NIDSコメンタリー 第454号 2026年9月15日 戦時下における生産基盤の適応(前編)——ウクライナにおけるドローン・エコシステムの形成と変化
- 政策研究部グローバル安全保障研究室長
- 富川 英生
はじめに
ロシアによるウクライナへの全面侵攻以降、両国間で加速する無人航空機(ドローン1)に関する技術、戦術の進歩の速さに注目が集まっている。戦場で得られたニーズや教訓が生産組織へ速やかに伝達されて次の開発・改良に新たなソリューションが反映される。この迅速で柔軟なフィードバック・ループがドローン戦争におけるイノベーション2を加速させていると考えられ、各国では調達の仕組みや産業構造のあり方を再考する契機となっている。本稿では、「戦時下における生産基盤の適応」を考察する上で、ウクライナのドローン・エコシステムの発展に着目し、その形成と変化のプロセスについて時期を区分して概観する3。
ボランティア組織による「ガレージ」ドローンの生産と関連ソフトウェアの開発
―ロシアによる東部侵攻への反応(2014~2022年)
2010年代、ウクライナは西側IT産業のオフショアセンターとして注目され、人材が育っていた4。2014年のロシアによるクリミア及びウクライナ東部地域への侵略が始まると、ドローン愛好家やIT技術者らからなる民間ボランティア組織が装備面、技術面で劣勢に立つ自国側部隊を支援するべく、偵察用ドローンの開発を自主的に開始した5。ただし初期に開発されたドローンは庭先の「ガレージ」で作れるような、手に入る限られた材料を使ったシンプルな構造なものであった。また政府による調達の規模も小さく、その利益率にも制限があったことから、当時創設された50に満たないメーカーのうち現在も活動を続けているものは10%以下とされる6。
関連ソフトウェアについても、後述する情報共有プラットフォームの「Delta」を含め、その萌芽は民間ボランティア組織による自主的な開発に遡る7。これらは後にウクライナ軍によるドローン戦術において技術的、戦術的な洗練性を発揮するための基盤となった。
クラウドファンディングによる輸入(小型市販ドローン・MALE型)と代理供給
―全面侵攻初期(2022年2月~)の緊急避難的対応
2022年2月にロシアによる全面侵攻が開始された当初、西側諸国は携行式対戦車ミサイルFGM148「ジャベリン」等武器の供与を直ちに開始した8。そして同年後半から米国が「ハイマース(HIMARS)」用砲弾の供与、年末には迎撃ミサイル・システム「パトリオット」の供与を決定するなど軍事支援が強化され9、ウクライナはロシアによる進撃の第一波を凌ぐ事に成功した。この際、ウクライナ側は戦闘機等の航空戦力は限定的であったが、一方で防空システムを生残させる事に成功した10。このため、両国ともに戦線において十分な航空優勢を確保できない状況となり、その後は敵の浸透に対するドローンによる偵察と砲撃の連携による航空阻止(DAI)が重要な役割を果たすこととなった11。
当時のウクライナ政府と支援国は軍の態勢立て直しを進めるべく、火砲や砲弾、装甲車両など従来型の装備の調達に集中していた12。このため、ドローンの調達は「Come Back Alive」などの慈善団体・ボランティアらが主導することとなる。彼らは中国製のDJI「マヴィック(Mavic)」といった安価な小型市販ドローンの輸入だけではなく、既に高い評価を受けていたトルコ製のバイカル「バイラクタル(Bayraktar)TB-2」といった高価なMALE型13ドローンの輸入も試みた。また2021年に制式化されていた固定翼型の国産ドローンLeleka-100「ストーク(Stork)」などを購入し部隊に提供する事で、黎明期の国内生産基盤の形成に貢献した14。
2022年5月に入ると大統領主導の下、海外を含めて幅広く支援を募る事を目的としたポータルサイト「United 24」が開設された15。この枠組みの中では「Army of Drones」というプログラムが立ち上げられ、軍からの要請に基づいてドローンの調達・供給が行われたり、またドローン操縦者養成コースが運営されるなど、機能的で体系化された支援メカニズムが形成された16。
参入促進政策に伴う供給拡大とニーズの多様化(汎用・低コスト・FPV化)
―戦線の膠着と消耗戦への移行に即した改革(2022年後半~)
ウクライナは、2022年8月末より南部ヘルソン州で、9月上旬からは東部ハルキウ州で反攻を開始し年末までにロシア軍を大きく後退させることに成功した。しかし2023年6月から試みられた東部ドネツク州や南部ザポリージャ州等での大規模な「反転攻勢」は、ロシア側の強固な防衛陣地と人海戦術に阻まれ、戦線は膠着し、消耗戦に移行した17。
このような戦局の変化の中でドローンの役割や運用方針も変化していった。損耗リスクが高まったことで、比較的高価なMALE型ドローンは後方に下がり、前線での偵察の主力はより量産性・代替性を重視したドローンに置き換わった18。また攻撃面ではロシアが兵站拠点をより後方に下げ部隊を分散化させたこと、火砲・ミサイルの備蓄状況がタイトであったこと等の理由から、様々なアタッチメントを取り付けて迫撃弾等を投下できる汎用的なドローンや低コストのFPVドローンの使用が進んだ19。
ドローンによる航空監視、攻撃を避けるべく両軍とも小規模の編成で前線への進出を試みるようになった。このため2023年頃からは一人称視点(FPV)ドローンが本格的に実戦投入され20、進軍を試みる移動車両を個別に阻止し、10キロ以上先の目標も正確に攻撃することができた21。並行して、ドローンの無線操縦を妨害する電子戦能力と、その対抗技術が急速に発展した。そして2024年頃には敵の電子防護を回避するための自動追尾機能や光ファイバーの利用など前線でのニーズを踏まえた漸進的なソリューションが実装され、多種多様な仕様のドローンが投入される事となった22。
このようなドローンの供給体制は調達制度改革によって促進された。それまで国防調達の9割以上を占めた機密調達では、登録された特定業者がコストプラス方式での納入と利益率の上限規制いう契約慣行がとられていた23。しかし2022年末にデジタル変革省が中心となって調達改革が実施され、利益率制限の緩和等により新規業者の参入が促進された24。その結果、2023年7月時点で一方向攻撃型やFPV型を含む全28機種のドローンが運用されるようになり、またプロトタイプの導入にかかる期間も数か月から数週間に短縮されたという25。
軍需品の調達についてはその後も不透明性と非効率性に対して改革を求める声が続き26、2024年2月には国防調達庁においても基本的にデジタル調達プラットフォーム「プロゾロ(ProZorro)」を利用する事が義務付けられた27。この結果、全ての国内メーカーに対して契約の機会が開かれ、また登録手続き等も簡素化されたことでドローンの生産は急拡大した28。2022年の年間生産数は数千台であったものが、2023年は約30万機、そして2024年は第3四半期までに約120万機以上を調達し、生産能力は400万機に達したと報じられた29。企業数も2022年時点では数十社に過ぎなかったが、2024年にはFPVドローン・メーカー100社を含む200社以上へと急拡大した30。
このように多くのメーカーが別個に生産・開発を担う産業構造は同一機種の生産規模の急拡大には不向きだが、現場のニーズに沿ったカスタム化された製品の生産・開発には適していた31。加えて、分散化したサプライチェーンは、ロシアによる単一供給点への攻撃によって国内の生産活動が全面的に停止するリスクを避ける事ができ、レジリエンスという意味で合理的な一面もあった32。
政府・国防組織による競争の構造化と質的優位(精密攻撃・能力向上)の確保
―非対称な戦場航空阻止能力の開発(2023年後半~)
2024年に入り消耗戦は長期化する兆しが見られた。ウクライナは兵員不足や弾薬等の補充の遅延に苦しみ、東部戦線などでロシアの攻勢に耐える状況が続いた33。またウクライナ、ロシア双方ともドローンの使用量を増加させ、戦闘の焦点は膠着した前線からその背後地への攻撃にシフトした34。この際、数的優位にあるロシアの攻撃に対して質的優位を確保するべく35、ウクライナでは固定翼FPV攻撃ドローンや迎撃用ドローンなど損耗許容性を前提とした精密攻撃/迎撃ドローンの開発が進められた36。また航続距離の延伸や高度なナビゲーション・電子戦対抗技術の適用など、遠距離攻撃に必要な中核能力を更に向上させたドローン37を開発しロシア領内のインフラ等への攻撃を強めた38。
これらのドローンの生産では、各企業が顧客である部隊や組織の運用ニーズに応える事に注力したことで、部品やソフトウェアのカスタム化が進んだ。このように各企業が分散的に開発投資を行うことは、漸進的なソリューションを提供するには適していたが、大きな産業基盤を有するロシアに対して質的優位性を維持するための国家レベルでのイノベーションを実現するためには非効率な面も指摘された39。
この混沌としたエコシステムの現状に対してウクライナ政府は、有望企業を特定し、技術評価基準の共通化を図ることで、市場競争の適切な構造化を試みた。デジタル変革省は2023年4月に「Brave1」を発足させ、2024年より本格的に開発支援プログラムを推進し始めた40。同プログラムは防衛テックを対象に資金援助、試験・評価、軍事専門知識へのアクセスを一元的に提供するもので、品質向上を支援してプロトタイプを実戦配備に耐えうるレベルにまで成長させる「アクセラレーター」の役割を果たす事を期待された。また2025年からは、Brave1が検証済みの多様なドローン及び関連ソリューションに軍関係者がアクセスし、メーカーを選定することで、マッチングの効率性向上を目指した「マーケットプレイス」も創設している41。
部品・サブコンポーネントメーカーに対しては、上述のBrave1がウクライナ・スタートアップ基金(USF)と連携して助成を行っているほか、戦略産業省が完成品メーカーとのマッチングを促進するために「コンポーネント・ライブラリー」を立ち上げ、Brave 1もマッチング商談会を開催するなど、部品等の国産化、共通化を促進する施策が講じられている42。このように、インターフェイス適合的なモジュールやアプリケーションを普及させることは、技術開発の在り方をオープン・アーキテクチャ型へと発展させることにつながり、製品開発だけではなく運用の面でも効率化が期待できる。
基盤ソフトウェアの開発については、政府・国防組織が自主的、個別的な活動を取り込むことでエコシステムの形成が進んだ43。上述の「Delta」は様々なセンサーから得られる情報を共有する基盤として、ウクライナにおけるドローンの技術的、戦術的進歩に大きな役割を果たしている44。Deltaは2015年に個人や民間などからの資金で運営されるボランティア組織「Aerorozvidka」によって開発された45。その後同組織はウクライナ軍に正式な部隊A2724として編入されたが、スタートアップに似たフラットな階層性とオープンな文化を採用していた事もあり、運営方針を巡る見解の相違から部隊は解散され、再びNGOとして活動を継続していた46。しかし2022年のロシアによる全面侵攻を受けて、ウクライナ国防省はDeltaが果たす役割の重要性を再認識し、2023年2月、情報共有プラットフォームとして正式に同システムを採用し、その管理と開発は新設された「防衛イノベーション・開発センター」が行う事となった47。また2024年6月にはドローン戦を専門に統括する「無人システム軍(Unmanned Systems Forces)」が設立され、政府・軍が関与しフィードバック・ループを駆動させる体系的な仕組みが整備された48。
フィードバック・ループの高度化と運用情報の一元管理49
―キルゾーン形成と防衛線縦深化を支えるデジタル基盤の採用(2025年~)
2025年3月、ウクライナ国防省は前線に「ドローン・ライン(Drone Line)」を構築する方針を発表した50。これは戦線周辺の空域を航空偵察ドローンが常時監視し、目標を発見し次第、即座にFPVドローンが攻撃するようなキルゾーンの形成を目指す構想で、車両等の視認性の高い手段での移動が困難となった51。また副次的効果としてウクライナ側は防御陣地の縦深幅が広がることで戦力を分散配置することが可能となり、量で勝るロシアに対して、前線における兵力密度の低さを補うことを目指すものであった52。
偵察ドローン・センサーと攻撃型ドローン・火砲等を連携させて視界外から敵を消耗させる戦術は、これまでも採られていたが、ドローン・ラインの構築は、その運用方針を広域にわたるネットワーク中心型のアプローチに転換させることを目的とした53。しかし、異なる環境の下で活動する1,000クルー以上の操縦士らが効果的に戦闘を継続するには、統合的な管理システムの導入と並行して、部隊が引き続き各々の状況に適した機能・特性を持つドローンを運用できるよう、柔軟性の有る調達制度の構築が必要であった54。
上述のProZorroを通じた調達に関しては、例えば、納入業者の資格登録の継続性を担保する「枠組み協定」などの改善策が進められていた55。しかし中央集権的な複数年契約では急速に変化する前線の戦闘状況に柔軟に対応する事には限界があった。このため2025年7月にDOT-Chainという新たな取り組みが開始された56。これは国産ドローンや同部品・ソフトウェアに関して国防調達庁が各企業と、仕様、価格、納入について統一的な契約条件を定め、旅団レベル毎に利用可能なクレジットを配分して、各部隊が独自に発注を行うことができるマーケットプレイスで、集権的な契約と個別の選定を組み合わせた柔軟性のある調達システムである57。この制度を通じて部隊と特定のメーカーは継続的な相対取引関係を持つ事が可能となり、各戦線固有のニーズ、教訓をただちに設計変更へと反映させる迅速なフィードバック・ループが形成され、その学習・改良サイクルはわずか6週間というスピードで回っていると報告されている58。
フィードバックの洗練化を促す制度構築も進んでいる。上述のBrave1は、軍・国防省、国防情報研究所、米Palantir社と協力して、ロシアの攻撃ドローンを探知・迎撃する自律性技術を開発するのに必要な実戦データを含んだ情報環境で、国内メーカーが人工知能モデルを訓練できる「Brave1Dataroom AI」を開設した59。また2026年1月には、Deltaシステム内で、全軍のドローンの運用を統合管理するアプリケーション「Mission Control」の導入が完了し、作戦計画の調整と全般状況の把握においてデジタル化と情報管理の一元化が進められている。
防衛テックの成長(中・長距離攻撃ドローン)と外国政府・企業の関与
―継戦能力消耗戦・兵站封鎖を実現する民間企業の技術開発(2025年後半~)
これまで特殊作戦の一環として散発的に行われてきたロシア領内に対する攻撃は、2026年以降、ロシアの継戦能力の消耗を目的とした「40日間」作戦として継続的に展開され、攻撃目標も戦略アセット中心に変化した60。ウクライナは2025年上旬より前線から1000キロ以内に位置する石油施設等に対してミサイル及びドローンを使った攻撃を行ってきたが、同年8月には約1800キロ離れた軍需産業施設へのドローンによる攻撃を成功させ61、さらに2026年7月には長距離ドローン「FP-1」が2500キロ以上離れたシベリアのオムスク製油所への深部攻撃を成功させることで、国土の縦深性というロシアの比較優位の無効化を示すメッセージを送った62。またクリミア半島の孤立化を狙った作戦では「FP-2」やカルバー=GLEFA「ベヒモス(Behemoth)」といった弾頭重量(ペイロード)を強化した中距離攻撃ドローンが燃料施設、橋梁といった兵站拠点、補給線への攻撃に使用されたと見られる63。このウクライナの作戦の進化を可能にしたのが、防衛テックによる技術力の向上であり、その背景には内外からの投資拡大による資本力の増強と外国企業との技術提携があった。
防衛テック分野への国内投資額は2023年時点では1000万ドル未満であったが、2025年にはBrave1を通じた助成金だけでも1億2900万ドルに達した64。上述のFP-1、FP-2を生産する新興防衛テックの一つであるファイア・ポイント(Fire Point)社も政府・治安組織からの大型受注をきっかけに経営規模を拡大し65、その利益を開発に再投資することで成長を続け66、現在の企業価値は60億ドルとされる67。またウクライナ政府が外資に対して投資機会を認めたことで、新興防衛テックの資本力強化が図られた。複数のドローンを協調させる「スウォーム(群れ)技術」を開発するSwarmer社は、2025年9月に米国とウクライナから1500万ドルを調達したと発表、翌2026年には米国新興企業市場でIPOが実施された68。その結果、Brave1が形成するエコシステムのメンバーである同社は、現在、その本社を米テキサス州オースチンに移し、エンジニアリング拠点をウクライナとポーランドに構える多国籍企業に成長した。
西側諸国・企業側からも様々な目的でウクライナへのアプローチを強化している。米国は実戦で使用する機会と教訓情報を求め、協力的に関連装備・技術を提供している69。例えば米国ペレニアル・オートノミー社の迎撃ドローン「メロプス」はウクライナでの運用を経て技術改良され、ホルムズ危機においては米軍として初めてドローンによるシャヘドの撃墜に成功している。また同社の小型の中距離攻撃ドローン「ホーネット」は、低価格でありながら低高度飛行性やAI終末誘導、抗電子戦多層通信システム等を備えることで目標到達性の向上が図られており70、2025年春頃から本格化したドネツクの補給路での車両攻撃に使用され兵站封鎖作戦に貢献した。同機は米陸軍での対抗訓練やウクライナとNATOとの合同演習で使用されており、対抗部隊(OPFOR)による実践的な能力構築に役立てられている71。
欧州諸国は軍事支援の一環としてウクライナ防衛産業への投資を推進する「デンマーク・モデル」を通じた関与を強めている72。2026年3月、ウクライナ政府は欧州10カ国への輸出が承認されたことを発表、同年7月にはEUとの間で、「ドローン協定」が署名された。同協定に基づいて、欧州・ウクライナの「創設メンバー」19社がドローンの開発・生産拡大に向けた共同プロジェクトを立ち上げる計画である73。上記の「創設メンバー」にも名を連ねるドイツのQuantum Systems社はウクライナのフロントライン・ロボティクス社と提携関係を結び、ウクライナ工場でのドイツ製ドローンの製造を開始し74、一方でウクライナ製の多機能ドローンQFI「リンザ(Linza)3.0」をドイツの生産施設で生産している。このリンザ3.0は2026年2月にウクライナ軍に初納入され、同年末までに1万機が引き渡される予定とされる75。
ウクライナ支援に積極的な英国は2024年1月にウクライナと間で「安全保障協力協定」、2025年1月には「100年パートナーシップ」を結び、2026年4月に開かれたウクライナ防衛連絡グループ(UDCG)会合では、総額55億ドルの軍事支援枠組のうちドローンに割り当てられる15億ドルの枠組みの中で、英国は12万機以上のドローンを供給すると発表された76。
英国は企業レベルでもいち早くウクライナとの協力を進めており77、2025年には英国Prevail Partners社とウクライナのSkyeton社の合弁企業が、長距離固定翼偵察ドローン「レイバード(Raybird ) /ACS-3)を製造する拠点を英プリマスに建設78、また英国企業とウクライナのUkrSpecSystems社との合弁企業が英ミンデンホールに製造拠点を設立したと報じられた79。2026年3月に表明されたウクライナとの「安全保障・防衛産業における協力強化宣言80」では、共同生産・開発の促進、部品供給や大規模生産の支援強化などに加えて、その成果の第三国への展開が言及され81、他方で、2026年8月にはロシア領内への縦深攻撃に英国製ドローンが初めて使用されたと報じられるなど82、ウクライナとのサプライチェーンの一体化が進んでいる。同年6月に発表された英国国防投資計画には、国内投資によるドローン産業等の新興防衛生産基盤の強化や英国軍における「ドローン変革83」の促進といった目標が掲げられており、ウクライナとの積極的な関係強化の背景には、自国の国防投資を推進する狙いもあると考えられる。
NATOと関係では、Brave1と共同イノベーションプログラムとしてUNITE「Brave-NATO」と名付けられた技術コンテストが立ち上げられ、ウクライナとメンバー国企業が自律型ドローンを含む防衛製品を共同開発するための協力枠組みが構築されている84。
おわりに
現在、ウクライナではドローンの輸出は個別許可が必要とされているが、2026年に入り、戦時初の輸出申請が承認されたと発表された85。また同月に発生したホルムズ海峡危機の際には湾岸諸国へドローン対策の提供について報じられるなど86、ウクライナはドローンに関して高い技術的、戦術的能力を有するキープレーヤーとして認識されるようなっている87。
ボランティアに支えられた草の根的な活動から始まったウクライナのドローン生産は、登録手続きや利益率等の規制改革によってスタートアップに新規参入のインセンティブを与え、競争を促進し、生産量の急拡大を実現した。他方で供給市場が過度に分散化しないようデジタル基盤や技術評価を適切に管理し、型式の多様性と生産の効率性を両立するエコシステムの構築に成功した。そして、国内防衛テックの成長が確認されると、外国政府や企業に対して、資本投資や実戦での使用機会、教訓情報へのアクセスを認めて、国内で不足している技術や資金の取り込みを図った。これはグローバルなエコシステムとの一体化を通じて、支援を受けつつサプライチェーンの戦略的自律性を高めることに成功した事例と見ることができ、継戦能力のあり方を考える上で重要な示唆を与えるものである。
各国ではドローンに関する防衛産業基盤の育成に向けた取り組みが進められているが、ウクライナのドローン・エコシステムの発展過程は、新興技術・両用技術に係る国防イノベーション・マネジメントを理解する上で有益な視座を提供しており、引き続きその動向を注視する必要がある88。
Profile
- 富川 英生
- 政策研究部グローバル安全保障研究室長
- 専門分野:
産業政策・イノベーション