NIDSコメンタリー 第360号 2025年1月24日 防衛産業展示会から見る韓国防衛産業の現在 —— 韓国防衛産業展示会報告
- 理論研究部 社会・経済研究室 研究員
- 清岡 克吉
執筆者は、2024年9月26日から同年10月4日にかけて、韓国で行われた陸軍種を中心とした防衛産業展示会2件(DX-KOREAおよびKADEX)の調査研究を主たる目的とした出張を行った。本コメンタリーでは、今回の出張で得られた韓国の防衛産業展示会の模様や、防衛産業のトレンドや個々のイシューを中心に紹介したい。また、本稿は、防衛産業展示会というイベントにあまり馴染みのない読者を広く想定し、最初に①防衛産業展示会とは何か、その意義は何かについて確認し、そののちに②韓国の防衛産業展示会の概要について概観し、③そこから見えた韓国の防衛産業を取り巻くトレンドについて紹介する。韓国防衛産業展示会の報告については3ページ目の第2項まで読み飛ばされたい。
(※本稿は、あくまで防衛産業展示会から見るトレンドを紹介するものであり、必要に応じて個々の企業への言及を行うものの、それらの企業利益を代表するものではない。また、本コメンタリーは一切の商業活動への助言を企図するものではなくその責を負わない)
1. はじめにー防衛産業展示会とその意義
今回、執筆者は韓国で行われた「防衛産業展示会」の現地での調査研究を行った。その詳細について紹介する前に、そもそもではあるが「防衛産業展示会」とは何か、またその意義について確認しておきたい。
近年、わが国においても「DSEI-Japan1」や「RISCON/SEECAT2」をはじめとした防衛産業等に携わる企業が数多く出展する展示会が少なからず開催されている。また、諸外国においても本稿で取り上げる韓国をはじめ、英国や仏国、米国など幅広い国で同様の展示会の開催がみられる。直近では、2024年6月に仏国で行われた欧州最大級の展示会である「ユーロ・サトリ3」がその代表例である。平たく言ってしまえば、「東京モーターショー」などの展示会の防衛産業版という表現がわかりやすいかもしれない。
「防衛産業展示会」そのものに、確定した定義や形式があるわけではない。例えば、世界の防衛産業展示会をまとめるサイトを見ても、そのイベントの幅は、陸・海・空の各ドメインに特化したものから、電磁波やサイバー分野に特化したもの、さらには個人用銃器や刃物に特化したもの、それらをすべて総合したものなど、多岐にわたるイベントが掲載されている4。また、それらの中には、米陸軍協会主催のAUSA年次総会および博覧会5などの、軍関連の団体の会議やシンポジウムに併設されるものや、ファーンボロ航空ショー6のように大規模な航空機の飛行展示が催されるイベント等もある。このように多様なイベントの在り方があるものの、本稿での「防衛産業展示会」の定義としては、「防衛産業企業が多数出展するイベントのうち、オーディエンスおよび出展者の対象を国際的に設定しており、国家の軍事組織をその主たる顧客として構えるイベント」というものとしたい。
次に、防衛産業展示会の意義について簡潔に整理したい。まず、「出展者側」にとって、防衛産業展示会は商談の場としての重要な役割を果たしている。「IDEX(国際防衛展示会および会議:アラブ首長国連邦)7」や「Seoul ADEX(ソウル航空宇宙・防衛産業展示会)8」などの大規模な展示会では、実施報告書に成立した商談の件数や契約金額が明記される場合もある。また、必ずしも商談や契約締結を直接の目的としない場合であっても、各企業にとって、自社製品群のコンセプトや、どのような戦術的優位性を防衛産業の唯一の「顧客」である国防当局に提供できるかを示す貴重な場となる。たとえば、【写真1】に示すように、出展企業が売り込み対象の軍隊の「戦術思想」や「ドクトリン」を戦略・政策文書や関係者からの聞き取りを通じて分析し、自社製品の付加価値を提案する姿勢がその展示方法からもうかがえる。
さらに、防衛産業展示会は、国家調達市場への参入を目指す企業にとって重要な足掛かりとなりうる。国家調達契約は一般に契約金額が非常に大きい一方で、いずれの国でも参入障壁が高く、既存の主要防衛メーカー(プライムメーカー)以外が新規参入することは困難とされる。しかし、防衛産業展示会には開催国および諸外国の軍高官が多数来場するため、新規参入企業にとっては潜在的な契約先と直接接触できる貴重な機会となる。たとえば、執筆者が今回調査した韓国の防衛産業展示会には、このような動機で参加する非伝統的な防衛技術関連企業が多数出展していたことが確認できた。
一方で、防衛産業展示会は「観覧者側」にとっても多くの示唆を提供する。第一に、その国の防衛装備トレンドを把握できる点が挙げられる。防衛産業展示会には各企業が注力する製品が集中的に出展されるため、会場を一巡することで、その国が現在どのような技術や装備に注目しているか、あるいは注目すべき必要があるかを比較的容易に把握することができる。これは各国の政策や戦略文書を通じて把握するよりも、視覚的かつ直感的に技術の最前線を捉える手段として有効である。また、展示会では基本的に最新の技術や装備が紹介されるため、参加者にとって技術革新の動向を理解する有益な機会となる。
第二に、展示会では製品や技術を直接確認できる点も重要である。多くの場合、企業の説明員が配置されており、展示された製品や技術に関する詳細な情報を直接得ることが可能である。これにより、カタログやウェブサイトを通じた情報では得られない、製品の運用性や適用可能性に関する具体的な知見を得ることができる。多くの場合、諸外国での防衛産業展示会には英語に堪能な説明員が配置されており、コミュニケーションが比較的容易であるほか、今回参加した韓国のKADEXでは、日本語に精通した説明員も散見された9【写真2】。
【写真1】たたかい方のコンセプトをベースとした展示
(KADEX2024におけるKAIの展示ブース)
【写真2】展示場と説明員の様子
(KADEX2024におけるLIGの展示ブース)
(執筆者撮影。なお、本稿で使用される写真は特に断りのない限り撮影は執筆者による。)
2. DX-KOREAおよびKADEXの概要
今次の調査研究では、韓国の陸軍種を中心とした防衛産業展示会である、「DX-KOREA」と「KADEX」を訪問した。個々のトレンドを紹介する前に、まずこれらのイベントの概要を紹介したい。
- ① DX KOREA
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DX KOREA(Defense Expo Korea)は、韓国防衛産業協会(KDIA)と韓国陸軍協会(AROKA)が共同で主催する防衛産業展示会である。この展示会は、韓国の防衛産業製品と技術を国際市場に紹介し、輸出促進と国際協力を強化することを目的に開催されている10。DX KOREAは2014年に初めて開催され、以降隔年(偶数年)で開催されてきた。最新のDX KOREA 2024は、2024年9月25日から28日まで、ソウル市の西に隣接する京畿道高陽市の国際展示場である「KINTEX」で開催された。DX KOREA2024には、韓国国内から約150社と、アメリカ、ルーマニア、ベトナムなどの15カ国から28社の多岐にわたる防衛関連メーカーが出展し、最新の防衛技術と製品の展示が行われた11。
本展示会では、地上装備品を中心に、情報通信、無人システム、セキュリティ機器など多岐にわたる分野の製品と技術の出展が見られた。DX KOREAは、各国の防衛関係者や企業とのビジネスマッチングの場としても機能していたほか、防衛技術や装備動向に関するセミナーも開催されていた(韓国語のみでの開催)。報道によると、韓国企業と韓国外のバイヤー間で140回余りの商談が行われ、商談成約額は合計1億2000万米ドルに及んだとされる12。
本展示会が開催されたKINTEXは市を跨ぐもののソウル郊外の、公営の中距離バスで1時間弱の場所にあり、幕張メッセ(千葉)やインテックス大阪(大阪)に非常によく似た雰囲気であった。会場の受付には英語での対応が可能なスタッフが配置され、当日の入場受付も対応していた。

【写真3】DX KOREA会場の様子
詳しくは後述するが、主催団体とAROKAの間で後援・公認をめぐる軋轢があり、本展示会には、現代ロテムやハンファなどの韓国国内のプライムメーカーが参加しないという異例の展示会となった13。海外メーカーの出展もプライムメーカーレベルでは少なく、「スイッチブレード」などの徘徊弾薬や無人航空機を製造する米国企業であるAeroVironment社や、イスラエルのOrbit Communication Systemsなどが見られたが、AeroVironment社は少なくとも執筆者が参加した展示会2日目以降は説明員を配置しておらず、DX KOREAの次の週に開催されたKADEXでの展示陣容と比較すると企業が投入する資源に大きな開きが認められた。また、DX KOREAに出展した企業は、KADEXにも重ねて出展するという企業が多く見られた。とはいえ、中小企業をはじめとする韓国防衛産業を支える多くの企業の展示が見られたほか、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)や、韓国防衛産業学会 (KADIS)14などの防衛産業を支える公社や団体のブース出展が見られた。
DX KOREA は、4日間すべてが商談を目的とした日程というわけではなく9月25日(水)から27日(金)までの3日間が「ビジネスデイ」、28日(土)が週末であることもあり「パブリックデイ」に設定されていた。実際に、開催最終日の「パブリックデイ」には、子供連れの家族や友人同士で連れ立って会場を訪れている人々の姿も見られた。
- ② KADEX
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KADEXは、正式名称を「韓国陸軍国際防衛産業展示会」といい、韓国中西部に位置する大田広域市郊外の忠清南道鶏龍台において4日間にわたって開催された。開催地の鶏龍台は、韓国軍の各軍種(陸海空軍)の司令部が置かれており、加えて、KADEX公式サイトによると、韓国南部に集中する防衛産業にとってもおおよそ中間地点のハブとなる場所であるとその意味合いが説明されている15。また、KADEXもDX KOREA と同様に、主に陸軍種を中心とした防衛産業展示会であり、「K-Defenseを代表する兵器システムから効果的な戦闘のための電力支援システム(非兵器システム)まで、韓国の防衛産業製品を総合的に展示」するものであるとの位置づけがなされる16。
KADEX2024では、主催者発表によると、500社を超える出展者が計1,600のブースを出展したとされている。それらの出展者は、「①情報(Intelligence):電子戦支援装置、監視レーダーなど」「②C3(Command Control and Communication):指揮統制、通信」「③機動(Mobility):戦闘/非戦闘車両」「④火力(Firepower):小火器、火砲、各種弾薬」「⑤防護(Protection):対空ミサイル、CBRN防護」「⑥航空(Aviation):無人/有人の各種航空機」「⑦支援(Support):個人装備、戦闘糧食、衣食住等」「⑧将来戦技術(Future Technologies):AI、ロボティクス、ICT、無人化技術」の8つのテーマに分類された。 主要な出展企業としては、韓国からは現代ロテム、LIG、KIA、ハンファシステムズ、KAI、Poongsan(弾薬)などの企業が、韓国以外の海外からは、SAAB(スウェーデンの重工・防衛企業)や、AV(米国のUAVを主力とする企業)、WBグループ(ポーランド最大の民営防衛産業企業)などの出展が挙げられる。
KADEXでも、DX KOREA同様、開催言語は韓国語がメインであるが、韓国の防衛産業界や、研究開発団体、技術動向に関するセミナーが併設された。
なお、KADEXは、2024年に初めて開催された新たな展示会である。それ以前においては、陸上装備展示会は1996年の「ソウル航空宇宙ショー」に端を発する総合防衛展示会である「ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会(ADEX:奇数年にソウル軍用空港で隔年開催)」がその一角を担っていたほか、2014年以降は前述のDX KOREAがその役割を担ってきた。報道によると、今まで陸軍種の装備展示会の役目を担ってきたDX KOREAの主催者団体とAROKAが開催の仕方をめぐって対立し、DX KOREAの後援を取り消したのちに、独自に立ち上げたものがKADEXであるという経緯があるとされる17。結局、2024年はDX KOREAもAROKAの後援を維持した形では開催され、KADEXと並行して開催されるという形になったが、来年以降の韓国の陸軍種の防衛産業展示会の開催の在り方は未定であるとの見方もある18。さらに余談ではあるが、韓国では海軍種に関する装備展示会として、「国際海洋防衛産業展示会(MADEX:奇数年にプサンで隔年開催)19」があり、陸・海・空軍の展示会がそれぞれ存在するかたちになっている【図1】。これらの1990年代からの防衛産業展示会は韓国の国防力の近代化と輸出志向型産業の育成の志向と強く結びついている20。
【図1】韓国の防衛装備品展示会一覧
(出所)前掲注の各装備展示会のサイトを基に執筆者作成。
※本図は各展示会の来歴を示すものであり横軸(年代)の長さの間隔は必ずしも正確ではない。
KADEXは、前述のとおり大田広域市郊外の忠清南道鶏龍台で行われたが、大田広域市まではソウル駅から韓国の高速鉄道であるKTXを利用しておよそ1時間、そこからKADEXの運営が用意したバス等を利用して約40分の場所であった。鶏龍駅周辺も決して不便ではない町ではあったが、もともとイベント会場ではなく、軍の司令部として運用されている場所であること考えると、外国人が訪問するには決して便利とは言えないかもしれない。実際、執筆者も最初はスマートフォンを片手にかなりの手探りでの訪問となった。
KADEXは、開催地が軍の施設という土地の広さを生かし、現有装備品の屋外展示や走行展示がなされていた。屋外展示には、韓国陸軍の主要装備だけでなく、在韓米軍の陸上装備品(例えばペトリオットのミサイル発射機やM270多連装ロケットシステムやM1135 NBCRV等)が展示された。防衛産業関連の企業のブース展示は、普段は滑走路として運用されている場所に設置された巨大なテント【写真3, 4】のなかで行われていた。1ブース10分ほどで話を聞きながら回ったとしても、1日では回りきれない規模であった。
KADEXも必ずしも防衛産業に関する商談一辺倒のイベントというわけではなく子供向けの、宇宙開発に親しむための展示や、各軍種による体験コーナーが設けられていた。また、韓国空軍のアクロバットチームや陸軍の対戦車ヘリコプターによる飛行展示なども行われた。こうしたこともあり、開催期間中特に週末の2日間では、家族連れの参加が非常に多くみられ、前述の屋外展示を含めて、国民の防衛に関する知見の涵養の場としても機能しているように見えた【写真5】。次回のKADEXは2026年10月に予定されている。
【写真3】メイン展示場のテント
【写真4】子供向け展示などが行われていたテント
【写真5】K-9自走砲等の屋外展示。
体験搭乗や記念撮影が行われていた。
3. 韓国防衛産業のトレンド―無人化・省人化と海外輸出・移転
前節で紹介した展示会の会場案内図及び出展者リスト【図2、3、4】を見るだけでも、出展ブースの規模の大きさや出展企業が扱う商品の比重から、韓国の防衛産業を取り巻くおおよそのトレンドが読み取れよう。ここでは、さらに詳しく今回の展示会を通じて見えた韓国の防衛産業の「無人化・省人化」と「海外輸出・移転」の2つの論点に注目してそのトレンドを論じることとしたい。
- ①「無人化・省人化」
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まず、「無人化・省人化」の動きについて取り上げる。韓国軍では、少子化による人員不足の深刻化の認識や北朝鮮からの脅威の高まりを背景に、戦場での無人化や省人化を目指した技術や装備品の導入が加速している21。本展示会からも、その傾向が顕著に見受けられた。「無人化・省人化」と一口に言っても、その目的や手段は多岐にわたる。その代表例として、無人航空機(UAV)および無人航空システム(UAS)の導入に注目したい。本展示会では、無人航空機そのものに関して多様な種類の展示が行われており、それに加えて、設計・開発・生産に関する防衛企業間のエコシステムが構築されつつある様子が確認された。
また、無人航空機に対抗するためのシステムとして、カウンターUAS(CUAS)も注目すべき技術である。本展示会では、企業規模の大小を問わず、多くの出展者がCUASシステムを主要な展示物として取り上げており、その重要性の高まりがうかがえる。以下では、これらの事例について具体的な展示内容を挙げながら詳しく見ていきたい。
まず、韓国の防衛企業のUASへの取り組みは幅広く、前掲の【写真1】からも見て取れるように空軍種に対するソリューションである有人無人チーミング(MUM-T)/ 協調戦闘機(Collaborative Combat Aircraft:CCA)22(=いずれも有人機と連携する無人航空機)の開発に韓国航空宇宙産業(Korea Aerospace Industries:KAI)や大韓航空(KAL-ASD)23が様々な構想を提案しており、KAL-ASDの担当者によると、KUS-LW【写真6】のような、そのうちのいくつかのUASは2025年に試験を予定しているとのことであった。
また、韓国のUAS産業においては、KAIやKAL-ASDのような大企業のみならず、ベンチャー企業の旺盛なアイデアを大企業の生産基盤や技術と結びつけることで製品化をしている例が見られた。その一例として、韓国のベンチャー企業であるUAM Tech社24は、2022年に設立された比較的新しい会社であるが、その主力製品としてUI-5、UI-7、UI-9と呼ばれる【写真7】のような短距離離着陸が可能で偵察や自爆が可能な製品を有している。これらの製品は、設計はUAM Tech社で行い、技術的に高度な部品であるシーカーやその他の工学的知見を大企業であるKAL-ASDから受け取って製造を行っているとUAM Tech社の担当者は説明をしていた。この例からも、新たな製品の実現化と安定的な生産をベンチャー企業と大企業が協業するモデルも見えてくるのではないだろうか。また、韓国の中小企業も含めた無人航空機産業の特徴として、機体の設計と製造は韓国で行い、光学カメラや合成開口レーダーなどのセンサーはイスラエルなどの海外製を導入する形態がよく見られた。
【写真6】KAL-ASDのKUS-LW無人機
【写真7】UAM Tech社の無人機
また、韓国陸軍の無人航空機の導入の動きに注目すると、その動きは構造的には人口減少に直面していることに起因するが25、その他にも、韓国軍全体の近代化のビジョンのなかでのUAS導入の流れや、より直近の動きでは北朝鮮の無人機によるソウル上空への侵入を許した事案を受けたCUAS装備の導入の要請が大きいとされる26。実際に、韓国陸軍が出展するブースへ赴くと、かなりのスペースをUAV/UASの導入やその予定事例の紹介に割いており【写真8、9】、韓国軍担当者によると、やはりUASやCUAS導入の予算が増額されたのは北朝鮮による2022年の無人機侵入事案以降であるとされた。韓国軍のUASやCUASに係る予算の推移は必ずしも公開されているわけではないが、2024年5月に、韓国の国防革新委員会が、高度化している北朝鮮の無人機に対抗し、2026年までの2年間で軍の「ドローン戦力」を2倍以上に増強させる方針を明らかにしていることからもその姿勢が垣間見ることができるだろう27。
さらに、韓国の無人機導入の選考基準について韓国陸軍の担当者は「国産であるという要素は重要だが、UAV/ドローンは消耗品であり、価格や費用対効果が重要である」との旨指摘していた。その言葉の裏付けとして、先述の韓国陸軍によるUAV紹介ブースには基本的に韓国製のUAVのみが展示されていたものの、実際のUAVの導入検討事例には、価格競争力に優れるとされるポーランド製の自爆型ドローン「ウォーメイト【写真10】」の導入が見られる28。
この「ウォーメイト」の製造会社はポーランドの防衛産業企業のWBグループであり、この会社は昨今話題となっている韓国のK-9自走砲のポーランド側でのサブシステムの製造等の分担を請け負うカウンターパートである29。「ウォーメイト」の導入は純粋にウクライナで使用されており迅速な調達が可能であるという純粋な製品の優位性があったとの見方もできるが、韓国政府当局者が、防衛装備品の移転関係は韓国側が売るだけでは成り立たない関係であると発言している旨が報じられており30、あえてポーランド製のUAVを導入したのは、両国の防衛産業間の相互関係の構築を念頭に置いたものであるとみられる31。さらに、同社のドローンが価格競争力にも優れている背景には、オフセット取引的な側面もあるのではないかと類推できる。このポーランドのWBグループの無人機購入の契約の締結は2024年10月4日に本稿で紹介したKADEXの場において行われた32。
CUASについては、大企業のソリューションのほかに、中小企業やベンチャー企業による製品の研究・開発・製造が目立った【写真11】。
【写真8】韓国陸軍のブース
【写真9】韓国陸軍が導入を検討する無人機
【写真10】WBグループ社の「ウォーメイト」無人機
(出所=写真10)Janes, 202433,
【写真11】EBT社のCUAS装備展示
- ②「海外輸出・移転」
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次に、「海外輸出・移転」の取り組みに関して、今回の展示会の主眼である陸上装備においては、上述のポーランドへのハンファ社のK-9自走砲や、現代ロテム社のK-2戦車の移転が注目されるが、その他にもオーストラリアへのハンファ社のレッドバック歩兵戦闘車(IFV)129両の納入契約や、現代ロテム社のK808装輪装甲車30両のペルーへの輸出契約など着実に実績を重ねているといえる。
こうした輸出の成功は、相手国のニーズの把握や、韓国防衛事業庁や大韓貿易投資振興公社など行政・官側の支援制度やトップセールスによるものであるとされるが34、これに加えて防衛産業企業による移転先の相手側のニーズに応える設計変更等も重要な論点となる。例えば、先述のハンファ社は、マレーシアやアラブ首長国連邦でテストを行ったTIGON多用途装輪装甲車両を、当初の6×6の車輪構成から8×8の構成への転換の提案を行ったりしている。また、先述のオーストラリアへ輸出されるレッドバックIFVもオーストラリアのニーズに応えたセンサーや兵装が搭載されるほか、搭載される機関砲の口径も韓国軍のものから変更されている【写真12】。
ここで疑問となるのが、近年輸出で成功しているとみなされる韓国防衛産業企業は、装備開発の段階において、どの程度最初から移転を念頭においているのかという点である。この点について、ハンファの担当者の1人に質問したところ「海外に物が売れるのは、韓国軍への納入と使用実績があるが故であり、海外に販売するものについては現状では基本的に韓国軍に納入しているモデルを購入国が希望するように変形させたり改良したりするのみである。そのため、まずは韓国軍に役立つような製品を作ることがよいと考えている。こうした意見が社内でも多数派であるといえる。ただし、社内全員が同じ発想であるかといえばそうではない考え(=輸出優先の開発)のものもやはりいる。」との回答であった。このハンファ社の担当者の考えは、韓国主要メーカーの国内と海外での売上比率が8:1ないしは7:1であり、まだ国内向け売り上げが依然として大半を占めるという事実からも合理的な考えであるといえるだろう。また、担当者が強調したように、自国軍による採用実績が海外への売り込みの強みになるという点も重要な論点であるといえよう。
【写真12】ハンファ社製レッドバックIFV
4. おわりに
ここまで見てきたように、本稿では韓国防衛産業展示会という切り口から、そもそも防衛産業展示会とは何であり、その意義は何かについて整理し、韓国の防衛産業を取り巻くトレンドについて紹介した。
防衛産業展示会では、防衛を取り巻く様々な課題についてのソリューションが提示されたり、その国の防衛産業を取り巻く現状が如実に表れたりし、さらには現場の声を聞き問題意識を共有できる場ともなっていた。
本稿では特に、韓国政府・軍および防衛産業が注力する「無人化・省人化」「海外輸出・移転」の2つのトレンドにつき、特に今回調査した展示会から読み取れるものを概観した。
また、【図1】で整理したとおり、韓国国内における防衛産業展示会は、1990年代の中葉に端を発し、国際的な展開への訴求力を高めることが念頭にあった35。実際の韓国の防衛装備輸出が花開くのは盧武鉉政権期、2006年の防衛事業庁の発足が契機となるとされるが36、こうした展示会が果たした役割も一定程度認められるだろう。韓国が防衛装備輸出国として注目される現在でも韓国国内で開催される防衛産業展示会は、「防衛外交37」の重要な場となっていた。その証左として、KADEXの開会式には、我が国を含む世界48か国からの代表団が参加し、会場の視察を行っていたほか、カザフスタンやインドが国としてのブースを出展していた 。展示会を行えば、必ずしも「防衛外交」やとりわけ防衛装備の輸出が促進されるわけではないが、数年に1度、各国からの代表団や防衛産業関係者が集う「機会の窓」としての機能は少なくないだろう。
最後に、本稿で取り上げた企業や事例はそれぞれの防衛産業展示会のほんのごく一部であり、それは展示ブースの全数がDX KOREAとKADEX合わせて1,553カ所であることからも明確である。また、同じ展示会であっても観る人それぞれに違った論点が見えるはずである。「百聞は一見に如かず」とのことわざの通り、国内外の様々な展示会に足を運んでみられてはいかがだろうか。
【図2】 DX KOREA会場図
(出所)DX KOREA2024公式サイトより引用(https://www.dxkorea.org/en/index.asp)。
【図3】 DX KOREA 出展企業一覧
(出所)DX KOREA2024公式サイトより引用(https://www.dxkorea.org/en/index.asp)。
【図4】 KADEX会場図
(出所)KADEX2024公式サイトより引用(https://kadexaroka.com/eng/)。
Profile
- 清岡 克吉
- 理論研究部 社会・経済研究室 研究室
- 専門分野:
防衛産業・装備政策、技術と安全保障、軍備管理