数の火災が起こります。火災は大規模化し、多くの人命が失われました。
 関東大震災は、火災だけではなく、一部地域に津波ももたらしました。また、多くの地域で地盤の隆起や沈下が確認されています。

【史料①】「東京市付近火災地域及罹災民集団地要図 9月5日夜までの状況」
 本史料は、火災地域と罹災民の集団地を記した図です。主として皇居東側の広範囲が火災被害に遭っていたとわかります。

史料①

【史料②】「東京近県震害情況概見図 9月11日迄に判明したる」
 本史料は、東京近県の都市における被害状況や道路破壊地点、そして「海嘯」(=津波)の被害地域を示した図です。葉山から鎌倉までの沿岸地帯は、津波の被害を受けていたとわかります。

史料②

【史料③】「震災写真」
 本史料は、横須賀海軍航空隊が撮影した航空写真です。
横須賀海軍航空隊は、9月9日、伊豆半島および三浦半島の沿岸と館山湾を空中から撮影しました。津波は、葉山から鎌倉までの沿岸地域だけではなく、伊東市や熱海市の沿岸にもおしよせていたとわかります(赤枠部分「伊東(一) 海嘯ノ為、海岸一帯ノ人家浸ハル」「海嘯ノ為、海岸一帯浸ハレタルモ伊東ニ比シ被害少シ」)。

史料③-1
史料③-2
史料③-3
史料③-4

【史料④】「震災地付近地形及水深変化調査図」
 本史料は、震災地付近の地形と水深に関する調査図です。房総半島や三浦半島における沿岸の地盤が隆起した一方、伊豆半島の東海岸の地盤は沈下したとわかります。

史料④

2.軍隊の対応

 陸軍は、地震発生から2日後の9月3日、「関東戒厳司令部」を設置します。
 戦前の日本には、「戒厳令」という法律が存在しました。「戒厳令」は、戦時もしくは天災その他の変事に際し、軍隊によって全国あるいは一地方を警戒する権限等が定められた法律です。
 「関東戒厳司令部」は、この「戒厳令」の一部規定に基づき、設置された陸軍の臨時司令部でした。東京とその近県に所在する陸軍部隊は、関東戒厳司令官による指揮の下、治安維持や罹災民の救護活動に尽力します。
 「関東戒厳司令部」は、民心の安定と警察機能の回復に伴い、部隊を撤収し、11月15日、廃止されました。

【史料⑤】「関東戒厳司令部職員表」
 本史料は、「関東戒厳司令部」の職員表です。司令官は、陸軍大将の福田雅太郎、参謀長は、のちに首相となる阿部信行です。参謀部警備課には、のち石原莞爾とともに満州事変を起こす、板垣征四郎の名前が確認できます。

史料⑤

【史料⑥】関東戒厳地域内警備部隊配置要図
 警備部隊は、関東戒厳司令官による指揮の下、東京・千葉・神奈川・埼玉の各方面に配置されます。警備部隊の任務は、それぞれの担任管区内における治安維持と罹災民の救助活動でした。
 本史料は、9月17日現在の各警備部隊の配置図です。各警備部隊の配置は、東京と埼玉がそれぞれ北部・南部に、千葉が市川・船橋・佐倉などに、神奈川が横須賀・藤沢・小田原に分かれていたとわかります。

史料⑥

【史料⑦】「戒厳地域内警備兵力並警察官増減一覧表」
 本史料は、10月下旬に「関東戒厳司令部」が作成した、警備兵力数と警察官の人数の増減に関する一覧表です。警備兵力数は、9月中旬の4万9000人を頂点に、9月下旬以降、徐々に警察官と入れ替わって減少し、10月中旬以降は警察官が治安維持の主体となったとわかります。「関東戒厳司令部」は、11月15日に廃止されました。

史料⑦

3.復興

 かつて築地は、海軍の施設が多数立ち並ぶ地区でした。関東大震災による火災は、築地の海軍施設群にまで及び、大部分が消失します。消失した施設の機能は、各地に移転しました。これら施設の跡地は、「東京市中央卸売市場」として活用されます。

【史料⑧】「東京市中央卸売市場 築地本場 現存並残骸建物関係図」
 本史料は、旧海軍施設と拡張予定の「東京市中央卸売市場」との配置関係を示した図面です。「東京市中央卸売市場」(白抜きの実線部分)は、海軍施設の跡地を利用し、仮設の施設(オレンジ色)から大幅に拡張されたことがわかります。

史料⑧
【史料①~⑧】の簿冊名と登録番号の一覧

・【史料①、②、⑤、⑥、⑦】
『大正12年 公文備考 火災付属 巻1』(海軍省公文備考、T12-169-3052)
・【史料③】
『大正12年 公文備考 巻158』(海軍省公文備考、T12-160-3043)
・【史料④】
『大正11年 大正15年 官房雑 綴』(①中央、その他、106)
・【史料⑧】
『昭和2年8月27日 昭和4年7月16日 震災復旧用地関係綴 2/3』(①中央、全般、198)